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the bleeding echo  作者: りず
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窓辺の二人

少し怖いのでそういうの苦手なお方は読まないほうがいいと思います。

# The Bleeding Echo

## 第一章 窓辺の二人


森の奥に、名前のない屋敷がある。


いつ建てられたのか、誰が住んでいたのか。知っている者は誰もいない。地図には載っておらず、近くの村でその存在を尋ねても、老人たちは決まって口を閉ざした。


ただ、一つだけ、誰もが同じことを言った。


――夜になると、二人の女が現れる。


黒いドレスを着た女たちは、屋敷の二階の窓辺に立っている。互いに背を向け、ぴたりと同じ姿勢で。顔も、髪も、背丈も、まるで鏡に映したように同じだという。


そして、二人の間には、ひび割れた黒いハートが浮かんでいる。


それを見た者の中には、翌日から何も変わらず生活する者もいた。


一方で、何かに追いかけられるようになった者もいた。誰もいない部屋から声が聞こえる者。鏡に映る自分が、ほんの一瞬だけ別の表情をする者。時計が同じ時刻で止まり、何度直しても動かなくなる者。


奇妙なことに、彼らの証言は一致しなかった。


女は一人だった。


いや、二人だった。


黒いハートなんて見なかった。


そもそも、屋敷には誰もいなかった。


そして、彼らは最後に決まって、こう尋ねた。


「……私は、何を見たんだ?」


*


「本当に行くの?」


ミラは、森へ続く細い道の前で足を止めた。


夕暮れはとうに過ぎ、木々の隙間には夜が沈んでいた。湿った土の匂いが漂い、風が吹くたびに、枝葉が誰かの囁き声のように擦れ合う。


隣に立つエリアスは、懐中電灯を持ち直した。


「ここまで来て帰るのか?」


「帰るとは言ってない。ただ、思ったより不気味だなって」


「噂の屋敷なんだから、当然だろ」


エリアスは軽く笑った。


彼は都市伝説や怪談を、どこか面白い娯楽のように考えている。何かを見つければ証拠を持ち帰り、何もなければ噂の発生源を調べる。それが彼のやり方だった。


ミラは違う。


彼女は、説明できないものを簡単に否定することができなかった。


だからこそ、ここへ来たことを少し後悔していた。


「行こう」


エリアスが歩き出す。


ミラは一度だけ背後を振り返った。街の明かりは、すでに木々の向こうへ消えている。


森は静かだった。


静かすぎるほどに。


*


屋敷の正面扉は、半分開いた状態で放置されていた。


木製の扉には無数の傷があり、取っ手は錆びついている。エリアスが押すと、長い間使われていなかった扉が、耳障りな音を立てて開いた。


中は、外から見た以上に広かった。


玄関ホールの天井には大きなシャンデリアが吊るされていたが、装飾のほとんどが失われ、残っているガラス片も埃に覆われていた。壁紙は剥がれ、床には割れた額縁や木片が散らばっている。


