表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/55

16話【怠惰】圧倒的な暴力

「ゴアアアアアァァァァァ!!(行くぞ、死神……ッ!!)」


俺の咆哮が、凍りついた大気を切り裂いた。

迅雷纏装(ボルト・アクセル)】の出力を最大に引き上げる。全身から溢れ出した青白い火花が、ヒビを修復したばかりの黒騎士の鎧を雷光の衣で包み込む。


俺は地を蹴った。

音速を超えた踏み込み。視界の景色が線となって後方へ流れ、俺の放った全力の一撃――黒き魔剣が、ギロチン・レクスの胸部に生えた骸骨の剥き出しの首筋へと肉薄する。


(この速度なら――!)


だが。

変異した死神は、身体を動かす事すらしなかった。

ただ、その胸部にある骸骨の、虚無を湛えた瞳が僅かに動き、俺を|《《》》射抜いた|《《》》。


「――ッ!?」


その瞬間、世界から音が消えた。

いや、大気そのものが数百倍の質量となって、俺の全身を圧殺しに来たのだ。


(【魔力暴食】で吸い取れな……いや、ダメだッ!)


直感的に理解した。この重圧は、放射される魔力の弾丸ではない。視界に捉えた空間の事象を強引に書き換える権能だ。

魔力暴食(マナ・ドレイン)】や【万象濾過(オール・フィルター)】が機能するのは、あくまで流れがあるものに対してのみ。空間そのものが重いと確定されてしまえば、スキルを使用する対象すら存在しない。


「グ、アァァァァァッ!?」


首筋まであと数センチ。その距離が、永遠に届かない奈落の淵のように遠ざかる。

ギロチン・レクスの瞳に宿る真紅の光――それは視界に捉えた存在の重力を自在に操作する、スキルの行使。


俺はなんとか死神の使うスキルを【真理の眼(エピタフ)】で見てみる。


《ギロチン使用スキル【死界の重力眼(グラビティ・アビス)】》

《回避不能。防御不能。》


俺の身体は、目視不可能な衝撃波によって強引に方向を捻じ曲げられ、弾丸のような速度で背後の壁へと叩きつけられた。


ドォォォォォォンッ!!!


新宿ダンジョン第45層、その堅牢な外壁が、俺という弾丸を受けて巨大なクレーターを描く。

だが、死神は攻撃を止めない。

奴がその瞳をさらに見開いた瞬間、壁にめり込んだ俺の身体に、追い打ちをかけるような、水平方向の重圧が襲いかかった。


「カハッ、……ガッ……!!」


メキメキ、と。

不快な金属音が響く。かなりの強度を誇るはずの黒騎士の鎧が、紙細工のようにひしゃげ、俺の四肢を壁の奥深くへとさらに押し込んでいく。

肺の中の空気が無理やり押し出され、視界に赤い火花が散った。


(ふざけんな……。ただ|《《》》見た|《《》》だけで、これかよ……!)


51というレベル差。それは、単なる数値の積み重ねではない。

存在そのものの次元が違う。(ことわり)を書き換える力の強さが、圧倒的に足りない。

ギロチン・レクスは、ただそこに君臨しているだけで、周囲の法則を己の都合の良い地獄へと書き換えていた。


だが、これほどの衝撃を受けても、俺の意識は驚くほどに冷静だった。

全身を駆け巡る激痛は、【超再生組織+9】によって即座に再生される。

鎧は無残にひしゃげても、俺には、致命的なダメージは入っていなかった。


「……ッ、ガァ……(まだ、終わらねえ……ッ!!)」


俺は壁にめり込んだまま、【真理の眼(エピタフ)+3】を全開にした。

重力眼によって歪められた空間の継ぎ目を探す。

未来視が、一秒後にさらに強まる重圧の波長を捉えた。


(まずい! あれをくらったら、ますます身動きがとれなくなっちまう……内側に溜め込んだ魔力を、一滴残らず……絞り出せッ!!)


