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思い出話-後編-

なんとか後編でまとめました。

「さて、どこまで話したっけ。」


 ジョッキをテーブルの上に置き、誰ともなく声をかける。


「確かイガラシとコウが出会ったところまでは聞いたな。」

「そうだったそうだった。で、イガさんとの出会いっていうかこの人酷くてさぁ。あの時俺六歳とかだったのに、本気でいくとか言うんだもの。いくらなんでもあり得なくね?」

「師範の言いつけだったからな。俺も当時は無茶だとは思ったが……」

「何があったんだ?」

「師範がいきなりイガさんと俺で立ち会い、つまり勝負しろって言われたんだ。六歳の子供と成人男性とだよ? しかもイガさん今ほどじゃないにしても威圧感半端なかったし……」

「逆の立場も考えろ。正直体格に差がありすぎて戸惑ったのはオレも同じだ。」


 そりゃそうか。確かに逆の立場になったら俺も戸惑うだろうな。


「で、どうなったんだ?」

「一応俺が勝った。というかめっちゃ奇襲した挙げ句フェイントかまして不意打ち一本、ってところかな。」

「コウが勝ったの? イガラシがわざと負けたとかではなく?」

「あぁ、あれはオレの負けだったな。あの時は自分の実力に慢心していた時期でな。ボウズとの立ち会いも手を抜くなとは言われてたものの、油断していたのは否定できねえ。だからこそ尚更敗けを認めざるを得ないな。」


 まぁそのせいで十年以上もイガさんに鍛えられる羽目になったわけだが。


「ぶっちゃけ俺はこっちでの実戦経験もあったしね。身体は思う様には動かなかったからドキドキだったけど。」

「それは俺もこっちに来て思ったな。平和な日本とはいくらなんでも状況が違い過ぎる。ボウズの異常性にも納得がいくってもんだ。」


 異常言うな。


「まぁそういうわけで、幸か不幸かイガさんに勝った俺は、そこから二十歳になるまでずーーーーっとイガさんとサシで修行する羽目になったわけだけどね。」

「ふむ、姫様には中級魔法師だと聞いていたが、試験の際にあれだけ剣術が使えたのはそれでか。」

「団長もイガさんも力ありすぎて正攻法じゃ勝負にならないからね。だから結局二刀流なんて技術に走っちゃったわけだけど。」

「成る程、確かに試験のように木剣では分が悪かったというわけか。」


 正直それもある。技術的には団長には敵わない。とはそれほど思わなかったが、いかんせん真剣のようにかわして斬る、が通用しないのだから。それでも剣だけで勝負してたら俺が負けていただろう。いくらなんでも愛称が悪すぎる。


「団長の場合は俺からすれば相性悪すぎだよ。リーチもそうだけど、パワーがまるで違い過ぎるもの。」

「それでもワシは負けたがな。」

「それは魔法の力あってのことで。」

「魔法を使おうが、実戦で魔法を使わないという選択肢はないだろう。そもそも貴様の場合にはそれだけ魔法が使えるのだから、剣だけで戦おうというのが間違いだ。」


 あれ? なんか説教されてる?


「まぁまぁ団長、そう言わずに。試験だったら自分の力量を試してみようっていうのも間違いじゃないだろう。」


 アランがフォローしてくれる。そうなんだよな。あの時は確かに自分の剣術がどこまで通用するのか試したかったのもあったし。


「で、それから大きな変化もなく、毎日剣術の練習をしては魔法の練習をして、そよ風程度の魔法が発動出来るようになった時、この銃と出会ったんだ。」

「出会ったっつーかそれ元々オレのだけどな。」

「そういえばベヒモスと戦った時も魔法を使うのに使ってたな。それは一体なんなんだ?

