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無能サモナーの俺、ログアウト不能の世界で幻獣を呼んだら最強だった件  作者: sixi


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最初の勝利

夜が明けた。

 森の木々が青く光り、霧が淡く漂う。

 冷たい空気を吸い込み、肺が痛いほど新鮮だ。


 昨夜の祠の熱も、ヴァルグの黒炎も、夢じゃなかった。

 肩に乗る黒い小竜は、しっぽを揺らしながらあくびをしている。

 見た目は可愛い。けれど、あの黒炎で狼三匹を瞬殺した存在だ。


 「ステータス、オープン」


 俺は指先でメニューを開く。


 > 【プレイヤーステータス】

 > 名前:レイン

 > 職業:召喚士サモナーLv3

 > HP:240/240

 > MP:620/620

 > 攻撃:C(+) 防御:C− 俊敏:C 魔力:B+

 > 所持スキル:召喚《幻獣ヴァルグ》/黒炎連携Lv1/魔力感知Lv2

 > 装備:初心者木剣/布服/小型ポーチ

 > 状態:契約安定ヴァルグ


 「……レベル、上がってるな」


 祠で戦ったときの経験が反映されている。

 そして新しいスキル――《黒炎連携》。

 どうやらヴァルグとの動きを連動できるらしい。


 ヴァルグが俺の肩から飛び降りた。

 地面の匂いを嗅ぎ、草むらを覗き込む。

 小さな唸り声。

 何かを察したようだ。


 「敵か?」


 風が止む。

 次の瞬間、茂みを突き破ってウルフが二体、飛び出してきた。

 牙を剥き、一直線にこちらへ突っ込んでくる。


 昨日なら、逃げるしかなかった。

 けれど今は違う。


 「ヴァルグ!」


 黒炎が迸る。

 空気が歪み、ウルフの動きが止まった。

 目に見えない圧力が走り、炎が爆ぜる。


 だが、一体は間一髪で飛び退き、突進してくる。

 俺は木剣を構えた。


 斬撃。

 骨に当たる手応え。

 ウルフの悲鳴。


 血が飛ぶ。

 その赤が、現実よりも鮮明に見えた。


 ――生き物を、殺した。


 初めての感覚。

 頭の奥が熱く、胃が冷える。


 「俺が、やったのか……」


 膝が少し震えた。

 だが、立ち止まるわけにはいかない。


 ウルフが倒れると、画面に通知が浮かぶ。


 > 【討伐完了:ウルフ×2】

 > 【獲得経験値:+180】

 > 【素材入手:獣皮/骨片】


 ヴァルグが尻尾で俺の足を軽く叩く。

 まるで「終わったぞ」と言うみたいに。


 「……ありがとな」


 竜は鼻を鳴らし、また俺の肩に乗った。

 小さいのに、頼もしい。


 俺は倒れたウルフの体を見下ろす。

 血の匂いが強く、現実の鉄臭さに似ている。

 VRゴーグル越しの匂いが、ここまで鮮明なわけがない。

 ――この世界の“現実”は、俺たちが思っているより深い。


 祠の端末が言っていた「観察対象」。

 あれは、俺たちプレイヤーのことだろうか。

 AIが、俺たちの行動や感情を記録している?


 もしそうなら、この戦いもすべて“誰かの観察データ”になる。

 俺が誰かを救うか、殺すか、躊躇するか――全部。


 「だったら見てろよ」


 俺はウルフの死骸に布をかけ、静かに目を閉じさせた。

 「誰もが生き残るわけじゃない。けど……俺は、生きる」


 ヴァルグが小さく鳴いた。

 その声が、不思議と温かかった。


 昼を越えるころには、陽光が濃くなり、森の奥に小川の音が聞こえてきた。

 水を汲み、ポーチを満たす。

 HP回復はほとんど自然回復頼みだ。


 この世界で生き延びるには、まず安全地帯を見つけなければならない。


 川辺を歩きながら、俺は頭の中で地図を描いた。

 街の位置、祠の座標、狩場、危険地帯。


 そしてもう一つ、気になること。

 ――この世界に、他の召喚士はいるのか?


