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【R15版】徨う花の物語(さまようはなのものがたり)  作者: 紫瞳鸛
第一部 転生 第3章 姫花草

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第67話 変凡な美形

「おお、何時もながら一瞬で!」

「恩に着るよ。牛頭鬼バイペドルスが、前衛を踏み台にして飛び越えやがって」

「本当に、牛頭鬼には油断できませんよね!」

「ふふ、マナグ隊長もアザルさんも、すっかり顔馴染みですね」

「こりゃ参ったね。光魔術士サンクタルティスタさまと馴染みなんて、自慢にもなりゃあしねえ」


 転生二十五日目の夕方。わたしたちは、いつもの治療仕事を熟していた。マナグさんたち「硬化石の守り」は本当に常連の患者さんだ。こう言っては悪いけれど腕の方はあまり…という気がする。少なくとも、「赤い棘(プカ・キスカ)」の方がずっと上よね。いい人たちなのだけれど。


 寝坊してしまったし、「完全版」魔法袋を起動したりしたから、朝の治療は間に合わなかった。起動操作は拍子抜けも良いところだった。ショウと見詰め合いながら魔法陣に指を添え、確かな愛を感じて心が震えたと思ったら、あっさりと起動していた。モモも笑顔で二人の肩に手を副えていてくれたしね。


 そして気分良く、いえ、気分を落ち着かせることを意識しながら狩りに臨み、森の浅層で牛頭鬼2頭と藪小鬼(グロブホルト)4匹を仕留めた。それから「完全版」の効果を確かめるために肉の一部は組合には卸さずに魔法袋に入れたまま、グラファさんのお店で買い物をして、北側に舞い戻って夕方の治療仕事をしていたのだ。


 そろそろ引き上げ時かな、と思い始めた時分に縞馬に牽かれた馬車が通り過ぎた。この世界の馬車は、地球で記憶にある形とは少し違う。車輪の外側から四本の支柱が伸びて、客車が吊り下げられているのよね。車輪には皮が巻かれているし、縞馬も脚に毛布みたいなカバーを履いている。


 地球では車輪に鉄が巻かれているし、馬も鉄製の蹄鉄だ。だから石敷の道を通る馬車は、物凄い騒音を立てて道路を削っていた筈だ。でもこちらでは、車輪はガラガラでは無くシュルシュルという響きだし、馬もパカパカというよりもホコホコという足音になるから、意外と静かなのよね。


 ショウに拠ると、砂魔法で整備されている帝国街道の石畳が滑らかな所為だろう、とのこと。継ぎ目のない完全に平らな道では無く、排水のためと恐らくはスリップ防止のために、浅い溝が刻まれている。だから石畳というよりも、透明感のある石製のフローリングのように見える。


「でも革巻き車輪と毛靴の脚だと、耐久性は劣る。特に街道以外の砂利道や土の道で困る筈だ。あの皮をパカっと外すと鉄が巻いてあるのかな。蹄鉄も道に合わせて着脱するのかな。そう言えば、北砦に巨大な鼠車みたいな起重機があるから、あれで持ち上げて着脱するのかな。それにしては大き過ぎる起重機のような?」


 そう、砦の厩舎には起重機、クレーンがあるのだ。残念ながら動いているところを見たことがない。聞く訳にもいかないし。先程の馬車が目の前を通り過ぎる。武装した男性が一人、徒歩で随行している。馬車は今まで止まってくれた試しがないのよね、と考えていたら、なんと少し先で停止した!


 驚いて顔を見合わせていると、馬車の扉が開いてローブを着た女性が降り立ち、こちらに向かって歩いてきた。

「申し。光魔術士の森人さまとお見受けいたします。わたくしは「奏焔のロジデ」に繋がりまするカエノメレス郷士家はメディオ様に仕える者にございます。御名と御家名をお明かし願えませんでしょうか」


 女性は丁寧な仕草で例の挨拶をする。「胸礼」と言うらしいと最近、知った。森人の関係者? そして前が開いたローブの下には深紅色のボディス! 魔術士との初遭遇ね。ここはわたしの出番だろう。


「ショウ様、にございます」

 わたしは一歩前に出ると、堂々とした態度を意識しながら告げた。

「……申し訳も立ちませぬことながら、御家名を聞き逃してしまいました」

「故あって、明かせません」


 女性は思わず、といった感じで顔を上げると、フードを降ろしていたわたしたち三人の顔を代わる代わる見た。年の頃は三十前後だろうか。顔の造作がはっきりしていて、ボディスで強調された胸も腰回りも豊麗な女性だ。

「失礼しました。暫し、お時間をいただきたく……」


 女性はもう一度礼をすると、さっと身を翻して馬車に戻った。扉越しに中の人物と話しているようだ。やがて彼女は馬車の傍に傅き、颯爽とマントを捲り上げた男性が軽やかに地面に降り立った。白肌に金髪。間違いない、この世界へ来て初めて出会う、ショウ以外の森人だ!


 深紅色のマントの下は鋼で補強した革鎧。赤黒い革色が渋い印象を与えている。胸には五枚の花弁の花が…取り立てて特徴のない平凡とも言える花が…象られた紋章が刻まれている。そう言えば、女性のボディスにも同じ紋章があった?


