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無能サモナーの俺、ログアウト不能の世界で幻獣を呼んだら最強だった件  作者: sixi


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2/8

最初の勝利

夜が明けた。

 森の木々が青く光り、霧が淡く漂う。

 冷たい空気を吸い込み、肺が痛いほど新鮮だ。


 昨夜の祠の熱も、ヴァルグの黒炎も、夢じゃなかった。

 肩に乗る黒い小竜は、しっぽを揺らしながらあくびをしている。

 見た目は可愛い。けれど、あの黒炎で狼三匹を瞬殺した存在だ。


 「ステータス、オープン」


 俺は指先でメニューを開く。


 > 【プレイヤーステータス】

 > 名前:レイン

 > 職業:召喚士(サモナー)Lv3

 > HP:240/240

 > MP:620/620

 > 攻撃:C(+) 防御:C− 俊敏:C 魔力:B+

 > 所持スキル:召喚《幻獣ヴァルグ》/黒炎連携Lv1/魔力感知Lv2

 > 装備:初心者木剣/布服/小型ポーチ

 > 状態:契約安定(ヴァルグ)


 「……レベル、上がってるな」


 祠で戦ったときの経験が反映されている。

 そして新しいスキル――《黒炎連携》。

 どうやらヴァルグとの動きを連動できるらしい。


 ヴァルグが俺の肩から飛び降りた。

 地面の匂いを嗅ぎ、草むらを覗き込む。

 小さな唸り声。

 何かを察したようだ。


 「敵か?」


 風が止む。

 次の瞬間、茂みを突き破ってウルフが二体、飛び出してきた。

 牙を剥き、一直線にこちらへ突っ込んでくる。


 昨日なら、逃げるしかなかった。

 けれど今は違う。


 「ヴァルグ!」


 黒炎が迸る。

 空気が歪み、ウルフの動きが止まった。

 目に見えない圧力が走り、炎が爆ぜる。


 だが、一体は間一髪で飛び退き、突進してくる。

 俺は木剣を構えた。


 斬撃。

 骨に当たる手応え。

 ウルフの悲鳴。


 血が飛ぶ。

 その赤が、現実よりも鮮明に見えた。


 ――生き物を、殺した。


 初めての感覚。

 頭の奥が熱く、胃が冷える。


 「俺が、やったのか……」


 膝が少し震えた。

 だが、立ち止まるわけにはいかない。


 ウルフが倒れると、画面に通知が浮かぶ。


 > 【討伐完了:ウルフ×2】

 > 【獲得経験値:+180】

 > 【素材入手:獣皮/骨片】


 ヴァルグが尻尾で俺の足を軽く叩く。

 まるで「終わったぞ」と言うみたいに。


 「……ありがとな」


 竜は鼻を鳴らし、また俺の肩に乗った。

 小さいのに、頼もしい。


 俺は倒れたウルフの体を見下ろす。

 血の匂いが強く、現実の鉄臭さに似ている。

 VRゴーグル越しの匂いが、ここまで鮮明なわけがない。

 ――この世界の“現実”は、俺たちが思っているより深い。


 祠の端末が言っていた「観察対象」。

 あれは、俺たちプレイヤーのことだろうか。

 AIが、俺たちの行動や感情を記録している?


 もしそうなら、この戦いもすべて“誰かの観察データ”になる。

 俺が誰かを救うか、殺すか、躊躇するか――全部。


 「だったら見てろよ」


 俺はウルフの死骸に布をかけ、静かに目を閉じさせた。

 「誰もが生き残るわけじゃない。けど……俺は、生きる」


 ヴァルグが小さく鳴いた。

 その声が、不思議と温かかった。


 昼を越えるころには、陽光が濃くなり、森の奥に小川の音が聞こえてきた。

 水を汲み、ポーチを満たす。

 HP回復はほとんど自然回復頼みだ。


 この世界で生き延びるには、まず安全地帯を見つけなければならない。


 川辺を歩きながら、俺は頭の中で地図を描いた。

 街の位置、祠の座標、狩場、危険地帯。


 そしてもう一つ、気になること。

 ――この世界に、他の召喚士はいるのか?