俺は【暴食の王(ベルゼブブ)】でこれまで捕食し、深淵に蓄積してきた膨大な魔力貯蔵(リザーブ)の弁を、意識的に破壊した。理屈じゃない。ただ、この絶望的な重圧をブチ壊したいという、純粋な飢えと本能。

その瞬間、脳内に無機質なシステム音声が響き渡った。


《個体名:カイトの種族特性が生存本能と共鳴》

《固有アクティブスキル:【魔力纏い(マナ・バースト)】を獲得しました》

《――魔力貯蔵(リザーブ)を強制開放します――》


魔力纏い(マナ・バースト)

《放出された魔力が自身の周囲に、対抗魔圧層を形成》

《全能力値を1.5倍に引き上げるが、持続時間は魔力残量に依存》


「オ、……オォォォォォォッ!!」


俺の咆哮と共に、黒銀の鎧の隙間から銀灰色の魔力が爆発的に吹き出した。

重力そのものを吸い取ることはできなくとも、外側に膨大な魔力の障壁を張り巡らせることで、重力のベクトルの侵入を物理的に阻害する。

【魔力暴食】と【万象濾過】を逆噴射するように全開に回し、空間の歪みを強引に押し返した。


バリィィィィィィィンッ!!!


俺を拘束していた不可視の重力が、硝子細工のように粉々に砕け散る。

ひしゃげていた空気が一瞬で弾け飛び、俺は自力で壁のクレーターから這い出した。無理やりこじ開けた、俺だけの自由。


(……上等だ)


全身を駆け巡る、狂気的なまでの魔力の奔流。

鎧は銀灰色のオーラを纏い、ひび割れた箇所から溢れる光が、まるで新たな筋肉のように脈動している。


俺は再び魔剣を構え、その仮面の奥で、冷酷に、そして愉悦を隠さずに口角を上げた。


「グガア(……待たせたな。ここからは、俺のターンだ)」


俺は壁を蹴り、音速の壁を突き破る衝撃波と共に、死神の懐へと肉薄した。

周囲に展開されるは、銀色の流体金属から生成された百振りの魔剣。

その一振り一振りに、俺の【魔導溶解腐食液】と、超振動の権能がある。


(【魔剣生成(ブレード・ワークス)】――掃射ッ!!)


俺の全火力を乗せた百の銀光が、死神の巨躯へと殺到した。

それと同時に、俺自身も【三次元適応歩法】で様々な方位から肉薄する。

右、左、上空。残像すら発生させる超加速。


ギィィィィィィィンッッ!!


魔剣が、ギロチンの土気色の肉体を、あるいは(うごめ)く無数の腕を次々と切り裂いていく。

腐食液が肉を焼き、超振動がその細胞を粉砕する。

たとえ相手がLv 150だろうと、俺の全火力を一点に集中させれば、削れない道理はない。


(――このまま押し切るッ!!)


俺は手応えを感じ、右手の魔剣を最大出力で振り下ろした。

ギロチンの胸部、あの歪な笑みを浮かべる肉塊の顔を真っ二つに叩き斬る。

鮮血の代わりにどす黒い霧が噴き出し、怪物の巨体が大きくのけぞった。


だが――。


「ギ、……ギギ…………」


不気味な声が響いた。

次の瞬間、俺の視界の中で、信じられない光景が繰り広げられた。

斬り飛ばされた腕が、真っ二つに割れた肉塊の顔が、重力を無視して宙に浮き、磁石に吸い寄せられるように元の場所へと戻っていく。


いや、戻るだけではない。

まるで、最初から|《《》》斬られていなかった|《《》》かのように、傷口そのものが消失していた。


(……再生能力? いや、違う。これは……時間の巻き戻しか!?)


真理の眼(エピタフ)】が、周囲の因果の歪みを捉えた。

俺が【迅雷纏装】で加速すればするほど、ギロチンの周囲だけが、泥沼のように遅くなっていく。

俺の攻撃が届く直前で減速し、威力を削がれ、さらに与えたダメージさえもが無かったことにされていく。


そして、システムが非情な宣告を告げた。


《警告:真・ユニークスキル【怠惰の王(ベルフェゴール)】の発動を確認しました》



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