魔力切れ
遅くなってすいまえんでした。
新章の展開は大体決まってきています。あとは書く時間…
ビゼンの案内に従い、急いで魔力を感じたという場所に向かう。もしかしたら一刻を争うかもしれない。そう思い、ベレッタを抜き、ブースターを発動させる。
--パスンッ。
「へ?」
間抜けな音を立てたベレッタを見て、俺も間抜けな声を出してしまう。どうやら本格的に魔力が練れないようだ。これから戦闘になるかもしれないのに参ったな。
「マジかー。こうなったら剣術で戦うしかないな。」
今更嘆いても仕方ない。しかももう一本は先のフラッグ戦で折られてしまっている。今手元にあるのはビゼンのみだ。
『大丈夫、それほど大きな魔力は感じないし、魔物の気配も薄いよ。最悪逃げればなんとかなるかも。』
と、ビゼンが話しかけてくるが、辿り着いてしまったら見捨てて逃げるなんてことが出来るだろうか。
「とりあえず着いてから考えよう。今はとにかく急ぐ。」
『分かったよ。じゃあ僕の力も少し貸してあげるね。と言ってもコウの体内から砂を無理やり押し出して器に隙間を作る程度だから長くは続かないし。もしかしたら身体に異常が出るかもしれないけど、酷くならないようにするから勘弁してね。』
「そんなことが出来るのか。」
なるほど、精霊と意思疎通が出来ればこういう特典もあるのか。ただ最後の方がちょっと不安だが、それは後で後悔することにしようか。
「分かった。頼むよビゼン。」
『了解ー、それじゃあ風属性を身体に付与するよ。さっきも言ったけど長くは続かない。一時的な物だからね?』
「構わない。頼む。」
そう返した直後、身体が急に軽くなった。アランやイガさんがライトニングを使っている時もこんな感じなんだろうか。
「おお、こりゃいいな。」
『ほら早く、時間もないんだから。』
そうだった。とにかく目的の場所まで猛ダッシュだ。
まるでブースターを発動しているかのような速度で駆け出す俺。この状態が続けられるならブースター使わなくてもいいなあ。あ、でも空は飛べないからそうとも言えないのか。
そんなことを考えながらひたすらに走る。そして目の前にちらほらと建物が見えてきた。どうやらあそこが目的地のようだ。
「くそっ倒れろっ! 倒れろよ!!」
女性の声が聞こえてきた。どうやらすぐ近くみたいだ。
「ほっほっほ、嬢ちゃんもまだまだじゃのぉ。ほれ、弾幕が薄くなっとるぞい。」
ん? なんか様子が変だぞ?
「あああもおおおお!! また尻触りやがったなこの変態ジジイ!! 早く倒れろよおお!!」
「いかんぞ、年頃の娘がそんな言葉遣いをしては。女性はその胸のように慎ましやかでなくてはのう。」
「小さいって言うなあああ!! もう絶対殺す!! コ・ロ・ス!!」
うん、どうやら俺の勘違いだったようだ。エロジジイと孫が遊んでるだけか。
よく見れば女の方がファイアボルトを連発してるみたいだが、ジジイはそれを全部かわして女の尻を触って離れるという行為を繰り返しているだけのようだ。なんだあの風景。なんかの修行か?
「ハァ、ハァ。クソジジイ、覚えてろよ……」
「そう言ってもう何年経つかのう。わしゃ魔法ばかりは苦手じゃから実戦形式でしか教えられんわけじゃが……昔から言っておるが剣なら教えられるぞ? そろそろ魔法は諦めて剣の道に……」
「い・や・だ!!」
「むう、困った孫じゃのう。」
ジジイは剣術家なのか。道理で魔法をヒョイヒョイかわしてるわけだ。つってもあれじゃなぁ。ただ魔法撃ってるだけだし、他に前衛がいるならともかく、一人で動きの早い相手と戦うなら魔法を撃つにしてももうちょっと動かないと。
「ん? なんじゃお主? ここらじゃ見ない顔じゃのう。」
と、唐突に声をかけられる。結構距離があると思ったけど俺に気づいてたか。本当に実力のある爺さんなのかもしれないな。
「え? ああ悪い。別に覗き見るつもりじゃなかったんだけど、迷って歩いてたらここに辿り着いたんだ。別に怪しいもんじゃないよ。」
「自分で怪しい者ですなんて言う奴は見たことはないがのう。特にこの辺りに来る物好きなぞ見たこともないわい。お主、何者じゃ?」
「俺はコウ。王都で冒険者やってたんだけど、色々あって転移させられたんだ。で、ここがどこかも分からずに彷徨ってるってわけ。」
「王都から転移、のう。そんな魔法が使える人間も聞いたことないし、ますます怪しいのう。」
「いや、そう言われても実際そうだし……」
説明が難しい。フラッグの話なんてしても余計怪しいし、ビゼンの存在なんてもってのほかだ。困ったなぁ。
「それにその刀、ここらじゃそんなもん腰に提げとる人間はおらんわい。どれ、ちょっくらジジイの相手でもしてもらおうかの。」
「は? いやいやなんでそうなる?」
いくらなんでも急すぎるだろ。そもそも戦う理由がなさ過ぎる。
「クソジジイ! なにいきなり初対面の人にふっかけてんのよ!!」
「クソジジイって……おじいちゃんは悲しいぞい。」
言葉遣いはともかく、孫からの常識的なツッコミに悲しむ素振りを見せる爺さん。なんなんだ一体?