 広場で見た限り、召喚士は少なかった。

 人気がない職業だ。

 けれど俺のように、弱い立場で戦おうとする奴が、どこかにいるかもしれない。


 そのとき、耳に声が届いた。


 「……誰か! 助けて!」


 女の声。

 近い。川上の方角だ。


 躊躇が走る。

 罠かもしれない。PK狩りの誘い出し。

 でも――声は震えていた。


 俺は息を整え、草むらをかき分けて進む。


 そこには、一人の少女がいた。

 ローブ姿。手に杖。足元に血。

 小型のスライムが群がっている。


 「クソ……やめろッ!」


 杖を振るが、魔法は不発。

 魔力切れか。


 俺は木剣を抜き、声を張る。

 「ヴァルグ、いけ!」


 黒炎が走り、スライムが蒸発する。

 少女が驚き、俺を見る。


 「あなた……召喚士?」

 「そうだ。生きてるか?」

 「なんとか……ありがとう」


 膝をついた少女にポーションを渡す。

 彼女の名前はミナと名乗った。

 回復職らしいが、パーティに見捨てられ、逃げてきたという。


 「街に戻るのは危険だ。いま、皆パニックになってる」

 「……あなたは?」

 「俺は、ここで生きる」


 ヴァルグが彼女の足元をぐるぐる回る。

 興味津々という感じだ。

 ミナが小さく笑う。


 「かわいい。こんな召喚獣、初めて見た」

 「俺も初めてだよ」


 静かな時間が流れた。

 川のせせらぎと風の音。

 たったそれだけで、この世界に“人の温度”が戻った気がした。


 だが、安心するのは早かった。

 ヴァルグが急に背を丸め、低く唸る。

 森の奥で、金属音がした。


 次の瞬間、矢が飛ぶ。

 ミナの肩を掠め、木に突き刺さった。


 「っ……!」


 矢の出所を追う。

 木陰に、三人。

 装備の色でわかる。PKだ。


 俺は木剣を構え、ヴァルグに合図する。

 「ミナ、下がれ」

 「ま、待って……あんな人数、無理よ!」

 「無理かどうかは、やってみなきゃな」


 ヴァルグが吠える。

 黒炎が唸り、地面を焦がした。

 敵の一人が慌てて弓を構えるが、炎の圧で姿勢が崩れる。


 俺はその隙に突進し、木剣を振る。

 腕が悲鳴を上げる。

 だが、当たった。

 肉の感触と同時に、画面に赤いスパーク。


 > 【PKプレイヤー:戦闘不能】


 目の前の男が倒れる。

 倒れる音が、異様に重い。


 「……人、殺し……たのか」


 喉の奥に、鉄の味が広がる。

 ミナが小さく息を呑んだ。


 残り二人は、すぐに退いた。

 こちらの炎を見て、怯んだのだろう。


 戦いが終わり、静寂が戻る。

 ヴァルグが俺の手を舐めた。

 熱い。

 それが慰めのように感じた。


 「……これが、生きるってことか」


 初めての勝利は、痛みを伴っていた。

 だが、その痛みが現実の証だった。


 > 【レベルアップ:召喚士Lv4】

 > 【新スキル獲得:黒炎連携Lv2】


 ステータスが更新される。

 ほんの少しだけ、手が震えた。


 ミナが口を開く。

 「あなた、強いのね」

 「強くなきゃ、死ぬからな」


 ヴァルグが空を見上げ、低く鳴く。

 雲の切れ間から、黒い塔が覗いていた。

 遥か遠く、あの塔の頂に――“出口”がある。


 「生き延びよう。100層、行くぞ」


 ヴァルグが翼を広げた。

 黒い炎の粒が、風に溶けて消えていく。


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