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ミリシア=セラ=オルデンス

一人称視点で書いてると、どうしても主観サイドを変えなくてはいけないので、こういうのがちょくちょく出てくると思います。

「何やら外が騒がしいようですね」


 別に物音が聞こえるわけではないが、ふと窓に目をやれば兵士が何人か留置場の入り口付近に集まっているのが見える。また盗賊でも捕まったのだろうか。


「愚かな……貧しくとも必死で農作業に勤しむ人もいれば、僅かばかりの商材を元に商売をする人もいるというのに、よりにもよって盗賊に身を窶すなんて……」


 旅をしている頃にいろんな物を見てきた。村の土地が痩せつつあっても、それでもどうにか作物を育てようと必死になる村人達。それを支える子供達の存在。


 そしてそれらを奪い、今日を生きようとする盗賊達。彼等としても今日を生きるのに必死なのだろうが、何故もう少し頑張ろうと思えなかったのか。冒険者という道もあっただろうに。


「……それを私が言っても皮肉にしかならないのでしょうね」


 自分は今まで飢えるほどの苦しみを味わったことはない。生まれた頃から恵まれた環境があり、旅に出た折にも勇者の一員という肩書きもあって、金銭を得るために労を費やしたことはあれど、苦しんだことはなかった。


 結局のところ、彼等の苦しみの本質に触れる事は出来ない。だが自分が頑張ればそういう人間を増やさないことが出来るかもしれないが、それはまだ先の話であるし、もしかしたら悪化する可能性も多分にある。


「一体どうすれば争いを失くすことが出来るのでしょうか」


 それは王族という立場に生まれた以上は一生ついて回る悩みである。きっと王である父も日夜頭を抱え、それでも自分に出来ることをやっているのだろう。


 再度窓の外に目をやると、既に兵士は解散していた。が、王城へ向かう一人の男の姿が目に付いた。


「あれはダンカン? 何故留置場からこっちへ向かっているのかしら?」


 一人ごちて理由を考えてみる。騎士団の団長がわざわざ登城する理由がハッキリしなかったからだ。


 考えられるとすれば捕まえた盗賊の中に大規模な盗賊団の狩猟がいたなどが挙げられるが、その場合にはもっと多くの兵士が集められていることだろう。現時点ではそのような報告もないし、恐らく違う理由だと推測される。


 ほどなくしてドアをノックされる音が聞こえた。タイミングからして、団長の件と関係があるのだろうか。


「恐れ入ります。騎士団長がミリシア王女様に報告のため、拝謁賜りたいとの言伝を預かっております」


 どうやら的中したらしい。父ではなく私に、という点が気になった。


「分かりました。すぐに会いましょう。特に今日は公務もありませんし、このまま部屋まで通してしまって構いません」

「畏まりました。それではその旨申し伝えます」


 数分の間をおいて、再度扉がノックされる。


「どうぞ、扉は開いております」

「失礼する」


 一人の男が部屋に入ってくる。私も過去世話になった王国騎士団の騎士団長、ダンカンその人である。


「ミリシア王女にあられましては、ご機嫌麗しく。事前の要請もなくお目通りを認めていただき、恐悦の至り……」

「やめて頂戴、貴方から王女なんて寒気がするわ。いつも通りくずして頂戴……久しぶりですね。団長」

「おお、相変わらずだな姫様。流石大物の器だ」

「それはバカにしていると受け取ってよろしくて?」

「はっ! 褒めてんだよ。勇者に付いて行く!! なんぞ言ってたお転婆姫が旅から戻ってからは作法に勉学に励んでると風の噂で聞いてな。あの頃はそれこそバカな事を言い出したと思っていたが、得る物はあったようだな」

「むぅ……相変わらずですね。団長は」


 女騎士、ミリィという名は旅に出る際に王族であることが露呈しないために自分で考えた仮の名前。親しい侍従などに幼少期に呼ばれていた愛称である。

 私の名はミリシア=セラ=オルデンス。王である父、ロズル=サイノス=オルデンスの長子にして第一王女であり、本人の意思とは別に王位継承権第一位として次期王としての立場が約束されている。実際覚えることが多く、幼少期より窮屈で仕方のない生活を送っていた。


 実際、旅に出る前には作法より武芸に興味を持ち、時間を見つけては騎士団の訓練場に入り浸っては連れ戻されるという生活を送っていた。それはそれで楽しい時間だったが、その時に世話になったのがこのダンカンである。


