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転生したので田舎で錬金工房を始めます ~地味な生活用品を作っていたら、なぜか王都で大騒ぎになりました~  作者: レモンティー


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■第四十二話 数字の合わない荷物

「生産量より、出荷量が多い?」

沙樹は報告書をもう一度見た。

北東部。

ある地域の鉱山から出荷された鉄鉱石。

年間生産量は三十万トン。

ところが。

各商会と運送業者の記録を集計すると、出荷量は三十五万トンになっていた。

五万トン。

数字が合わない。

「どこかの記録が間違っているんじゃないですか?」

調査員が言った。

「もちろん、その可能性が一番高い」

沙樹は頷いた。

「だから、いきなり不正とは考えない」

「はい」

「まず、数字の定義を確認する」

沙樹は資料を並べた。

鉱山側の『生産量』。

倉庫側の『入荷量』。

運送業者の『積載量』。

商会の『購入量』。

港の『搬出量』。

それぞれ数字がある。

「問題は」

沙樹は指を差した。

「全部が同じものを数えているとは限らない」

「同じ鉄鉱石なのに?」

「例えば、鉱山が採掘した時点で数えるのか」

「洗浄後に数えるのか」

「不純物を除いた後なのか」

「倉庫に入った時点なのか」

「それぞれ違えば数字はズレる」

調査員が頷いた。

「なるほど」

「だからまず、単位と測定地点を統一する」

これまで作ってきた規格。

それを物流にも適用することになった。

『全国物資流通計量基準』

物資の種類。

重量。

数量。

測定時点。

測定場所。

荷姿。

容器重量。

そして。

『誰が測ったか』

まで記録する。

「そこまでやるんですか?」

「やる」

沙樹は即答した。

「数字が合わないなら、数字の作り方から確認する」

調査団が北東部へ向かった。

最初に訪れたのは鉱山だった。

「今年の生産量は三十万トンです」

鉱山責任者が帳簿を見せる。

「測定方法は?」

「採掘した鉱石を秤で測っています」

「不純物は?」

「含んでいます」

「なるほど」

次に倉庫。

「入荷量は三十二万トンです」

「三十万トンより多いですね」

「はい」

「なぜ?」

倉庫責任者は困った顔をした。

「近隣の小規模鉱山からも入ってきます」

「……」

沙樹は帳簿を確認した。

確かに。

小規模鉱山の記録が別になっている。

合計すると。

三十二万トン。

「じゃあ、残り三万トンは?」

今度は港へ向かった。

港の記録では。

三十五万トンが搬出されている。

しかし。

「これは鉄鉱石だけですか?」

「いえ。銅鉱石や別の鉱石も含まれています」

「……」

また分類方法が違う。

沙樹は頭を抱えた。

「数字が合わない理由が、どんどん出てくる」

調査員が笑った。

「不正ではなく?」

「今のところ、帳簿の作り方がバラバラなだけ」

しかし。

そこで終わらなかった。

分類を統一し。

重量単位を統一し。

測定地点を統一する。

すると。

三十五万トンのうち。

三十四万一千トンまでは説明できた。

残り。

九千トン。

「……まだ合わない」

沙樹は資料を見つめた。

「九千トンはどこへ?」

今度は運送業者を調べた。

「この荷車隊は、どこへ運んでいます?」

「西の製鉄町です」

「記録は?」

「あります」

「じゃあ、こっちは?」

「南の港です」

「こっちは?」

「山奥の精錬所です」

一つずつ追跡する。

荷物。

荷車。

倉庫。

港。

工場。

そして。

ある小さな街道に行き着いた。

「ここは?」

調査員が尋ねる。

「古い街道です」

「なぜここを通るんです?」

運送業者が答えた。

「大きな街道より近道だからです」

沙樹は周辺地図を見た。

確かに。

大きな街道を通れば遠回りになる。

だが。

この古い街道には問題があった。

「行政の通行記録がない」

「え?」

「誰も管理していない」

古い街道。

昔は使われていた。

しかし。

大街道が整備されてから。

正式な物流路として扱われなくなった。

ところが。

実際には。

毎日のように荷車が通っている。

「つまり」

調査員が言った。

「物資は存在する」

「でも、国の物流統計には入っていない」

「そういうこと」

さらに調べると。

この街道だけで年間数千台の荷車が通っていた。

食料。

木材。

鉱石。

布。

塩。

生活用品。

大量の物資が流れていた。

しかし国の統計にはほとんど記録されていない。

沙樹はしばらく黙っていた。

「……これ、全国にあるんじゃない?」

「まさか」

「分からない」

沙樹は地図を広げた。

「でも、一つ見つかったなら」

「他にも?」

「可能性はある」

そこで。