 近付いてくる森人を見て、わたしは思わずモモを振り返ってしまった。彼女は頷き返す。同じことを感じたのだろう。確かに美形だ。年齢も不詳で如何にもエルフ。でも……森人の男性は、ショウを見て驚いた表情をその薄紫の瞳に漂わせながら両膝を突き、頭を下げて両手をクロスさせて胸に当てつつ話し始めた。


「口上を申し上げます。これなるメディオは「奏焔のロジデ」の遠く細き枝より出し者。カエノメレス郷士家は当主を継ぐ幹にございます。どうか、ショウ様に置かれましては、その大いなる幹の御名をお明かし願えませんでしょうか」

 いつかこういう事態になるとは思っていたけれど。ショウ、お願い!


「顔をお上げください。僕…私には語るべき名はありません。恒神様より賜りました光の技の才を恃みとして、この世界で生を全うすることを決心した若造に過ぎません。どうか、非礼のほどは平にお許しを」

 彼はさっと跪くと、深々と頭を下げながら左胸に拳を当てて「胸礼」で返した。わたしとモモも彼に倣う。


「…………」

 メディオ…様?は身動ぎをした後で、何かを噛み締めるような複雑な表情を見せたあと、わたしとモモの顔を交互に見詰め、ついには納得顔で話し始めた。

「……なるほど。ご安心召され。このメディオから花粉が飛ぶようなことは、決してありませぬぞ!」

 これって何度目だろう。「なるほど」と納得した理由、わたしが知りたい。


「さて。いずれにせよ、若き光の使い手(サンクタルティスタ)でいらっしゃることは確かですな。我ら四人の旅の汚れを清めていただきましょう。カリン!」

 モモとわたしは、タイミングを合わせるように立った森人二人の後になるように腰を上げた。メディオ様の後ろに控えていたカリンさんが少し遅れて立ったから。

「畏まりました。ショウ様、我ら四名を【清浄エウェッレ】願います」


「四人で銀貨8枚になります」

 ショウの答えに、カリンさんはチラリとメディオ様に視線を向けた。

「才を安売りに過ぎるのは感心しませんぞ。いや、年振りたる者の戯言でしたな」

 ショウは、メディオ様、カリンさん、徒歩の護衛、そして馬車の前から降りてきた馭者の男性、を順番に【清浄】した。男性三名は色揃いのマントと皮鎧だ。


「ふむ。その瞳色にふさわしき技の輝き、真花まことに感服いたしました。我らは公使の任務中でしてな。明後日の朝には発たねばなりません。これにて失礼を。また葉面を相会わさぬことを!」


 今度は胸礼をしたメディオ様は、颯爽とマントを翻して馬車へと戻っていった。カリンさんがサッと前に出て馬車の扉を開け、軽やかに乗り込んだメディオ様に続いて車中へと消える。流れるような見事な動きね。北門を通り抜けていく馬車を見送りながら、わたしはショウに話し掛けた。


「有難う。さすがの対応だと思う。「この世界」にはびっくりしたけれど」

「モモとマクアナさんたちの遣り取りから、同じ種族同士だと細かい機微などが伝わる感じを受けていましたから。なるべく嘘は吐かない方がいいと思いまして。幸い「この世界」は普人の世界、と思ってくれたのでは、と……」

「ショウ。語調、なるべくお願いね?」


「ごめん。性分なもので。できるだけ直すから、指摘してくれると助かる」

「ショウ。あの不思議な時空での恒神様のお言葉も引用していたよね。何というか、説得力を感じたよ?」

「モモ、不思議と恒神様のお言葉は覚えている気がする」

「そうね。リカも同じよね?」

「うん。一言一句、覚えていると思う」


 茜色の夕映えに照らされつつ宿へと帰る道すがら、わたしとモモは彼の後ろを歩きながら小声で話し合っていた。

(モモ。メディオ様の外見、どう感じた?)

(さすがに森人だと思ったけど。美形だと思う。でも、何というか「平凡な美形」っていうか)

(なるほど「平凡な美形」。正にそれよね。わたしたちがショウを見慣れているだけなら、いいけれど)

(そこよね。惚れた女の贔屓目だけじゃない。ショウは特別だと確信した)

(うん。外見や内面の美しさだけじゃない。何かが違う気がする……)


 わたしとモモは深々と頷き合った。そしてカリンさんの話題に移る。

(カリンさん、正に「副官」っていう感じだったね)

(うん、参考になった。私たちがもっと、先回りして動かないとね)

(それから、あと気になったのは瞳の色。メディオ様は薄い紫だったけれど、ショウの瞳の濃さに注目していたよね)

(『その瞳色にふさわしき技の輝き』って言っていたものね。紫色が濃いと魔力が強い、とかあるのかな?)


 わたしは懸命に記憶を手繰った。どこかで森人の瞳の色について読んだ気がする。そう、「英傑の勲功」だ。昔の英雄物語だけれど「薄紫の瞳なれども、魔導師で」という表現があった。逆に言えば、第七段階以上である森人の魔導師は、瞳の色が濃い紫であることが多いのだろう。彼の瞳のように……。



※ウィラルテの馬車は、15世紀コチ式馬車を箱型にして、車輪を生皮巻(ロウハイド)に、そして蹄鉄を蹄毛靴(フーフブーツ)に変更したイメージ。乗車する第97話で解説します。

Kocsimúzeum(ハンガリー、コチ博物館)

※次回の更新は、4/4(土)を予定しています。

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