まだギリギリ人間
2話で纏めるつもりが…もう1話続きます。
その代わり明日も投稿します!
「そりゃ」
「キャイン!」
「…ふう」
やっと念願の目標だった狼の群れを一人で退治できるまでになった。
もう何年前の目標だったか忘れちゃったけど…
自分が何回転生したかもわからないくらい死んでしまった。
というのもレベルを上げるためにはダンジョンを攻略することが一番だと言われていたから実践してみたのだけれど、これが思ったより大変だった。
まず単純に道が狭い。これが厄介だった。
一本道で前後から挟み撃ちにされたらまず勝てない。
どちらかを相手にしていたらここぞとばかりに後ろから攻撃を仕掛けてくる。待ってなどくれないのだ。
両方を見ようとしても道が狭いためどうしても視界が限定されてしまう。
次に水問題。
食事は魔物がいるから大丈夫だけど、水はダンジョン内には存在しない。
私は何日間か飲まず食わずで生きた経験もあるから装備を軽くする意味もあって少量の水しか持っていかなかったんだけど、これが最悪だった。
ダンジョン内では絶えず戦闘が続き、動く量も半端ではない。
その分水を飲みたくなるのは当たり前で、水が無くなったときの絶望感はとんでもなく、地獄を見た。
水魔法を使えばいいと気付いたのは死んで冷静になった後だった。
ほんと私ってば…
あとトラップ多すぎ!
岩とか壁につぶされたり、ドアが閉まって魔物がたくさん出てきたり、宝箱だと思ったら魔物だったり!作った奴性格悪い!
そして一番多い死に方は寝ているときにぽっくりパターンだ。
ダンジョンの隅っこでこっそり寝ようとしても気づかれる。
でもこれが痛さとかなくてマシだったかも。
そんなこんなでダンジョンに潜ると決めてから死んだ数は多すぎて途中で数えることをやめた。
普通なら何人かで探索するんだろうね。1人で潜っても死にに行くようなものだと痛感した。
「まぁ、誰かと行くくらいならこれからも一人で行くけどさ」
裏切られるとか、相手を信じるとかしたくないし。
そんなこんなで苦労したけど、見返りはちゃんとあった。
レベルはかなり上がったし、戦闘に関しては狼を冷静に対処できるくらいには成長したし、使えるスキルもかなり覚えた。
ダンジョンももう少しでクリアできそう。
ただ一つ問題が。
今の私の年齢は10歳くらいなんだけど、そんな子供がダンジョンに向かうだけでもかなり目立つ。
というのも、数年前から冒険者ギルドなるものが誕生し、依頼が出ている魔物を倒すと報酬が貰えるという仕組みができたのだ。
それまでは個人で動いていたので、実質無職みたいなものだったのが、本格的に冒険者という肩書を持って活動する人間が増えてきた。
かくいう私も冒険者ギルドに登録している。だってお金欲しいし。
そうしたギルドが設立されたおかげで冒険者の人数も増え、ダンジョンに潜る人も増えてしまったため私の目撃証言が多数あったらしい。
それに私みたいな子供は冒険者ギルドには他にいない。
それだけでも目立つのに、私は何度も転生を繰り返している経験があるため、すでにそこら辺の大人には負けないくらいの力があったし、依頼もこなし続けてきた。しかもソロで。
街で噂になるのは当然のことかもしれない。
私はなるべく人と関わらないように生活しているから気付くのがかなり遅くなってしまったけど。
「ダンジョン制覇出来たら一旦隠れるか」
ダンジョン最下層でそんなことを考えていた。
最下層の最奥には大きな扉があり、これを開けるとボス部屋で、倒すまで戻ることはできない。なぜ知っているのかというと、これが3回目の挑戦だから。
1回目はわけもわからず負け、2回目は善戦したけど最後相手が暴走し始めて負けた。
「ふぅぅ………行くか」
扉を開けて中に入る。
中には若干トラウマになっているでかいゴリラがいる。
「ウホッ」
「…」
私を見つけたゴリラは立ち上がり、横に置いてある石を私に投げてくる。
「ウホッ!?」
3回同じことをされれば流石に余裕をもって回避できる。
真横に跳んで、そのままゴリラに接近する。こいつは離れているとそこら辺の石を投げてくるから近づいたほうがやりやすい。
回避しつつ魔法を叩きこむ。
「…いけそう」
2回目の時よりかなり楽に感じる。
レベルも上げたし、一度しっかり動きを見れたおかげか、あの苦労は何だったのかというくらい一方的に攻め立てることができた。
暫くワンサイドで戦闘が進み、ゴリラの目が赤くなる。
「ウホッ!」
「…大丈夫大丈夫」
前回は急に強くなったゴリラに驚いて負けたけど、今回は魔力も残してこの暴走まで待っていたから何も不安要素はない。
「【メテオ】」
火魔法のLV5、メテオを発動する。
「ウホッ!?」
「死ね」
強化途中のゴリラに大量の隕石を回避する術はなく…直撃して黒焦げになった。
「あ。扉」
ゴリラが死んだからか、奥の扉が開いた。
扉の先に進むと、丸い球があった。
調べた情報によるとこれはダンジョンコアと言って壊すとそのダンジョンから魔物が出現することはなくなるらしい。
「おりゃ」
杖でダンジョンコアを壊す。
壊すと身体が浮いて、ダンジョンの入り口まで強制転移させられた。
入り口に戻されるトラップは何度となく引っかかったので、今更驚くには値しない。
「これからどうしようかな…」
ダンジョンを制覇することが一つの目標になっていたので、新しく生きる目標を考えないといけない。
「とりあえず街に戻ろう…」
「あ、あの!」
「…」
「ナナシさん…ですよね?」
「…なに?」