「まぁ別に因縁をつけたわけでもないぞい。ワシにも確かめたいことがあるでな。若いの、コウと言ったか。スマンが少しでいいから相手をして貰いたい。」
「うーん、まぁそうしないと信用して貰えないっていうなら少しくらいは、それにこれ真剣だけど大丈夫なのか? 爺さんはお孫さんの相手で木剣しか持ってないだろ?」
「ほっほっほ、心配いらんぞい。まだまだ若いもんに負けるつもりもないしの。」
相当な自信があるようだ。となれば一応油断せずにかかるとするか。あ、でも今はビゼン一刀しかないな。
「それじゃ準備は良いの? 行くぞい。」
ビゼンを抜いた直後、爺さんがものすごい速度で迫ってくる。
「ちょっ!」
慌ててビゼンを構えて爺さんを迎撃する。大丈夫、確かに早いが見えない速度ではない。魔法が使えない以上、ラピッド等の緊急回避は難しい。ここは受け流してカウンターを……
「ほっ! 体格で劣っておる相手の剣を受け流すか。青いのう。」
受け流そうとした俺の剣をすり抜けるように、爺さんの剣が眼前に迫る。
「なっ!?」
慌てて横に飛び退く。今のは一体どうやった? ちゃんと見えてたし、剣の角度がおかしかったわけでもないはず。
「ふむ、今のはかわすか。動きは悪くないのう。それに受け流すこと自体は悪くないが、ワシ程度の剣ならお主くらいの力があれば弾き飛ばすことも出来たじゃろうて、なんでそうせん?」
そうは言っても今まで剣術で戦ってきた相手がなぁ。
「あいにく自分より力のない相手と戦ったことがないんでね。むしろ俺の倍くらい筋力のある相手ばっかりだったよ。」
「なるほどのう。足りんのは経験か。惜しいのう。」
話しながらも爺さんは俺に斬りかかってくる。俺も負けじと斬り合いに持ち込もうとするが、何故か爺さんの剣が俺に届く方が速い。
結果、俺は中途半端な攻撃をしては回避するという動きばかりで、この調子だと俺の方が先にスマミナ切れを起こしそうだ。
「くっ、なんで爺さんの攻撃がこんなに速いんだ。」
「ほっほっほ、年季が違うというやつかのう。」
見ている内に少しずつ分かってきたが、爺さんの攻撃には予備動作がない。構えた位置からそのまま剣が最短距離を走って飛んでくる感じだ。
「それにしてもお主の動きはこうなんというか、ぎこちないのう。本当に剣士か?」
「あいにくだが俺は魔法師だ。それに言い訳くさいが本来は剣を二本使うんでね。一本は久々なのは本当だよ。」
「なるほどなるほど、魔法師でその動きなら上等じゃのう。うちの孫にも見習わせたいくらいじゃわい。」
チラリと爺さんが孫を見る。あ、孫は孫でちょっと悔しそうな顔してる。
「しかし双剣士か、だったら話は早いの。双剣士同士、もう少し剣を結ぼうではないか。」
待て、今なんて言った? 双剣士同士だと?
「爺さんも二刀流なのか? にしては一刀でも全く動きに淀みがないじゃないか。」
「これでも長いこと剣を振ってるでな。行き着いた先は一刀でも二刀でも基本は同じ、というところじゃのう。」
なんだただの達人か。
--それから俺と爺さんは半刻ほどの間、剣を打ち合っていた。もちろん結果はボロ負けだったわけだが。
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