偽者? 本物? 後編
後編です。
「さてこのまま続けても?」
「……ええ、お願いします」
ここまでは俺が死ぬまでの話。恐らくパーティの誰かしらから話を聞いていれば正否の判断は出来るだろう。特に王女ともあれば尚更だ。それに多分彼女は……
「分かった。で、さっきも言ったように俺は死んだ」
「なのに貴方はここにいる」
「あぁ、ここにいる。その理由を話そう。
俺は話を続ける。
「死んだ後、俺は何かに包まれている感触を味わった後、強い力で足を引っ張られた。最初はてっきり死後の世界で、あの世の亡者に引きずられて地獄に案内されるのかと思ったんだが、それは違った。何かに包まれていたのは母の胎内で、足を引きずっていたのは助産婦さん。要は俺はもう一度生を受けた。こことは違う。地球という世界で」
「違う、世界?」
「そう。こことは全く違う世界だった。魔法はないが文明がある。魔法具はないが機械がある。そんな世界だった。俺も何度も魔法を使ってみようとしたけど、あまりに魔素が薄くて発動した魔法も笑える程度のものだったな。成人する直前に少しはマシになったけど」
「機械……?」
「あぁ、こっちには機械なんて概念ないか。えーっと……あったあった。こういう奴だよ」
「これは?」
「スマートフォン、略してスマホだ。こっちに戻ってきた時点で電波もないし充電も出来ないからもはやただの板みたいなもんだけどな。テンプレ風に言うと写メでも撮るか」
そういってスマホをミリシアに向ける。そしてカメラを起動してシャッターを切る。
--パシャッ!
「っ!! なんですの? 今の音は?」
「ちょいちょい、これ見てみ?」
そういって俺は今撮った写真を開き、スマホの画面をミリシアの方に見せる。
「これは……私?」
「そう、これは写メっていってこのレンズに移した物を写して保存することが出来る機能だ」
「これが機械?」
「まぁ他にも色々あるけどな。俺が持っててすぐに見せられるのはこれくらいのもんだよ。で、こういう機械が溢れている世界で過ごしてたってわけ」
「実物を見せられては一蹴に付すわけにはいかないわね。続けて頂戴」
おっと、素が出てますよ王女様。だがやはりそうか……なら全て話してしまおう。
「それから俺は幼少期から剣術道場に通ってた。仕組まれたのかは分からんが、父さんが刀工、刀鍛冶をしていてね。その縁で紹介してもらったんだが、そこで出会ったのがこのイガラシ、通称イガさん(彼女募集中)だ」
「おいボウズ、今オレのことバカにしなかったか?」
「してないしてない。んで魔法がダメなら剣術を、と思ってずっとこのイガさん相手に修行を続けてきた。この世界に戻ってまた旅を再開するために」
そうだ。俺はそのために強くなろうとした。
「そして二十歳になった俺は父さんの許可を得て自分で自分のための刀を打った。今腰に下げてる立派じゃない方な。この刀が出来た祝いに父さんとイガさんと祝杯を上げてたら魔王から預けられてた力の欠片を回収するって声が頭に響いてそのまま引っ張られてきたってわけ。何故かこのイガさんも一緒に」
「魔王の力の欠片って貴方……って二十歳?」
「それが四日前かな。戻ってきたのはいいけど、いきなり魔王城に連れて来られたもんだから、とにかくどこか街を目指そうと思って魔王に転移してもらったら知らない場所に飛ばされた。歩いてる内に王都が見えてきたから金も稼がなきゃいけないし、まずは冒険者ギルドに登録しようと思った矢先に身分証の存在を忘れててこの有様だよ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 貴方今二十歳なの!?」
「お、おう。それがどうした?」