「ああ、これは銃って言って、本来はここに鉛で出来た円筒型の弾を入れて、火薬の力で弾を飛ばして相手を殺傷する武器だよ。こっちで言えば弓みたいなものかな。」

「そんな小さなモノが武器なのか……恐ろしいな。」

「うん、しかも弓よりも威力がある。しかも連発が効くからね。」


 よくよく考えると本当に恐ろしい武器だな。連発出来るし、威力は十分人を殺せるレベルだし。尚且つ携帯性にも優れている。


「ちなみにこれはモデルガンって言って本物の銃じゃないよ。ただ銃っていう仕組みが魔法を射出するのに良いと思って、イガさんの家で触らせて貰った時、試しに銃を通して魔法を使ってみたんだ。そしたら今までよりも魔力の通りもよかったし、魔法の威力も上がったみたいだから欲しくなっちゃって。」

「それであんなに欲しがったわけか。ようやく納得したぜ。」

「カッコ良かったから欲しかったのも本当だけどね。」


 黒光りする銃は男のロマンである。


「それからその後、高校、こっちでも学校はあるけど、あっちでは年齢毎に学校の種類が変わるんだ。小学校、中学校、高校、大学。とね。小学校と中学校は義務教育っていって、ほぼ全国民が通って色んな勉強が出来るんだ。」

「全国民が? そんなにみんな裕福なのか?」

「いや、そうでもない。確かに恵まれているとは思うけど、国が各家庭の収入を把握して、収入によって手当てを設けてるんだ。俺の育った日本では王族や貴族なんて制度がなくて、職業の一つとして国の政治を動かす政治家っていう職業がある。当然それ相応の能力も求められるから、誰にでもなれる。ってわけじゃないみたいだけどね。」

「民衆が国の政治を動かすなんて……王族とは言え、そんな仕組みがあればこの国の格差もなくなっていくのかしらね。」


 そうだな。ミリィはこれからそういうことも考えなきゃいけない立場だもんな。


「まず仕組みがあってこそだろうけど、いきなり適応させるのは難しいだろうな。それに王政の全てが悪いわけじゃないだろうし、一長一短だと思うよ。」

「それはそうなのだろうけど……」

「それは追々考えていけばいいさ。今日明日にミリィが女王になるというわけでもないだろうし。」


 あまり軽々しくも言えないことだろうし、ここで政治の話をする必要はないだろう。


「その高校に入るには学力試験があってね。俺はそれほど頭のいい方じゃなかったから、工業分野の勉強の出来る高校の試験を受けたんだ。」

「で、落ちたんだよな?」

「はい、落ちました。」

「それはなんというか……ご愁傷様だな。」


 皆さん苦笑してらっしゃいます。笑え。もっと笑えよ!!


「ま、まぁそのおかげで、と言っていいのか。父さんが刀工だってのはさっき言ったよね? 俺は父さんに頼み込んで刀工の技術を教えて欲しいって頼み込んだんだ。」

「イガラシの持ってる刀はコウの親父さん……と言ってもこっちの親父さんも知ってるだけに呼びづらいな。」


 あ、そうだった。そういやこっちにも親父とお袋がいたんだった。


「そうだった……どうしようかな。会いに行きたいけど俺全然外見違うし。」

「そこは俺から説明すればなんとかなるんじゃないか? 今度一度村に帰ってみるか。」


 そうだな、アランがいりゃ大丈夫だろう。急ぐ必要もないだろうが、せめて無事……じゃないけど元気でやってることを伝えにいこう。


「それから二十歳になるまでずっと父さんの仕事の手伝いをして、二十歳の誕生日を迎える頃に刀を一本打たせてもらった。それが今俺が腰に提げてる内の一本だ。あ、こっちのみすぼらしい方ね。」