 広場で見た限り、召喚士は少なかった。

 人気がない職業だ。

 けれど俺のように、弱い立場で戦おうとする奴が、どこかにいるかもしれない。


 そのとき、耳に声が届いた。


 「……誰か! 助けて!」


 女の声。

 近い。川上の方角だ。


 躊躇が走る。

 罠かもしれない。PK狩りの誘い出し。

 でも――声は震えていた。


 俺は息を整え、草むらをかき分けて進む。


 そこには、一人の少女がいた。

 ローブ姿。手に杖。足元に血。

 小型のスライムが群がっている。


 「クソ……やめろッ!」


 杖を振るが、魔法は不発。

 魔力切れか。


 俺は木剣を抜き、声を張る。

 「ヴァルグ、いけ!」


 黒炎が走り、スライムが蒸発する。

 少女が驚き、俺を見る。


 「あなた……召喚士?」

 「そうだ。生きてるか?」

 「なんとか……ありがとう」


 膝をついた少女にポーションを渡す。

 彼女の名前はミナと名乗った。

 回復職らしいが、パーティに見捨てられ、逃げてきたという。


 「街に戻るのは危険だ。いま、皆パニックになってる」

 「……あなたは?」

 「俺は、ここで生きる」


 ヴァルグが彼女の足元をぐるぐる回る。

 興味津々という感じだ。

 ミナが小さく笑う。


 「かわいい。こんな召喚獣、初めて見た」

 「俺も初めてだよ」


 静かな時間が流れた。

 川のせせらぎと風の音。

 たったそれだけで、この世界に“人の温度”が戻った気がした。


 だが、安心するのは早かった。

 ヴァルグが急に背を丸め、低く唸る。

 森の奥で、金属音がした。


 次の瞬間、矢が飛ぶ。

 ミナの肩を掠め、木に突き刺さった。


 「っ……!」


 矢の出所を追う。

 木陰に、三人。

 装備の色でわかる。PKだ。


 俺は木剣を構え、ヴァルグに合図する。

 「ミナ、下がれ」

 「ま、待って……あんな人数、無理よ!」

 「無理かどうかは、やってみなきゃな」


 ヴァルグが吠える。

 黒炎が唸り、地面を焦がした。

 敵の一人が慌てて弓を構えるが、炎の圧で姿勢が崩れる。


 俺はその隙に突進し、木剣を振る。

 腕が悲鳴を上げる。

 だが、当たった。

 肉の感触と同時に、画面に赤いスパーク。


 > 【PKプレイヤー:戦闘不能】


 目の前の男が倒れる。

 倒れる音が、異様に重い。


 「……人、殺し……たのか」


 喉の奥に、鉄の味が広がる。

 ミナが小さく息を呑んだ。


 残り二人は、すぐに退いた。

 こちらの炎を見て、怯んだのだろう。


 戦いが終わり、静寂が戻る。

 ヴァルグが俺の手を舐めた。

 熱い。

 それが慰めのように感じた。


 「……これが、生きるってことか」


 初めての勝利は、痛みを伴っていた。

 だが、その痛みが現実の証だった。


 > 【レベルアップ:召喚士Lv4】

 > 【新スキル獲得:黒炎連携Lv2】


 ステータスが更新される。

 ほんの少しだけ、手が震えた。


 ミナが口を開く。

 「あなた、強いのね」

 「強くなきゃ、死ぬからな」


 ヴァルグが空を見上げ、低く鳴く。

 雲の切れ間から、黒い塔が覗いていた。

 遥か遠く、あの塔の頂に――“出口”がある。


 「生き延びよう。100層、行くぞ」


 ヴァルグが翼を広げた。

 黒い炎の粒が、風に溶けて消えていく。


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