「誰かが住んでいた形跡はあるな」


エリアスが懐中電灯を向けた。


壁には、何枚かの絵が掛けられていた。どれもひどく古びていたが、一枚だけ、妙に目を引くものがあった。


少女の肖像画だ。


黒い髪。白い肌。こちらを見つめる、暗い瞳。


その顔には、なぜか名前を書いた跡だけが残っていた。


文字は、刃物か何かで削り取られていた。


「ミラ?」


エリアスの声に、ミラは顔を上げた。


「何?」


「ぼうっとしてるぞ」


「……ううん。何でもない」


彼女はもう一度、肖像画を見た。


少女の目は、さっきよりも少しだけ細くなっているように見えた。


気のせいだ。


そう思い、ミラはエリアスの後を追った。


二人は階段を上り、二階の廊下へ進んだ。


そのときだった。


カチ。


どこかで、小さな音がした。


時計の針が動く音に似ていた。


「今の、聞こえた?」


ミラが尋ねる。


エリアスは立ち止まり、耳を澄ませた。


「何も」


カチ。


今度は、はっきりと聞こえた。


音は廊下の奥から響いていた。


二人は顔を見合わせた。


そして、ほとんど同時に、廊下の突き当たりへ目を向けた。


窓があった。


月明かりの差し込む、古い窓。


その前に、二人の女が立っていた。


*


女たちは、背中合わせだった。


黒いドレスの裾は床に触れ、長い髪が肩から静かに垂れている。


顔立ちは完全に同じだった。目の形も、唇の薄さも、顎の線も。


違うのは、表情だけだった。


一人は、何も感じていないような無表情。


もう一人は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。


そして二人の間には、黒いハートが浮かんでいた。


それは、まるでガラス細工のようだった。表面には深い亀裂が走り、内側から黒い液体のようなものが滲んでいる。


けれど、床には一滴も落ちていなかった。


ミラは息を止めた。


「……エリアス」


返事はない。


「エリアス?」


隣を見る。


彼は、何もない窓辺を見つめていた。


「どうした?」


「見えないの?」


「何が?」


ミラは再び窓へ目を向けた。


二人の女は動かなかった。


ただ、泣きそうな顔をした女だけが、ゆっくりと視線を動かした。


彼女の目が、ミラを捉えた。


その瞬間、ミラの耳元で、何かが囁いた。


――やっと。


声ではなかった。


音でもなかった。


それなのに、ミラには確かに聞こえた。


女の唇が動いていた。


――やっと。


もう一人の女も、同じように唇を動かした。


――やっと。


二人は背中合わせのまま、まったく同じタイミングで、ミラを見ていた。


その間に浮かぶ黒いハートが、ひび割れた表面を軋ませた。


ピシッ。


乾いた音が響いた。


ミラは一歩後ずさった。


「帰ろう」


エリアスが言った。


彼の声は、いつもと変わらなかった。


「え……?」


「何か嫌な感じがする。もう十分だろ」


彼はミラの腕を掴み、階段へ向かった。


ミラは何度も振り返った。


女たちは、まだそこにいた。


そして、最後に振り返ったとき。


泣きそうな顔をしていた女が、笑っていた。


*


二人が屋敷を出た瞬間、背後から鐘の音が響いた。


一度。


二度。


三度。


ミラは足を止めた。


「……時計?」


「何の話だ?」


エリアスは振り返りもしなかった。


鐘の音は続いた。


四度。


五度。


六度。


その音は、屋敷の中からではなく、森の奥から聞こえているようだった。


七度。


八度。


九度。


ミラは走り出した。


エリアスも何も言わず、彼女と並んで走った。


木々の間を抜け、ぬかるんだ道を駆け下りる。枝が服に引っかかり、足元で枯れ葉が砕けた。


背後から、足音が聞こえた。


二人分ではない。


三人分でもない。


数えようとするたびに、音の数が変わった。


ミラは振り返らなかった。


やがて森を抜け、街灯の明かりが見えたとき、鐘の音は唐突に止んだ。


二人は道端で立ち止まり、荒い呼吸を整えた。


「……何だったんだ、今の」


エリアスが呟く。


ミラは答えられなかった。


ただ、手のひらに冷たい感触があることに気づいた。


恐る恐る開いてみる。


そこには何もなかった。


けれど、手のひらの中央だけが、まるで氷に触れた後のように冷え切っていた。


*


翌朝。