 そう言って静かに刀を抜き放つ。店の中なので目立たないようにそーっとだ。


「みすぼらしくなんてないだろう。その辺の剣よりもよっぽどしっかりしてるように見えるぞ。」

「その辺は伝来された鍛冶技術の差だろうな。あっちの刀作りは本当に一本を精魂込めて打つんだ。そこらの量産された剣とはそもそも手間が違う。」

「ふむ? つまり研ぎの技術も親父殿に教わったということか?」

「団長の言う通りだけど、本当最初の一年は研いでは父さんの仕事を見ての繰り返しだったからね。最初は槌すら振らせて貰えなかったよ。」


 本当に刀なんて打たせてもらえるのかと不安になるくらい長かったな……


「俺の地球での生活はこんなところかな。あとはこの刀を打ち終わった後に俺と父さんとイガさんの三人で祝杯をあげてたら、ヴィエラに呼び戻されてこっちの世界に戻ってきたんだ。」

「なるほど、だが何故イガラシも一緒に来ることになったんだ?」

「うーん、それは俺にも分からないんだ。俺は死ぬ前にヴィエラに分けてもらった力に引っ張られて戻ってきたらしいんだけど、イガさんは俺の周囲の様子がおかしくなって俺の肩に手を置いたらそのまま一緒に巻き込まれたって感じなんだけど。」

「その理由は我にも未だ分からぬ。が、何かしらの理由はあるのだろうと思っておるが、分からないものを手がかりもないまま考えても仕方ないのでな。すまぬが我としてはこちらに来た理由よりも、帰す方法を考えている。」

「オレは気にしちゃいないぜ。別に理由なんて知りたいとも思わんし、ヴィエラが謝るようなことでもねえ。」


 出た。イガさんの時々滲み出る男前っぷり。


「そんなわけでこっちに戻ってこれたんだ。俺の話はこれくらいかな? 後は魔王城から転移して貰う時にヴィエラに魔力を分けたら、偶然王都の近くまで飛んでこれたって感じ?」

「そんなに遠くまで飛べるのか……」

「いや、普通はそこまで距離のある転移は出来ぬ。ただこの馬鹿者の魔力が桁違い過ぎただけでな。」

「馬鹿者とか化け物とか言うなよ。凹むだろ。」

「今のコウの魔力はそこまで凄いのか?」

「どうなんだろ? ヴィエラも化け物だっていうけど、自分じゃなんとも言えないしなぁ。」

「ふむ、確かに自分のことは分からぬか。そうだな。コウよ、貴様ベヒモスの死体を処理するのに使った炎の竜巻。アレはこの場にいる全員が目にしているな?」


 あ、ヴィエラも見てたのか。そうなると結構な人数が見たのかも……


「アレほどの規模の魔法は我が知っている限りでも魔族の中にはおらぬ。我としても使えたとしてもかのベヒモスを細切れにするほどの威力が発揮出来るかは分からぬ。それほどと言ってもいいだろう。」

「マジでか。」


 そんなになのか。これはますます自重しないとダメかもしれん。


「とにかくボウズは無茶苦茶だってことだな。」

「そうだな。コウは昔から無茶する奴だったが、輪をかけて無茶苦茶になって帰ってきたってことだな。」

「ええ、私も魔物の大群が王都を襲撃してきた時に見たけど、あれは無茶苦茶だったわ。むしろ滅茶苦茶よ。」

「ボウズは昔っから無茶苦茶だったんだな。」


 なにこの無茶苦茶のオンパレード。俺ってそんなにか?


「コウが無茶苦茶なのは我も認めよう。こんな規格外の化け物は見たことがない。」

「良かったわねコウ。魔王のお墨付きよ?」

「嬉しくねえよ!?」


 そんなお墨付きはいらん。


「まぁなんだ。元気そうで俺も安心したよ。それと言ってなかったが、おかえりだ。コウ。」

「ああ、ただいまだ。アラン。」


 そうしてそのまま俺の帰還祝いの宴へと様相を変えた。


 団長は騒ぐわ。ミリィは酔ったせいか愚痴っぽくなるわで後の処理が若干面倒だったが、俺はこの時帰ってきたんだなぁ。という実感に包まれていた。


 だがここに一人いなければならない奴がいることも忘れてはいない。


(待ってろよ。シャル。)


 決意も新たに、俺はシャルを探すことを心に決めたのだった。

さて次の展開も考えないと……

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