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35.可愛さ余って尚も可愛い


「めんどくさい女の子で、ごめんね」


雫のマーキング攻撃が止まった後、ポツリと。

考えるまでもなく、やきもちを焼いたことについてだろう。

これについて思うことは、色々とある。


「雫ならいくらめんどくさくなっても、めんどくさ可愛いから大丈夫だ」

「かわ……ん? それって褒めてる? 貶してる?」

「めんどくさくなったらめんどくさ可愛いし、

 ウザくなったらウザ可愛いし、

 うるさくなったらうるさ可愛いし。どうあれ可愛いから問題ない」

「どっち!? 喜んでいいのかわかんない!」


容姿は勿論、雫は性格においてもただただ可愛らしい。

加えて自分がどういうことをしたのかをちゃんと認識してるから、

めんどくさくなっても意地張って拗ねたままということにはならないし。

となれば、今回の場合はただの可愛いやきもち焼きでしかない。


「どっちでもいいぞ、喜んでも怒っても。雫は常時可愛いから」

「もー! 両方が同時にあるから困ってるのにー!」

「ほら可愛い」

「決めた! 怒る! あぐっ!」

「痛ぇっ!?」


おちょくりが過ぎたか、いきなり首筋を噛まれた。

ただ、相手が雫だと大型犬にじゃれつかれてるみたいな感じ。

さっきから空目してる尻尾はちぎれそうなぐらい振り回してるし。


「んんんんんっ!」

「どうどう、どうどう」

「……ぷはっ。どうだ、参ったか!」

「はいはい、参りました」

「んふー♪」


ご満悦の様子。だからいちいち可愛いんだっての。

雫は何もしなくても可愛いし、何かしてても可愛いから。




呼吸さえも感じる距離で、座ったまま抱き合うことしばらく。

雫の柔らかさと体温をじっくりと味わっていたところ。


「あのさ」

「どした?」

「ボク、何でやきもちなんて焼いたんだろ」


不思議なことを聞かれた。

いや、彼氏が他の女からモテてるところを見ていい気持ちにはならんだろ。

俺だって、雫が他の男と仲良くなってるところを見たらモヤるだろうし、

古川先輩へのいじめの解決の時、雫と陽司が組んで囮捜査をする話でさえ、

当時彼氏でも何でもない俺は身勝手な不安に駆られた。

ただ、雫の最初の目標は素の自分を出しての友達作りだったし、

『彼氏』と『友達』の区切りがはっきりしてるから、そこの心配はないが。


「本当なら、やきもちなんて焼きようがないのに」


どう返すか考えていたら、雫が言葉を繋げた。

ここは一先ず、傾聴してみるか。


「怜二君はカッコいいから、他の女の子からチョコ貰うぐらい当然。

 だけど、それぐらいでボクに対する気持ちが揺らぐわけがない。

 ボクは怜二君の彼女だし、とっても愛されてるって思ってるから」


俺がカッコいいかどうかという点については諸説あるし、

穂積はともかく、他の女子からもチョコを貰ったのは想定外。

だが、雫に対する気持ちなんて微塵も揺らいでないし、

雫はこれからも俺の最愛の恋人だ。


「だから、他の女の子がいくら怜二君のことが好きだとしても、

 怜二君が一番好きなのはボクのまま。

 ……そこまで分かってて、何で嫌味言うぐらい妬いたんだろ?」


なるほどね。自分で言い切れるぐらいの愛を感じているのに、

やきもちを焼いてしまった自分が分からないということか。

本気で悩んでるみたいだし、ここは誠実に答えるか。


「雫。そういうのは理屈じゃねぇんだよ。人間はそうなるようにできてるんだ。

 どんなにロジカルを重視する奴でも、恋の最中となったら話は別。

 恋人が自分以外にモテてるのを見て、いい気持ちはしない。

 それは至極当然のことだ」


分かっていても止められない。理に適ってないけどそう思う。

人間は知能という点で非常に高いレベルを持つ一方で、酷く馬鹿だ。

頭で分かっていても、嫉妬することは止められない。……それに。


「で、それは俺も同じ。俺だって雫が男子連中と仲良くしてるのを見たら、

 分かっちゃいてもモヤモヤするだろうし」

「……怜二君も、なの?」

「俺も人間だし、雫よりずっと馬鹿だからな。

 それを隠すのがちょっと上手いだけで、俺も結構妬く方だぜ?」


男の嫉妬は醜いだけとか言われるが、知ったことか。

昔は雫を束縛したり、枷になる存在にはなりたくないとかも思ったが、

今の俺は、というかそもそもの俺はそんな聖人じゃねぇ。

論理より感情が優先されるというのに関しては、おあいこだ。

ということで、やきもちを焼くのは何の問題もない。むしろ。


「今日は、雫の新しい可愛さを見つけられて嬉しい」

「……うー。またそうやって」

「むくれんなって。雫としては悩みかもしれないけどさ、

 そういう素直で純粋なとこにも惚れたんだ。

 俺も雫がなるべく妬く必要がなくなるように頑張るが、

 これからも、妬ける時はいくらでも妬け」

「……本当に、優しいんだから……大好き」


どこか浮世離れしていた雫が、どんどん人間らしくなっていく。

仮面は既に脱げたけど、どうやらここからが本番らしい。

次はどんな可愛さが見えてくるんだろうな。楽しみだ。




――――――――――――――――――――――――――――――




ボクは基本的にわがままで、怜二君は基本的にわがままを許してくれる。

でもって、こんな身勝手なやきもち焼きまで許してくれた。

それどころか、そんなとこまで可愛いと言ってくれた。


(ちょっとだけ、複雑……ということにしたい)


本当は分かってる。複雑だなんて全く思ってない。

怜二君に可愛いって言われる度に、胸がきゅっとする。

ただのめんどくさいわがままでしかないのに、それが可愛いだなんて。

どこかで馬鹿にされてるとでも思わないと、どうにかなっちゃいそう。


(……でも、分かってる)


怜二君がこんなボクのことを可愛いと言ってくれたのは、本気だ。

からかいながらでも、怜二君がボクのことを『可愛い』と言う時、

そこにウソはない。


(……嬉しい)


怜二君は……ボクの彼氏は、とってもカッコよくて、とっても優しい。

でも、そこに甘えてばかりじゃダメだよね。

いくらでも妬いていいって言ってくれたけど、そうはいかない。

やきもちなんて焼く必要が無いぐらいに愛してもらってるんだから、

ボクも怜二君を精一杯愛さなきゃ。


(元々、そのつもりだったけど)


もう、怜二君が妬ましいよ。

いくらボクが怜二君を愛しても、怜二君の方がボクを愛してるんだもん。

勝ち負けの話じゃないけど、勝てる気がしないや。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 昨日今日で本編から一気読みさせて頂きました。本編は透のおかげでモヤモヤさせられっぱなしでしたが、番外編から甘々で最高です。 [気になる点] 本編にもう少し糖分があれば読みやすかったと思いま…
[一言] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 怜二がイケメン過ぎますね✨ もちろん相手を好いているがゆえでしょうが、 彼のこういった一面は、男として尊敬します。 この二人は“人間味”がとても濃くて、 見てい…
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