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勇者と王女と魔法師と

やっとこさである。少しは感動的に表現できてれば幸いです。

「知っているのか。銀閃。」


 どこかで聞いたことのあるようなフレーズで銀閃に問う。


「あぁ、知っている。」

「ごめんなさい。どちら様だったかしら? 私には心当たりがないのだけれど。」

「そりゃ王女なんだから知ってる人がいっぱいいてもおかしくはないんじゃないか?」

「それはそうね。けどこの人はミリィという名前に反応したのよ? 王女、ではなく。」


 なるほど、言われてみれば呟いた言葉もミリィであって王女ではなかった。そうなるとやはりミリィ個人を知っている人間、となる。


「さて、もう一度聞くけどどちら様? それにミリィという呼び名は私と親しい間柄の人くらいしか知らないはずよ? 名前を聞いてもいいかしら?」

「本当に分からないのか?」


 うーん、銀閃の態度を見る限りではかなり親しかったんだろうな。で、忘れられてると。いや、忘れられてるというよりは……


「銀閃、一つ聞いていいか?」

「なんだ?」

「お前はミリシア王女と、じゃなくて、ミリィという名前のこの女性と知り合いなんだよな?」

「あぁ、間違いない。ミリシアという名前も、王女だということも知らなかったが。ミリィという女性は知っている。」

「で、ミリィは見覚えがないと。」

「ええ、申し訳ないのだけれど……」

「つまり俺の考えが間違いじゃなければ、なんだが。」


 別に溜めるような場面でもないし、普通に考えたら分かるだろ。なんで二人とも気づかないのか。


「銀閃、どう考えてもお前が悪い。」

「なっ、何故俺が悪いんだ!?」

「だってどう考えても髪の毛ボサボサで顔も見えない相手のことなんて覚えてるわけがないだろ? それにお前の場合、髭だって満足に剃ってないじゃないか。逆に昔からそんな風体だったらミリィも仲良くなってるとは思えない。」

「はっ! 俺ってそんなに見た目変か?」

「変っていうか怪しい。言い方は悪いが浮浪者みたいだぞ?」

「ふっ!?」


 あ、結構ショックが大きかったみたいだ。つかこっちの世界って確かにあんまり鏡とか見る機会がないからかなぁ。自分の見た目とか気にするのってそれこそ貴族くらいかもしれん。


「確かに……ここ数年髪も切ってない。髭は気になったら剃る程度だったが、確かにもう何週間も……」

「うん、それで相手に気づいてくれっていうのはちょっと無理があると思うなー。」

「ええ、私も確かにここまでその……顔も隠れるほど髪の毛の長い人には見覚えがないものですから……」


 あ、言葉濁したな。流石に汚ならしいとかは言えないか。王女様だしな。


「そうか、なら髪を切ればいいんだな。髭も剃らなければ。コウ、すまないがそこの水場を使わせて貰ってもいいか?」

「あぁ、いいけど髪の毛を切るハサミとか髭剃りなんてものはないぞ?」

「大丈夫だ。早速で悪いが、この刀を使わせてもらう。」


 俺の刀の初陣が散髪と髭剃りである。


「まぁいいか、そこ使っていいけど、毛は余り散らかさないでくれ。」

「分かった。ちゃんと外に捨てるようにする。」


 そう言って桶に水を張り、背中まで伸びた髪を肩の上くらいの長さに切った。続いて前髪も切っているようだが、俺達からは背中しか見えないのでまだ顔は見えない。


 そのまま、刀を頬に当てて髭を剃っていく。なにあれ凄く怖いんだけど。手滑らせたりしないだろうな……


 待つこと数分。ようやく髭を剃り終えたのか、頬をさすっている姿が見える。剃刀負けとかしなきゃいいんだが。


「すまない。待たせたな。桶に髪と髭はまとめておいたが、外に捨てればいいか?」

「あ、あぁ、ちゃんと水を張ってるみたいだし、そのまま外に流してくれれ……ば……」


 振り返った姿を見て絶句する。薄々気付いてはいたが、やはり事実を目の前にすると驚いてしまうもんなんだな。


「貴方は……」


 どうやらミリィも同じ気持ちのようだ。どうにか絞り出した言葉。という風に声をかけていた。


「これでちゃんと顔が見えるか? ほら、流石に見覚えがないとは言わないだろう?」


 爽やかフェイスのイケメンさんが立っていた。と、同時にミリィが駆け出す。気持ちは分かるから咎めはしないけど、ここ狭いんだから転ぶなよ?


