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【書籍化】王太子に婚約破棄されたので、もうバカのふりはやめようと思います  作者: 狭山ひびき
第四話

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虎の尾 5

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 ティアナがコンコンと扉を叩くと、中から返ってきた声は部屋の主のものだった。


(部屋の中に一人なのね。都合がいいわ)


 室内から許可が出たので、扉の外に立っていた衛兵が扉を開けてくれる。

 部屋の中に入ったティアナは、中の様子が以前と全く変わっていないことに気が付いた。

 壁に飾ってある剣のコレクション。カーテンの色だけが違うだろうか。以前は紺色に近い青だったが、今は深緑になっている。冬用のものだろう。


(まあ、あれから半年弱しかたってないものね)


 変わっていないのは当たり前だと思う一方で、部屋の主の雰囲気が以前とどこか違うから、少し戸惑ってしまう。


「なんだ、オリヴィアのところの新しい侍女じゃないか。何か用か?」


 机に座って書類を片付けているアランが、手を止めて顔を上げた。

 眼鏡とウィッグで変装しているとはいえ、一時は婚約していた相手もわからないのかとティアナはちょっとムッとする。

 今は何とも思っていないが、アランのことは大好きだったのに。アランもティアナのことを好いてくれていると思っていたのに、変装しただけで気づかないものだろうか? 鈍感!

 ティアナは無言でつかつかとアランのところまで歩いていくと、書類の上に持って来た袋から箱を取り出して乱暴においた。


「おい!」

「オリヴィア様の部屋にありましたの。サイラス殿下に渡してください。異物が混入しているかもしれませんから」

「は?」

「それから、アラン殿下、鈍感すぎです」

「はあ⁉ 何を……ん?」

「やっと気づいたんですか?」

「ティアナ⁉」

「今はフランです。大きな声を出さないでくださいませ」


 ツン、と顎をそらしてティアナが言う。

 アランは目をぱちくりとさせて、それから額を押さえて天井を仰いだ。混乱しているらしい。


「いろいろあって、今はオリヴィア様のそばにいるんです。オリヴィア様もサイラス殿下もご存知ですけど、ほかの人には黙っているので内緒にしてくださいね」


 アランは天井に向いていた顔を正面に戻し、訝しそうな顔をした。


「どういうことなんだ?」

「たから、いろいろあるんですってば。知りたければ今度サイラス殿下にでも聞いてください。そんなことよりこれ! 絶対サイラス殿下に渡してくださいよ? サイラス殿下は今レネーン・エバンスに張り付かれていて、わたくしからは近づけなさそうなので!」

「は? そんなもの呼びつければいいだろう。そこに座ってろ! お前の話は意味がわからん!」


 アランは訝しそうな顔のまま立ち上がると、部屋を横切って、外にいる衛兵にサイラスを呼んで来いと命じた。


(なるほどねー、あの図々しいレネーンも、アラン殿下の部屋までくっついて来ないわよね)


 アランにサイラスへの伝言さえ頼めればそれで事足りたのだが、まあいい。サイラスと直接話ができるのならば願ったりだ。

 衛兵に伝言を終えたアランは、ティアナの対面に座って腕を組んだ。


「それで、お前はどうしてオリヴィアのところにいる。その箱は何だ。サイラスが来るまで時間があるんだ、説明くらいできるだろう」


 じろりと睨まれても怖くはないが、言うまでしつこそうなのでティアナは仕方なくアランに事情を説明することにした。


「……ということで、しばらくオリヴィア様の側にいることになったんです」

「どうして私に知らされてないんだ!」

「そんなの決まってるじゃないですか。殿下、絶対知らない顔できないもの。すぐ顔に出るから」


 サイラスは何を考えているのかわからないから怖いが、感情を隠すのは得意そうだ。だがアランは喜怒哀楽がすぐに顔に出るから、廊下でティアナとすれ違って平然としていられるとは思えなかった。

 自覚があるのか、アランがうっと言葉に詰まる。


「だ、だったら、何故ここに来た」

「急いでいたからです。オリヴィア様に気づかれる前に対処したかったし」

「何故オリヴィアに気づかれたくないんだ」

「オリヴィア様がいろいろ手一杯そうだから。それに、この手のことは魔王っぽいサイラス殿下に頼んだ方がたぶんうまくいく気がして。勘ですけど」

「魔王?」


 アランがきょとんとして首をひねる。


(知らぬがなんとかってやつね)


 ティアナの勘だが、サイラスはやばい。絶対に敵に回してはいけないタイプだ。オリヴィアのことになるとことさらに。

 サイラスは普段ニコニコしていて一見すると好青年に見えるし、まあたぶん、九割がた好青年に違いない。だが、残り一割。オリヴィアが関わってくると見せる別の顔がある。

 盲目的にオリヴィアを愛しているサイラスには、ちょっとでもオリヴィアに何かしようものなら地獄の底まで追いかけてでも報いを受けさせてやるという、一種の執念深さがあるのだ。


(わたくしはあんな怖い男は願い下げよ。笑顔の下で何を考えているかわかったもんじゃないわ。サイラス様と普通に付き合えるオリヴィア様って度胸があるというか、つわものよね)


 サイラスは自分のもう一つの顔は本人も無自覚なところがありそうなので、オリヴィアの前でも何度か見せたことがある気がする。だがオリヴィアは平然としているし、普通に受け入れているようなのだ。ティアナなら絶対無理である。

