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【完結】咎人とアズライト〜国を捨てた魔法士は、記憶を失う転生者と旅をする〜  作者: 文月ナオ
第八章 剣聖の病

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105話 禁忌のレシピ

「私とジークは、レシピを持ってセレーナを探したの」


 エレナが記憶を手繰るように語り出した。


「そしたら突然、キメラが現れて、街の人たちが襲われていたから、私たちはキメラを倒すことに専念したの。キメラ自体は、私たちにとってはそこまでの強敵でもなかったから問題はなかったんだけど……」


 三強の一角であるジークと、半精霊化したエレナ。

 腐っても最強のパーティだ。キメラ程度に後れを取るはずがない。


「ジークがキメラと戦っている時、キメラに囲まれた私を助けるため、私の代わりに一撃攻撃を食らってしまったの。まあ、その攻撃自体はジークにはなんの傷も与えられなかったんだけど、吹き飛ばされたジークはキメラの血溜まりに反射した自分を見て、発狂したの」

「発狂? 確かにあいつはブサイクだが、発狂するほどではないだろう」


 カインが真顔で言う。


「うん……。私もそう思うんだけど、それでも、ジークはそれをキッカケに、また心を塞いでしまって、ずっと呟いていたの」

「なにをだ」


 エレナは声を潜め、その時のジークの怯えきった声を再現した。


『……見せられない……あいつだけには……絶対に……一生……ネタにされる所だった……危ないところだった……』


「そう言っていたわ」

「……意味がわからんな……。セレーナに会うとなにか都合の悪いことでもあったのか?」


 カインは首を傾げた。

 セレーナはジークにとって希望だったはずだ。なぜ、土壇場で彼女を避けたのか。

「あいつだけには見せられない」という言葉。それは、プライドの高いジークが、弱りきった自分の姿をかつての仲間に見られたくなかったからだろうか。


「わからない。けど、ジークは立ち上がって、すぐに帰ると言い出した。すぐそこにセレーナがいたのに」

「……」

「結局、ジークは会わずに帰ることを選んだ」

「それがアレクサンドラでセレーナに顔を見せずに去っていった理由か」


 カインが納得したように頷く。エレナもまた、沈痛な面持ちで頷き返した。


「突然どうして発狂したんだろうね? エレナは何か見てないの?」


 リザがタルトを齧りながら、不思議そうに尋ねた。

 彼女の感覚では、ジークという男はもっと図太い生き物のはずだ。


「……私は、四つん這いになって血溜まりを見て発狂しているジークの頭に光が反射して、眩しかったことだけは覚えてるけど」

「……ん? 光が反射? なんだそれは」


 カインが反応する。エレナは少し言い淀みながら、事実を告げた。


「ジーク、病にかかってから、頭頂部がツルツルになってしまったみたいなの」

「ふーん? 病の副作用かな?」


 リザが首を傾げる。


「わからないわ。ただ私が思わず『眩しっ』って言って顔を背けたら、見たこともないようなミイラのような顔で私の方をすぐに見てきたことだけは覚えてる」

「……光を反射するほどツルツルなら、ストレスで狂乱して髪を剃ったのかもしれんな」


 カインは真剣な眼差しで分析を始めた。


「精神への侵食、あるいは皮膚が硬質化する類の呪いか……。いずれにしても、精神状態は間違いなく異常だ。感染症の線も捨てきれん。早めに手を打った方がいいかもしれん」


 カインの解釈は、あまりにもシリアスだった。


「えっ……協力してくれるの?」


 エレナが顔を上げる。カインは当然のことのように頷いた。


「当然だ。あの馬鹿がくたばったら、俺の寝覚めが悪い」


(アトス……やっぱり優しいね)


 エレナの頬が緩む。

 不器用で、口は悪いけれど、一度懐に入れた相手は見捨てない。それが、彼女の愛した騎士だった。


「ありがとう」

「ジークさんは今どこにいるんですか?」


 横になっているコレットが、尋ねた。彼女もまた、恩人の危機に居ても立ってもいられない様子だ。


「霧の都『グレイ・ヘイヴン』よ」


 その地名に、カインが眉を動かした。

 大陸の北西部、年中濃い霧に覆われた陰鬱な街。霧が濃いことを利用して犯罪者や逃亡者が顔や身を隠すにはうってつけだが、療養には最も向かない場所だ。


「まずは本人に会いに行ってみるか」

「うん。あ、ちなみに、これが特効薬のレシピ」


 エレナは懐から、古びた羊皮紙を取り出した。

 ジークがオダイ・ジニの古書店で、血眼になって探し出したという文献の写しだ。

 カインがそれを受け取り、目を走らせる。


          ◇


【禁忌薬章:荒野の再生(リ・ジェネシス)


 対象疾患:ザビエル症候群(Xavier Syndrome)


 症状:頭頂部に広がる不毛の荒野。円環の呪い。輝ける月への変貌。自我の崩壊と、異性からの視線への極度な恐怖。


 特効薬:『アンチザビエル(Anti-Xavier)』


 効能:失われた森林を呼び戻し、荒野を再び黒き豊穣の地へと変える。


          ◇


「ザビエル症候群……聞いたことは無いが、まぁいい」


 カインは羊皮紙を閉じた。

 記述を見る限り、精神汚染(自我の崩壊)と肉体変異(輝ける月への変貌=皮膚の変質?)を伴う、かなり危険な奇病のようだ。「不毛の荒野」という比喩表現も、生命力の枯渇を暗示しているように思える。


「行先は決まった」


 カインが立ち上がる。

 その背中は、かつて世界を救うために戦っていた頃と変わらない、頼もしいものだった。


「行くぞ。脳天気な馬鹿の『命』を救いにな」

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