「アラン!!」


 銀閃。かつての勇者の名前を呼び、ミリィがその胸の中に飛び込んでいく。


「そうだ。俺はアラン。かつて一緒に旅した仲間だよ。ミリィ。」

「無事だったのね。どれだけ私が、私達が心配していたか!!」

「すまなかった。聖剣を、コウを失って俺もあの時はどうにかしていた。自分の弱さが許せなくて、自分のことばかり考えていたからな。ミリィもシャルも俺から離れていくのは当然だった。」

「違う!! 私が離れたのはお父様に事の報告をする必要があったからよ。それに聖剣とコウを同時に失って、私も平静ではいられなかった。」


 感動の再会だな。でもなんで二人とも俺より先に聖剣の名前が出るわけ?


「良かったなミリィ。ずっと会いたかったんだろう?」

「ええそれはもう……ってなんで貴方はそんなに落ち着いてるの?」

「そりゃ俺も驚いたけどさ。今の俺じゃ説明もなしに再会もクソもないだろう?」

「あ……そうね、そうだったわね。アラン聞いて。信じられないと思うのだけれど。」


 ミリィが俺の事を話そうと切り出す、が。


「分かってるよ。俺も薄々そうじゃないかとは思ってたんだ。それにミリィとのやり取りを見てて確信したさ。」

「そうか、やっぱり気付いてたんだな。」

「あぁ、確かに俺の知っている髪の色も、見た目も違うが。コウ、お前なんだろう?」

「ご名答。久しぶりだな。アラン。」


 同じ日に生まれた二人は、今では違う年齢になって再会する。つかよく考えたら俺の方が年下だけど、こっちでは三年しか経ってないし、あっちでは二十年だったんだから、俺の方が年上じゃね?


「いつから気付いていた?」

「剣を研ぎに出した時には少し引っ掛かったくらいだったんだがな。ミリィの名前が出た時にはほぼ確信していたし、本当に確信が持てたのはついさっきだよ。」

「そうか、そうなるとベヒモスに感謝しなきゃいけないか? アレが来なかったらアラン、お前きっと王都から離れてただろう?」

「そうだな。元々王都に立ち寄った目的は腕のいい研ぎ師がいると聞いて剣の手入れだけが目的だったし、ベヒモスが出なければきっと俺達はすれ違っていただろう。」


 なんとも奇妙な縁である。王都を危険にさらしたベヒモスに感謝する日が来ようとは。


「ちょっと貴方達、物騒なこと言わないでくれない? 流石に死者も出てるんだから街中では絶対に言わないでよ?」

「分かってるさ。軽い冗談だ。」

「ははは、ミリィは相変わらずだなぁ。」

「もう、からかうのはよして頂戴。」


 ともあれ、これで二人目か。後はシャルだけだが、どこにいることやら。


「さて、感動の再会はこれくらいでいいだろう? コウ、聞かせてくれ。あの時俺が不甲斐ないばかりに死なせてしまった。それからのことを。」

「そうだな、長くなるから場所を変えよう。ミリィも、いいよな?」

「ええ、構わないわ。私もついていくけどいいわよね?」

「団長が許してくれるならな。」

「もちろん説得するわよ。意地でもね。」

「ならどこかの酒場がいいか。城だと周囲の耳が怖いし、ギルドも考えたけど、迷惑がかかるかもしれない。すまないが、ミリィはもうちょっと落ち着いた服装に着替えてきてくれると助かる。」

「そうだな。確かにその服装は目立つな。」

「そう? これでもお忍び用の落ち着いた服なのだけれど。」

「「それはない」」


 確かにドレス、というわけではないが、どう見ても上流貴族のお嬢様にしか見えないだろう。とてもじゃないが酒場に行くような服装ではない。


「ふふっ、二人の声が重なるのも久しぶりね。分かったわ。とびきり地味な服に着替えてくるから先に行ってて頂戴。」

「とびきり地味な服ってなんだよ。」

「いいからほら、時間は待ってくれないのよ? 早く行きましょう?」


 随分はしゃいだ様子のミリィを見て、俺とアランは顔を合わせて苦笑した。


 さて、それじゃあ俺達も行くとしますかね。

次回も会話会。ところでヴィエラさんは放置プレイ? いやいや、ちゃんと出てきますよ。

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