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空の上の鯨  作者: 大塚束紗
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 鳴瀬(なるせ)(めぐみ)は変態である。じゃなくって、普通の女子高校生である。


 僕が、初めて鳴瀬と話したのは、よくは覚えていないが、たぶん中学生の頃だったと思う。


 浩平とは、小中高と一緒だったが、鳴瀬は中学の頃からの仲だった。確か浩平がいつの間にか鳴瀬を連れてきて、いつの間にか僕も話すようになっていたというのが、仲良くなるまでの経緯で、あの二人は絶対できているというのが僕の推理だ。だが、前に「お前ら実は付き合っているだろ~ヒューヒュー」とからかってみたら、鳴瀬は顔を真っ赤にして、襲いかかって来た。


 だから、僕はその日以来、どんなに二人の仲が怪しかろうとも、そんな子供じみたからかい方はしないし、むしろ暖かく二人の仲を見守ろうと、心の中で決めている。


 そんな鳴瀬と会ったのは、学校の教室に入ってからのことだった。高校生にしては小柄で制服を着て居なければ中学生、いや小学生にでも間違われてしまいそうなくらいの小さな女の子は、友達と昨日のテレビ番組について、楽しそうに話をしていた。


 そんな彼女を呼び止めるのは非常に申し訳ないと、そんなことを思いながらも、結局何も考えずに声をかけた。僕が鳴瀬に声をかけた瞬間、顔を少しだけ赤くしたかと思うと、嬉しそうにこちらに来たのは気のせいだろう。


 そんな鳴瀬に僕が、昨日体験した話をすると、「うーん」と首を傾げた。


「へ~、鯨ね~」


「こんなふうに、湊が朝からうるさいんだが、恵は何か知らないか?昨日雨が一瞬でも止んだとか……」


 教室の端の一番後ろにある、僕の最高の席の目の前にずがずがと浩平は座って、立って話を聞いてくれた鳴瀬にそう言った。そこはお前の席ではないぞと、突っ込みたいところではあったが、まぁそんなことは、今はどうだっていい。


「やっぱりお前も、俺のこと馬鹿だと思うか?変人だと思うか?」


 そう言う僕は、全身につい力が入ってしまい、立ち上がって恵に顔を近づかせてそう言った。いや、言ったというよりはほとんど叫んだ。


「ちょ、ちょっと!近づいて来ないでよ、変態!」


 恵は僕の顔の接近に、奇声を上げた。


 その(あと)、たぶん無意識なのだろうが、僕はその場でお腹を蹴られた。


「ごはぁ!」


 まぁ、自業自得という奴なのだが、僕は声を上げながら地面に膝をついた。


「だ、大丈夫?」


 無意識から我に返った恵は、いつもみたいにおどおどしながら、そう声をかける。


「いい、蹴りだったぜ……」


「でさ、恵はどうだったんだ?昨日その時間帯に、雨が止んだことに気が付いたか?それともこいつのこと、馬鹿だと思うか?」


「おい、何勝手に話を進めてるんだよ……」


 恵はそう言う僕を、ほとんどスルーして、浩平の質問に眉をひそめている。


「ん~、湊のこと、若干馬鹿だとは思っているけど、昨日のことは正直私には分からないな。湊君が言うその時間、私うとうとして寝ちゃってたと思うから、天気のことはよく分からない。でも、雲の向こうから、巨大な鯨が出て来たって話は面白いと思ったよ?」


「あぁー、そうですかー。どうせ昨日あったことは夢ですよー。どうせ、皆は信じてくれないんだ。僕はどうせほら吹きですよー」


 あぁ、ついに僕のことをしょげてしまったな、と二人は思っただろう。浩平は僕を見て笑っているが、反対に恵は、僕の姿を見て少しだけおろおろと、心配そうな表情を見せる。


「湊君が嘘をついてるなんて思ってないよ……。ただ、もし本当に空に鯨が泳いでいたら街の人の目にも留るだろうし、今日も、今朝からニュースや、皆の噂になっていると思うよ。でも……、その話をしているのは湊君ただ一人だけだから、信じろって言われても難かしいかもね……」


 余計そんなことを言われて、僕は「はぁ~」と溜息をついてうなだれた。浩平はそんな僕を見て、目の前で腹を抱えて大爆笑をするのだが、恵は、恵だけは違った。


「うん。でも、湊君がそんなにロマンチストだとは、私も思わなかった。今の時点では信じることはできないけど、……頑張ってね!」


 やっぱり恵だ。恵に話して良かったと、僕はそう感じ、ついには感動のあまり恵の手を握り締めていた。


「あ、ありがとう……」


「マジ泣きすんなよ……」


 と言う浩平突っ込みが聞こえたが無視する。もうお前は友達じゃない。本当の天使はここにいる恵だと確信した。


 僕はそう思ったのだが、この手を握るという行為は、いわゆる蛇足だったのかもしれない。


 恵の両手を握り締めた瞬間、恵の顔を真っ赤になり、沸騰したかと思うと、いきなり横腹に大振りの蹴りが飛んできた。なぜ、蹴られたのか一瞬分からなかったが、どうやら僕は、鳴瀬を怒らせてしまったという事だけは理解した。


「ぐふぅ!」と言う声にもならない音を発して、僕はその場で悶絶をする。


「ご、ごめんなさい!」


 そう言って鳴瀬は悪びれて、さっさと自分の机のある廊下側の席へと帰ってしまった。 


「お、おれ……、なんかまずいこと、鳴瀬にした?」


 僕が膝と肩を床に付きながら悶絶していると、珍しくにやにやとする浩平にそう言った。


「お前って本当に馬鹿だよな……」


 浩平にはそうとだけ言われたが、正直こいつが何を言いたいのか分からない。


「え、それっておさわり禁止だから、警察呼ばれるって意味ではないよね?」


「今から呼んでやろうか?」


 浩平が言いながら自分の携帯を取り出したので「ごめんなさいやめてくださいゆるしてください!」と僕は必死に謝っておいた。


 その後、担任の先生がクラスのHR(ホームルーム)をするために、教室に入って来たのはそれからだ。それに続いて、僕たちの教室に転校生が入って来たのは、もっと後のことだった。




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