「私より年下じゃない!! 普通前の年齢と同じとかで今頃二十七歳になってるべきでしょ!? それになんで二十年も他の世界で過ごしてて戻ってきたのが三年後なのよ!? 色々おかしいじゃない!?」
「それは知らん。俺も不思議だとは思うが、そもそも転生したことも戻ってこれたことも普通じゃないしな。今更気にしないことにしてる」
だって普通死んだら終わりですもん。
「それに魔王城に連れて来られたって! 魔王は今一体何をしているの!? 貴方魔王とどういう仲なのよ!?」
「よし分かった落ち着け。魔王なんだが……ここにいる」
「……は?」
「いやほら、確かに夜だし牢の中は暗いけど、よく見てみろって、ここに真っ黒なローブを着たのがいるだろ?」
「随分ぞんざいな扱いをしてくれるな」
「気にしない気にしない。俺とお前の仲じゃないか」
「ふむ、好意的であるのは悪くはないが、いささか気安すぎやしないか? 仮にも貴様等の大陸では我は未だ魔王として畏怖され、憎まれておるのだろう?」
「それは他の人間であって俺やイガさんじゃない。少なくとも俺にとっては恩人だし、イガさんとしても敵対する理由なんてないし、ねえイガさん?」
「おう!! ヴィエラは敵なんかじゃねえ。何かされたわけでもないしな」
まぁアナタは一生敵対しそうにないですけどね。
「……」
「あれ? おーい、王女様ー?」
「ま……」
「ま?」
「ま、まままま、魔王が何故ここに!? 兵士は何をやって! あぁもう、非常識にも程があるでしょう?」
あ、壊れた。そりゃなぁ、気持ちは分からんでもないけどなぁ。
「落ち着けって、実際何も危害を加えたわけでもないし、大人しく捕まってるじゃないか」
「そういう問題ではないでしょう!?」
「いざとなったら俺が止めるから心配しなくても……」
「貴方が!? どうやって!? 相手は魔王なのよ!? 勇者だったアランだって敵うかどうか分からないのよ?」
「王女よ、心配せずとも我は今のところ貴様等と敵対するつもりはない。それにコウが言ったことも間違いではない。いざ戦闘となれば結果は分からぬが、我にもこやつと戦って無事でいられる保障もない」
「うそ……あのコウが?」
「うん、俺が」
あ、なんか信じられてないっぽい。
「まぁそれは置いといてだ。俺の話は以上だ。何か質問はあるか?」
「質問どころか全部問い質したい気分よ。それこそ小一時間じゃ収まらないほどにね」
「そりゃ俺は自分自身のことだからな。事実を受け入れることしか出来なかったが、他人はそうもいかない。信じる、信じないはそいつが決めることだ」
「確かに奇想天外過ぎて簡単に信じていい内容ではないものね」
「ああ、信じてもらうのは難しいことは理解した。何より前とは外見も違うし、年齢も違う」
「そうね。いくらなんでも変わりすぎだと思うわ」
「今は信じてくれなくてもいいさ。だけど見てろ。俺はアランを探し出す。あいつはこの世界を救う勇者だ。物語の主人公は俺じゃない。俺はただアランと共に戦うために帰ってきた。そしてシャルに帰ってくるといった約束を果たすために」
「残念ながらアランは行方不明よ。噂では傭兵として各地を渡り歩いてるって話だけど」
「なら俺が探し出す。大丈夫だ。アイツは今知らない脅威を探すより、今そこにいる人のために戦う。そんな奴だ。お前なら分かるだろ。なぁミリィ?」
「ええ、未だに信じられないけど……今の台詞、やっぱり貴方なのね。コウ」
「ああ、俺は帰ってきた。約束を果たすために、旅を再開するために」
そうだ。俺は帰ってきた。この世界に。
「ただいま、ミリィ」
「おかえりなさい。コウ」
そして俺は一人目の仲間との再会を果たした。
一日1000PV達成しました! 皆さんのおかげです!!
さて、タイトルの変更を検討しています。詳しくは活動報告をご一読いただければ幸いです。