「まぁ姫様は剣の才能『だけ』はあったからな。どうだ? 今からでもまた剣術でも始めてみちゃ。若い奴等の刺激にもなるぞ」

「今となっては悪い刺激になるだけでしょうに。邪魔になるのが目に見えてるからしばらくは遠慮しておくわ」

「つれねえなぁ……」

「それよりもわざわざ私に直接会いに来たということは何かあったんでしょう? あまり時間もないことだし、そちらの用件教えてくれないかしら?」

「おっとそうだった。すまんすまん。で、本題なんだが」


 雑談を終え、話を切り出してみる。軽口を交えていることからしても、私にとって良くない話なのだろうか。


「姫様はキサラギという名前に覚えはあるか?」

「キサラギ……ですって? もちろん知っているわ。ただ珍しいとは言っても、大陸中探せばキサラギという名前自体は何人もいるでしょう?」

「ああそうだ。今日ひっ捕らえた奴の中に、コウ=キサラギという名乗る男がいてな。ミリィという女騎士を知らないかと門番をしている兵士に聞いたそうだ」

「っ!! それは……いえ、あり得ません。彼は死んだはずですから」

「俺もそう聞いている。それに俺の記憶では姫様が旅に出る際に勇者と共にいた目立たない魔法師だったはずだが、腰には見たことのない剣を下げていた。それに牢にいる奴は黒髪に黒い瞳の色だったが、姫様と同行した奴はくすんだ赤い髪に、瞳は薄い青だったはずだな?」

「ええ、間違いありません。しかし黒髪……ですか。この辺りでは見かけない色ですが……」

「ああ、それも黒髪は二人いてどちらも男だ。もう一人はイガラシと名乗っていたな。その名前に聞き覚えは?」

「いえ、ありません。もしかしたら旅のどこかで会ったことがあるのかもしれませんが、それでも何らかの縁があったのであれば私も名前くらいは記憶しているはずですもの」

「だよな。うーん、やっぱり偽者か。それにしても女騎士のミリィの名前を知ってる奴も今じゃ珍しいんだよなぁ……なんせ今では王位継承順位一位のミリシア王女様でいらっしゃるわけだからな」

「またバカにして……しかし気になりますね。他には何かありませんでしたか?」


 仮に生きていたとしても、シャルの治癒を受けられなかった彼はまともに生活を出来るとは思えない。それよりあの場から生きて帰れる可能性など万に一つも無いに等しい。


「あとは一人女がいたな。闇そのものかと思えるような黒いローブで顔までスッポリ覆うフードを被っていたが……話し方がどっかのエライ貴族かと思うような話し方だったが、フードを取ったらそりゃもう威勢のいい嬢ちゃんだったわけだが。昔の誰かさんを見ているようだったぜ」

「闇のような黒いローブ……いえ、まさか」

「あん? 心当たりがあるってのか?」

「いえ、ないと言えばないのですが……というよりはあり得ない。というべきでしょうか」


 黒いローブを着ている魔法師ならそこまで珍しくはない。だが話し方が……というところに引っかかりを憶える。


「で、どうする? 俺としちゃ今のところ無害そうだから二、三日牢に入れてから、王都の外に放り出そうと思ってるんだが」

「……一度その方々に会うことは可能ですか?」

「まあそう言うとは思ったがよ。王女ともあろうものが牢に行って問題は無いのか?」

「日中は流石に。ですが人目につかない夜であれば大丈夫でしょう。話の分かる方があらかじめ手を回してくれてさえいれば、ね」

「……抜け出すってのかよ?」

「いいえ、私は何も。ですが今日は雲一つない快晴ですもの。窓から空を見上げればそれはもう綺麗な星空が見えると思います。そうなればついつい窓から身を乗り出してみたくなっても仕方の無いことでしょう?」

「結局根っこのところは変わってねえってことか。ハッハッハ!! いいぜ、なら監視の奴には俺から話しといてやる。くれぐれも気をつけるこったな」

「あら、私は何も言ってませんよ?」


 一応人払いはしておいたが、扉の向こうで侍従が聞き耳を立てていないとも限らない。わざとらしい会話ではあるが、付き合いの長い彼女のことだ。恐らく聞かなかったことにしてくれるだろう。


「分かった。なら俺は行くぜ。奴等が変な気を起こさないとも限らないし、今夜だけだ。俺も近くで待機しておく」

「分かりました。お勤めご苦労様です」

「なに、いいってことよ。ただあまり期待するのはやめろ。死者が生き返ることはあり得ない。いいな?」

「ええ、分かってます。私はただどこでその名前を耳にしたのか。そしてその人が誰なのかを知りたいだけです」

「ならいい。じゃあな」


 そう言って団長は去っていく。


「ふぅ……しかし勇者だったアランの名前ならともかく、何故パーティの中でも目立たなかった彼の名前を……」


 勇者であるアランに、王都騎士団所属という肩書きを持った自分、それに群を抜いた治癒能力を持ちながら、ハーフエルフで見た目も美少女だったシャルと比べ、肩書きも無く、実力的にもそこそこの中級魔法師程度であり、外見も特に目を引くようなところのなかった。そんな彼である。


 いや、自分達の中では彼の評価は高かった。だがそれは彼の人となりを知り、彼の行動を見てきたからという前提があるからに相違ない。失礼な評価となるが、客観的に見て勇者パーティに入り込んだ一般人。という印象が強かったことだろう。


 どちらにしろ、今考えても分かることは無いだろう。なら直接会って話を聞いてみるしかない。


 それでも変化のなかったここ最近の生活に突然舞い込んだ話である。期待半分、諦め半分でいながらも、何故かソワソワせずにはいられなかった。


 そうして時間は過ぎていき、約束の夜を迎えた。



もうすっかり寒くなりましたね。皆さんも風邪など引かぬようご自愛ください。

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