帰還 前編
気合入れて書いたら長くなってもた……
というわけで前後編に分けて投稿します。
--その日は激しい雨の日だった。
二十歳の誕生日を迎え、約束通り刀を一本打たせてもらった。
数日かけ、親父の手伝いもあってなんとか打ち終えたそれは、親父の打った刀の美麗さにはとても敵わない、刃紋も綺麗とは言えない出来だったが、自分自身で作り上げたという達成感と感動があった。
当然、持ち歩けるものではないので、しばらくは鍛冶場に置いておくこととなったが、それでも鉄を打った感触は今でも手に残っている。今日だけは親父の管理の下、自宅に持って帰ることになった。
その後、祝杯だということで親父とイガさんと三人でこの世界で初めての酒を飲んだ。
実に二十年振りの酒だったということと、一仕事やり終えた達成感、加えて親父がいつか俺と飲もうと思っていたという日本酒の旨さといったらなかった。
三人で父さんとイガさんの出会い話や、イガさんに貰ったベレッタをネタにしての昔話に華を咲かせ、俺の打った刀、父さんがイガさんのために打った刀を比較して刀談義をしたり、その後酒の勢いか、父さんが若い頃に全財産を投げ打って手に入れた家宝といってもいい刀を持ってきたりと、それは楽しい時間を過ごしていた。
だが飲み始めて二時間ほどしただろうか、不意に身体の中がざわめくような感覚に陥り、意識もしていないのに身体の中に魔素が流れ込んでくる。それはこの世界で今までになかったほどの量だった。
そして頭の中に直接声が流れ込んできた。
「時は満ちた。我が魔力の欠片を回収する」
それはいつだったか、聞いたことのある威厳のある声。驚きもそこそこに、しかし頭の中は冷静に、この状況がなんであるかを直感的に理解する。
(ああ……ついにきたか)
数年前から魔力を練る時に感じた違和感。それが恐らく魔王が俺に分けたといった力のことなんだろう。
そしてそれを回収する。ということは魔王の元に引っ張られていくのだろうと感じた。
無論、俺の存在ごと。
急に静かになった俺を不思議に思ったのか、親父とイガさんが心配そうに俺を見る。
「父さん、イガさん、今日までありがとう。まだ育てて貰った恩も返してないけど、俺ちょっと行かなきゃならないみたいだ」
「ん? 行くってどこにだ? 旅行にでも行くのか?」
親父が尋ねる。
「旅行ではないけどそんな感じかな? 帰りがいつになるかは分からないけど、俺は絶対に帰ってくる。その時は嫁さんも連れて来たいと思うんだけどいいかな」
「……そうか、なら母さんくらいの美人を連れてくるまで帰ってくるな。それと怪我をするな。というのは今更か。せめて元気に帰って来い」
俺の言い回しから、ただ事ではないんだろうと察してくれたのか、親父が洒落たことを言う。
「もちろん、母さんより美人だと言わせてみせるさ。そろそろ時間だと思うけど、ごめん、母さんには……」
「母さんには俺から言っておく。刀工の修行のために知り合いのところで住み込みで働いているとでも言っておくさ。だから必ず帰って来い。男の約束だ」
「ありがとう、父さん」
「それとこれは持って行け。父さんからの、そして師匠としての餞別だ」
そう言って家宝の備前と、俺が打った刀を渡してくる。俺もそれを受け取り、ベレッタを最近かったホルスターに装着し、腰に巻きつける。
俺の身体が徐々に闇に包まれていく。が、父さん達にはその闇は見えないだろう。俺の身体が徐々に薄くなっているように感じるはずだ。
「おいボウズ、なんだその黒いのは?」
「え?」
イガさんの言葉に驚く。今黒いのと言ったのか?
「その黒いのを払えばいいのか? 正直不気味だから手は出したくないが……」
「え、ちょっとまっ」
イガさんが俺の肩を掴む。同時に闇はイガさんの手に伸び、身体を包んでいく。
「うおっ、なんじゃこりゃ!! おいボウズどうにかしろ!!」
「いやちょっと待ってイガさん! なんでこれ見えるの!? っていうか早く話さないと……!!」
--ヴンッ
「「「あっ」」」
声を上げたときには何も見えなくなった。
そして数秒間、海に浮かんでいるような感覚が続き、意識が定まらない状態の後、急に意識が覚醒する。
「ふむ? 成功か? いやこれは失敗か?」
暗い部屋に威厳ある声が響く。倒れていたのか、顔を上げてみれば二十年前に一度見たことのある黒のローブが目に付いた。
このまま次に続くよー