ミラは、自分の部屋で目を覚ました。


カーテンの隙間から朝日が差し込み、窓の外では鳥が鳴いている。


いつもと変わらない朝だった。


昨夜の出来事を除けば。


彼女はスマートフォンを手に取り、エリアスにメッセージを送った。


『昨日のこと、覚えてる?』


返事はすぐに来た。


『屋敷に行ったこと? 覚えてるよ』


ミラは少し安心した。


しかし、次のメッセージを見て、指が止まった。


『結局、何もなかったな。誰もいなかったし』


誰もいなかった。


ミラは何度もその文章を読み返した。


『二人の女を見たでしょ?』


送信。


しばらくして、返事が来た。


『二人? 何の話?』


ミラの指先が冷たくなった。


彼女はスマートフォンを置き、窓の外を見た。


ガラスに、自分の顔が映っている。


その背後に、何かが浮かんでいた。


黒いハート。


ひび割れた、あのハート。


ミラは振り返った。


部屋には誰もいない。


再び窓を見る。


今度は、ハートの下に文字が浮かんでいた。


**「あなたには、何人に見えた?」**


ミラは後ずさった。


その瞬間、部屋の時計が音を立てて止まった。


針は、二時十三分を指していた。


*


その日の午後、ミラは図書館を訪れた。


昨夜のことを誰かに話したかったわけではない。ただ、屋敷について調べずにはいられなかった。


古い新聞。地元の記録。過去の事件。


何でもいい。


何か一つでも、あの屋敷が実在することを証明してほしかった。


受付にいた老婦人は、ミラの話を最後まで黙って聞いた。


屋敷の場所を告げたときも、二人の女の特徴を説明したときも、表情を変えなかった。


ただ、黒いハートについて話した瞬間、彼女の手が止まった。


「……それを見たのね」


ミラは顔を上げた。


「知っているんですか?」


老婦人は答えず、奥の書庫へ向かった。


しばらくして戻ってきた彼女の手には、黄ばんだ一枚の紙があった。


「昔、ここで働いていた人が残したものよ。正式な記録ではないから、信じる必要はないわ」


紙には、震えた文字でこう書かれていた。


『屋敷で女を見た。


一人だった。


いや、私は一人で行ったのだから、そこにいたのは一人のはずだ。


違う。二人いた。


黒いものが浮かんでいた。


片方が私を見ていた。


もう片方は、私の顔をしていた。


私は、どちらを見たのだろう。


私は、本当に一人で帰ってきたのだろうか。』


最後の一文は、何度も書き直されていた。


紙の端には、小さく日付が記されている。


その人物は、この記録を書いた三日後に亡くなっていた。


「どうして亡くなったんですか?」


ミラが尋ねると、老婦人は静かに紙を裏返した。


「分からないの。記録には、何も残っていないから」


「でも、あなたは知っているんですよね?」


老婦人はミラを見つめた。


その目には、恐怖とも、哀れみともつかない色が浮かんでいた。


「一つだけ、覚えておきなさい」


彼女は囁いた。


「二人とも、死んでいる。なのに、どうして片方だけが泣いているの?」


ミラは息を呑んだ。


その問いが、頭の中で何度も繰り返される。


二人とも、死んでいる。


ならば、あの二人は何者なのだろう。


そして、なぜ自分だけに見えたのだろう。


「……あの」


ミラが顔を上げたとき、老婦人の姿はなかった。


受付にも、書庫にも、誰もいない。


図書館は、奇妙なほど静まり返っていた。


ミラはゆっくりと振り返った。


窓ガラスに、二人の女が映っていた。


一人は、泣いていた。


もう一人は、笑っていた。


その間には、ひび割れた黒いハートが浮かんでいる。


そして、二人の背後に。


もう一つの影が立っていた。


ミラは目を見開いた。


その影は、彼女自身の姿をしていた。


窓の向こうのミラが、ゆっくりと口を開く。


声は聞こえなかった。


けれど、唇の動きだけは、はっきりと読み取れた。


――あなたは、何人?


その瞬間、図書館の時計が止まった。


二時十三分。


ミラは、もう一度だけ窓を見た。


そこには、自分しか映っていなかった。


ただし。


ガラスに映った自分だけが、泣いていた。

もう自分でも怖くなります…一旦AIを使った作品を先に進めてから人口の雨を進めようと思います。

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