全国の運送業者に調査票を送ることになった。

「使っている道を全部書いてください」

「正式な街道だけでなく」

「農道」

「旧街道」

「山道」

「川」

「小さな港」

「渡し場」

「どんな経路でも」

そして。

一か月後。

回答が集まった。

沙樹はその数に驚いた。

「……こんなに?」

全国各地に。

国が正式に把握していない物流経路が存在していた。

大きな道ではない。

小さな道。

昔の街道。

村同士を結ぶ道。

川を利用した輸送。

農閑期だけ使われる道。

冬だけ使える雪道。

小さな港。

「国が知らない道が、これだけある」

役人が絶句する。

沙樹は言った。

「でも、国が知らないだけで」

「使っている人は知っている」

その言葉が重要だった。

行政から見れば。

「存在しない物流経路」。

商人から見れば。

「昔から使っている道」。

二つの認識が違っていた。

沙樹は提案した。

「全部を国道にする必要はありません」

「では?」

「物流地図に載せる」

『全国物流経路台帳』

道路の種類。

通行可能な季節。

一日の通行量。

荷車の最大重量。

橋の状態。

水路の深さ。

港の規模。

通行料。

管理者。

そして。

災害時に使用できるかどうか。

「これなら」

沙樹は言った。

「大街道が使えなくなったとき、代替ルートが分かる」

「災害対策にもなる」

「食料不足にも使える」

「軍の補給にも使える」

「商人も使える」

「……」

役人が資料を見つめた。

「これ、かなり重要な資料になりますね」

「そう思う」

ところが。

調査を進めるうちに。

さらに奇妙な事実が見つかった。

ある地方では。

公式統計よりも。

実際の物流量が大幅に多かった。

原因は。

小規模商人だった。

「小さな商人?」

「はい」

大商会は帳簿を提出している。

しかし。

村の小さな商人。

家族経営の工房。

農家同士の直接取引。

市場での交換。

こうした取引の多くが。

統計から抜け落ちていた。

「……国全体の経済規模も」

沙樹は呟いた。

「実際より小さく見えている可能性がある」

財務官が驚いた。

「税収の計算にも影響します」

「はい」

「経済政策にも」

「はい」

「人口政策にも」

「はい」

沙樹は頷いた。

「だから、また国政の人たちに渡しましょう」

数週間後。

王都で再び会議が開かれた。

今回は以前よりも参加者が多かった。

商会。

ギルド。

農業組合。

運送業者。

港湾関係者。

地方行政。

財務担当。

農政担当。

軍。

都市計画担当。

そして沙樹。

壇上には。

新しい地図が掲げられていた。

そこには全国の物流経路が描かれている。

大街道だけではない。

小さな道。

川。

港。

旧街道。

村道。

季節道路。

「これが」

沙樹は言った。

「実際に人と物が動いている経路です」

会場がざわめいた。

「国が管理している道だけではありません」

「商人が使う道」

「農家が使う道」

「村人が使う道」

「船が使う水路」

「全部です」

財務官が地図を見る。

「……国の地図より、はるかに複雑だ」

「現実は複雑ですから」

沙樹は答えた。

「だから、地図を現実に合わせる必要があります」

会議では。

また多くの案が出された。

重要な物流路を優先的に補修する。

橋を架け替える。

小さな港を整備する。

冬季輸送路を確保する。

物流拠点を増やす。

小規模商人も統計に参加できる簡単な仕組みを作る。

そして「国が全部管理する必要はない」

沙樹は念を押した。

「地域の人が管理できる道は、地域で管理する」

「国は重要な部分を支援する」

「商人から情報を集める」

「そして情報を公開する」

こうしてまた一つ国の仕組みが変わっていった。

物流は大商会だけのものではない。

大街道だけのものでもない。

小さな荷車。

小さな店。

小さな農家。

小さな工房。

それら全部が。

国の経済を動かしていた。

会議が終わった夜。

沙樹は一人で資料を整理していた。

すると。

一枚の報告書が目に入った。

『地域間物流量と税収の関係』

数字を追う。

物流が増えた地域では。

税収も増えている。

だが一部の地域だけ。

物流が急増しているのに

税収がほとんど増えていない。

「……まただ」

調査員が振り返る。

「何がです?」

沙樹は資料を指差した。

「今度は税収が合わない」

「物流量は正しい?」

「まだ分からない」

「では、調べますか?」

沙樹は少し考えた。

そして笑った。

「もちろん」

一つの数字のズレを追う。

するとまた別の問題が見えてくる。

そして解決してゆくことでこの国の仕組みそのものが

少しずつ変わっていくことになるのだった。

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