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36.没落主人公

side:深沢凛

志望大学の二次試験が終わり、私にやれることはやり尽くした。

一応は後期日程というものもあるが、勝負の大半はここで決まる。

あとは天命を待つ他ないが、受かっている自信はある。


(それにしても、やはりここは落ち着くな)


三年生は卒業式の予行日を除き、全員自由登校となっている。

だが、早朝の誰もいない生徒会室は自習にはうってつけだ。

故に、私は登校したのだが……今日は先客がいた。


「おはよう」

「会長、おはようございます」

「私はもう引退したのだから、会長は止せ。今の会長は君だ」

「そうですけど、僕にとっての会長は深沢先輩ですから」


私の引退までは会計を務めていた、現生徒会長の崎本学(さきもとまなぶ)君。

昨年の補欠選挙の際、生徒会長に当選したのは彼だった。


「随分早いな」

「先輩こそ。三年生の先輩方は自由登校ですよね?」

「家でもここでもやることは変わりないが、ここの方が落ち着くものでな。

 邪魔だったら席を外すが」

「その必要には及びませんよ。軽く書類整理をしていただけですし」 

「ほう、君は箒を握りながら書類整理ができるのか」

「ついでですよ。これからここを使う回数は増えますし」


真面目で柔軟性もあり、多くの生徒から慕われている。

後任としては、これ以上ないほどに適任だ。


「生徒会の調子はどうだ?」

「まずまず、といったところですかね。

 先輩の後任というのに加え、史上初の補欠選挙と来たから大変ですよ」

「気負う必要はないさ。皆も手助けしているだろう?」

「おかげ様で。門倉が結構頑張ってるんですよね」

「麻美君か」


最近の麻美君は、以前と比較して明確に変わった。

単独候補の信任投票で落選、補欠選挙でも落選となり、

ショックは大きいだろうとは思ったが……それがよい方向に働いたか。

或いは文化祭ボイコット騒動以降、私の伺い知れぬところで何かあったか。

真実は定かではないが、一つだけ分かることがある。


「まぁ、あるとすれば藤田のおかげでしょうね」

「君もそう思うか」

「そりゃまぁ。文化祭が立て直せたのも半分はあいつのおかげですし。

 手伝ってくれてた時も、臨時とは思えない働きぶりでしたし。

 門倉が変わったのも何かしら関わってるでしょう」


藤田君と水橋君にはとても助けられた。

ここもまた、私の知らぬ間に動いてくれていたのかもしれない。

いや、動いていたと考えるべきだ。


「ということで、生徒会のことについては任せて下さい。

 先輩程には活躍できませんが、生徒会長の務めを果たしますから」

「うむ、任せたぞ」


生徒会長としての私の日々は、破天荒そのものだった。

それを踏襲するのか、それとも更に新たな試みをするのか。

いずれにしても、この分なら心配など余計なお世話にしかならんな。


(となると……)


気がかりなことは一つだけ。私が手をかけることでもないが、

受験という大きな山場を越えた今、若干の余裕はある。

となれば、確認ぐらいはしておくか。


「あれ、こちらで自習されるのでは?」

「そのつもりだったが、野暮用を思い出してな。

 終わらせたら戻るが、君の方が先なら鍵はかけてくれよ」

「かしこまりました」


この期に及んで馬鹿をするとは思っていないが、念には念を。

時間的に待つことになりそうだし、一旦は図書室に寄るか。




図書室から借りた本を読むこと暫く。

自由登校とはいえ、用も無いのに長居をするのもどうだろうと思った頃、

待ち人……の、友人ないし恋人『だった』生徒が訪れた。


「失礼します。……あれ、深沢先輩?」

「おはよう」


2年1組、出席番号9番、門倉麻美。

崎本君の話によれば、最近の活躍は著しいものがあると聞いている。


「具合でも悪いのか?」

「いえ。先輩は?」

「君と、もう一人の状況を見ようと思ってな」


怪我や体調不良以外の理由で保健室に生徒が来る例は少ない。

保健委員ならままあるが、麻美君は生徒会委員かつ学級委員。

加えて話は聞いている。ここに来た理由は私と同じだろう。

だとすれば、程なく彼も来るはずだ。


「はよーっす。……へっ?」

(やはりな)


保健室の出入り口の内一つは、廊下ではなく校庭に繋がっている。

外で怪我人がいた場合、すぐに手当てを受けられるようにする為だ。

……だが、それとは別の場合もあり。


「おはよう。久しぶりだな。

 2年1組、出席番号7番、神楽坂透君」


昨年から不登校を続けていたが、麻美君の勧めで保健室登校を始めた生徒。

問題児であることには違いないが、それでもこうして出席は確保し、

多少なりとも復帰の意志があることは認めよう。


「あっ、どうも会長! いやー、ありがたいッスね!

 俺の疑い晴らしてくれるんでしょ?」

「……は?」


前言撤回。

こやつは未だに自分に都合のいい世界があると思っているのか。

あまり言いたい言葉ではないが……精神病質(サイコパス)そのものではないか。


「ほら、この傷とかまだ残ってんスよね。怜二につけられて。

 あいつ刃物持って襲い掛かってきたんですよ、知ってます?」


その傷はただの転倒による事故でしかないことを私は知っている。

藤田君が現場の音声を記録していたことを知らない彼にとっては、

これによって藤田君を悪者にできると思っているのだろうが。


「刃物の傷なら線のはずだ。嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ。

 転んだことでついた傷は、君の責任でしかない」

「は? これは机の角にぶつけたんじゃないですよ。

 会長も怜二に騙されて……」

「私は転んだとしか言ってないのだが、

 机の角にぶつけたことを否定するのは何故だ?」

「あっ……」


成績の下落は知っていたが、こやつは単純に頭も悪いらしい。

これだけの大馬鹿者、時間をかけるだけ馬鹿らしいか。


「君が藤田君と一対一になった時に何があったかは聞いている。

 いい加減、君に都合のいい世界は存在しないことを認めろ。

 ……時に麻美君」

「……はい」


まだ何か騒いでいるようだが、戯言に聞く価値は無い。

最後に麻美君に話を聞いて終わりにしよう。


「君はいつも、彼の為にここに?」

「えぇ。……一応、クラスメイトなので」

「まだ情があるか。私は彼に時間を割くのは無益かつ無駄だと思うが、

 君の行動を縛る力も道理もない。

 どういう行動をするかは君の選択に任せるよ」

「……はい、ありがとうございます」


本来なら、麻美君がここにいることも奇跡だ。

イカれきった大馬鹿者には、それすらも分からないようだが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 雫と怜ニのイチャイチャが読んでいてとても伝わってきて楽しい [気になる点] 2人の関係が尊い [一言] 突然失礼します、最近この作品を知り面白すぎて一気読みした者です。 この作品は自分が読…
[良い点] 深沢さんは、最後の最後まで『生徒会長』 なんですね✨ [一言] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 私は学力の低さから、自由登校日も登校しました。 それを思うと、合格がほぼ固い人が、 早朝から来て…
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