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これは、とある新人賞に応募して、落選してしまった物語になります。
今回は残念ながら駄目でしたが、小説家になる夢をあきらめずに、今後とも努力して頑張っていきたいと思います。
もし読んでくださる方が居たら、感想やダメ出しをがんがん募集したいと思いますので、よろしくお願いします。
激しく地面に劈く槍のような雨が、突然止んだのは真夜中、僕がマンションの近くのコンビニに、特に用も無く立ち寄った帰りのことだった。
その時、僕は初めて片手に持っていた安物のビニール傘を、建物の中以外で、差す必要がなくなったことに気が付く。
不愛想な店員に、漫画雑誌を乱暴に詰めてもらったビニール袋を、腕に巻くりあげて、傘に付いた透明の水滴を注意し、傘をそっと畳む。
珍しい日もあるものだと、そう思った。
雨の止まないこの街で、一瞬か、この瞬間だけ雨が止んだのだから尚更か……。
僕は久々に雨の日に、雨の降らない空を見上げると、夜空に前面にかかっていた雲は、上空では大きな風でも拭いているのか、一斉にどこかへと姿を見せなくなっていた。
その代わりに現れたのは、昔に読んだ御伽話にでも出てくるような、真っ暗な空と、そこに輝く無数の星々に、夜のこの街を小さな光で照らそうとする月が出てくる。そんな期待を、僕は高校二年になった今でも、ずっと心のどこかの片隅にでも、寄せていたのかもしれない。
だが、この日、雲が晴れた夜空に現れたのは、そんなものではなかった。
「海……?」
気が付いた時には、僕はそんな言葉を漏らしていた。
空に現れたのは海だ。そこから見えたのは、無数の名前も知らない何百、何千もの魚の群れが、自由に空の上の、海の中を泳ぐそんな光景。それは、まるで僕達がいるこの地上が、海底の底のようにも思える。
僕は、夢でも見ているのだろうか……。そんなことを思ってしまうほどの、幻想的な風景に包まれながら、夜空の海の水面に、向かって来る黒くて大きな生き物に気が付く。それは、他の魚とはくらべものにならないくらいの大きな胸鰭に、何もかも飲み込んでしまうのではないだろうかと、思うほど巨大な口に胴体。それを見た時、僕はあの正体が何なのか分かった。
あれはそう、鯨なのだと……。
さっきまでは、随分と遠くを泳いでいた鯨は、空の水面に向かってきて、そのまま勢いよく背面に飛びあがり、海面に水しぶきをあげ、それがそのまま、僕たちがいる地上へと、雨に変わり降ってくる。
まるで夢のような光景に、とうとう僕の頭はおかしくなってしまったのだろうかと、そんなことを考えたが、海面から出てきた鯨は、僕たちの晴れた夜空の上を、数分の間だけ自由泳いだ。
それが、僕が昨日の数分間だけ、体験したなんとも奇妙な出来事。
これは、夢なのだろうか。
いや、これは現実だ。なぜならこうやって頬を抓ってみると痛みも感じる。それに、現実だという感覚もある。
ただ、その日買った漫画雑誌は、鯨の水しぶきをもろに食らったため、その後、読めたものでは無くなっていた。これが、僕の唯一の心残りだった。