 ともかく、だからこそこの件はサイラスに託すに限る。オリヴィアに危害を加える相手には、情け容赦は一切かけないだろうから。


(それに、オリヴィアに教えても、自分のことは二の次にしそうだし)


 未然に防げたなら後回しでもいいだろうとか言いそうだ。実際いろいろ手一杯なのだろうが、自分の身の危険を後回しにするなんてティアナには考えられない。サイラスもおかしいが、オリヴィアも絶対に思考回路がおかしい。


「それで、その箱は?」

「オリヴィア様の部屋の棚にあったお菓子の箱です。でも、オリヴィア様やテイラーが用意したものじゃありません」

「どうして断言できる」

「それは……」

「それは?」


 ティアナは言葉に詰まって、ちょっと逡巡したのち、渋々白状した。


「…………お菓子の棚にあった箱、全部覚えているから」

「は?」

「だから! お菓子の棚にあった箱、全部覚えているんです! オリヴィア様、おねだりしたらすぐくれるから……次に何をもらおうか、物色してたので」

「…………」


 アランがポカンと口を開ける。

 ティアナは恥ずかしくなってそっぽを向いた。


(どうせ食いしん坊ですよ!)


 罪人としてとらえられてからというもの、大好きなお菓子は滅多に食べられなかったので、目の前にお菓子があれば食べたいと思うのは自然の摂理と言うやつだ。

 それに――何かをねだったときのオリヴィアの「しょうがないわね」みたいな顔は、なんか嫌いじゃない。


(オリヴィア様のことは嫌いだけど! でもいい人なんだとは、思うもの……)


 ティアナはオリヴィアを陥れようとしたことがある。

 意地悪もしたし、言ったし、婚約者だったアランを奪ったし、ずっと馬鹿にしてきたし――ティアナが同じことをされたら、大嫌いになって二度と顔も見たくないと思う。

なのにオリヴィアは、過去のことはすべて水に流したと言うようにティアナにも優しくしてくれるから、つい甘えてみたくなる。

 お菓子をねだるのも、食べたいのはもちろんだが、オリヴィアがどこまで甘えても許してくれるか試してみたくなるからだ。

 次は何をもらおうか。そんなことを考えながらお菓子の棚を見ていたら、そこにあるものを全部覚えてしまっただけである。


(オリヴィア様は今日、久しぶりに登城した。わたくしを抜きに登城してないと言っていたから、新しいお菓子があるのはおかしいもの)


 お菓子の箱をサイラスがこっそり置いたとも考えられない。サイラスはたぶん、こっそりプレゼントするのではなく、オリヴィアからの「ありがとうございます」という一言と笑顔をもらうために直接手渡すタイプだからだ。


「だからこの箱は知らない箱なんです! オリヴィア様の部屋にこっそりお菓子の箱を置くなんて怪しすぎじゃないですか!」

「……まあ、確かにな」

「何もなかったらそれでいいけど……オリヴィア様、なんかちょっと危なそうな橋を渡ってるみたいだし……」

「ずいぶんオリヴィアと仲良くなったんだな」

「なってません!」


 ティアナは噛みつくように否定して、それからぷくっと頬を膨らませた。

 アランがニヤニヤ笑うのがムカつく。でも、今のアランを見ていたら、以前ティアナと婚約していた時のアランは、ティアナに本当の自分を見せていなかったのだなと感じた。こんな風に言いあったこともなければ、手本のような笑顔以外の彼の笑顔を見たことがない。


(……殿下も、王太子っていう重責のせいで、いろいろ我慢していたのかしら?)


 ティアナと婚約していた時、アランは「紳士」だった。オリヴィアにとって「紳士」だったのかどうかは知らないが、少なくともティアナにはそうだった。

 今と同じように感情は顔に出やすかったけれど、ティアナに対して強い感情をぶつけることはなかった。ティアナの中でアランはいつも「王子様」だった。まるで物語に出てくる王子様のような存在だったのだ。

 ティアナには難しいことはわからないけれど、ティアナが知っている昔のアランより、今のアランの方が肩の力が抜けて見える。物語の王子様からは遠のいた感じがするが、ティアナは今のアランの方がいいと思った。


 オリヴィアにしたってそうだ。

 かつてのオリヴィアは、口数が少なく、いつもどこか困ったような笑顔を浮かべて――頭の中がからっぽな人形のようだとティアナは思っていた。何を言われても微笑むオリヴィアがちょっと不気味だった。

 でも今のオリヴィアは違う。昔のオリヴィアは「大嫌い」だったけれど、今のオリヴィアは「ちょっと嫌い」くらい。そしてちょっと……「いい人」。


「ごめん、遅れて」


 ニヤニヤ笑いのアランをどうにかしてやり込められないだろうかと考えていると、サイラスがやってきた。部屋にティアナがいるのを見て目を丸くする。


「え、なんでここにフランが……?」

「ちょっと変なものを見つけたんです。だからアラン殿下を通してサイラス殿下に届けてもらおうと思って」


 ティアナは簡単にここに来た理由を説明して、サイラスに持って来た水色の箱を手渡す。

 サイラスはすっと目を細めて箱を受け取ると、中身を確かめて頷く。


「――お手柄だよ、フラン」


 その声の低さに、ティアナはぞくりとした。


(やっぱりサイラス殿下はやばいわ。……どこの誰だか知らないけど、虎の尾を踏んだわね。しーらないっと)





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