とりあえず街に戻って寝ようと考えていると突然声を掛けられた。私に声を掛けないでほしい。身体がびくってなるから。
でも相手を無視するのも怖いので仕方なく声をかけてきた相手を確認する。
私よりも年上で、かわいい女の子だった。
ちなみにナナシと呼ばれているのは私が転生のしすぎで名前がころころ変わり、現在の自分の名前が何なのかわからなくなるという現象が起こったので名無しで統一することにしたからだ。
「いつもダンジョンに1人で行って、戻ってくるなんてすごいです!」
「はぁ」
「よかったら少しお話しませんか」
「すみません。疲れてるので」
「あ…ごめんなさい」
お話とか…何を考えているんだろうかこの子は。
でも私の拒絶の態度を見て引いてくれる子だったので助かった。
そのまま通り過ぎて街に戻って寝た。
その子のことはそれきりだと思っていたのだけれど…
それから毎日その子に付きまとわれることになる。
ギルドの前で待ち伏せされていたり、依頼を達成して門に戻ると帰りを待っていたり…
ぶっちゃけかなりのストーカーだった。
「初めて会ったときから好きだったんです!付き合ってください!」
「ごめんなさい」
しかもいつの間にか、お話どころか告白してくるようになった。
面倒くさい…と思いつつもどこか嬉しい自分に腹が立つ。
本当に逃げたいなら他の街に行くなり本気で隠れるなり今の私ならできるはずなのにそれをしない自分に嫌悪感を抱く。
正直1人でいる期間が長すぎて素直になれないけど、人に構ってもらえることに喜びを感じてしまっているのだ。私は。
まして相手は好意を抱いてくれている。
こんな経験は初めてでもう少しこの子に付きまとわれたいと思っている自分も存在した。
どうせ碌なことにならないのに。
でも馬鹿な私は次第に相手との壁を取っ払い始め、会うと少し話す仲になってしまう。
「この世界では女の子同士でも結婚できるんですよ」
「はぁ」
「男なんて野蛮な存在より私はナナシさんと将来を共にしたいんです!」
「ふーん」
「真面目に聞いてくださいよ!」
将来を共にする…つまり結婚…
何度か接しているうちにこの子は裏表がないんじゃないかと思い始めていた。
もしかしたら本当に私に惚れているのかもしれない…
それなら…結婚という経験をするのはアリなんじゃないの?
こんなチャンス滅多にないし、今後これ以上の人生は望めないかもしれない。
もし失敗したとしても私には次があるんだし…
そんなどこか軽い気持ちもあってか、数か月後私はこの子のプロポーズを承諾してしまう。
初めは本当に私の人生なのか!?というくらい順調だったし、幸せを感じていた。
徐々にこの子を信頼し始めて、ダンジョンにも一緒に潜るようになった。
ダンジョンまでついてくる子だけあって実はこの子も冒険者だったのだ。
レベルはそんなに高くないのか強くはなかったけど、1人の時とは違い休息も取りやすくなったし、私がその子を助けるたびに感謝されてそれが嬉しかったりした。
そんなこんなで私はその人生でついにレベル100を迎えることができた。
その子と一緒に誕生日もついでに祝って、この時のために私は生まれてきたのではないかと思えるほどに毎日が楽しかった。
でも結論から言うと、このレベル100達成を契機に私の短い幸せは崩れ去ることになる。
知らなかったのだけど、この世界ではレベルが100を超えた時点で身体の成長が止まる。
それ以上年を取らなくなるのだ。
それは本来嬉しいことなのだけど、この現象がその子の精神を徐々に削っていくことになる。
私よりもただでさえ年上だったのに見た目はどんどんかけ離れていく。
初めは「いいな~。羨ましいな~」くらいに言われるくらいだったのが、だんだんそのことについて触れることがタブーになっていった。
それでも私に対して表面上は優しく接してくれていたけど、ふとした時に憎悪の感情が見え隠れしていた。
そしてついに終焉の時を迎える。
「かはっ…やめ…て…」
「ごめんね…ごめんね…ごめんね…ごめんね…」
いつものように眠りについた後。
息苦しさで目を覚ますと私に馬乗りになって泣きながら私の首を絞めるおばあさんがいた。
いつかこんな日が来るんじゃないかと思いながら最近は過ごしていたから、ああ。やっとか。という感情しかなかった。
無理やりステータスの差で止めることはできたけど、私はそれをしなかった。
死ぬのは慣れているし、憎悪ではなく最後に泣きながら、謝りながら私を殺そうとしてきた彼女をみて抵抗する気はなかった。
そうして何十回目か忘れたけれど…私は再び転生して次の人生を歩むことになった。
「元気な赤ちゃんが生まれましたよ!」
「あーー!あーー!」
泣きながら私はかなりショックを受けていたことに気づいた。
それをごまかすために泣き続けた。
暫く何も考えられなくて、ただ生きていたけど、そんなときにあの少年が再び私の前に現れた。
『やあ。久しぶり』
「…」
『前の人生ね。視てたよ。うん。ちなみにあの後の展開知りたいかい?』
「…」
『あの子もね、君の後を追ったよ。…それで、どうしてボクがまた現れたか話すね』
「…」
『君のレベルは現在102だね。裏を返せば、君は赤ちゃんのまま成長できないんだ。それは流石にどうかと思ってね。レベル100を超えてはいるけれど、今後も肉体の成長は阻害しないように身体を組み替えたいんだけど、その了承を得に来たんだ…どうかな?』
「…このまま生きればおばあちゃんになれるってことですか…あの子のように」
『そうだね。そこら辺にいる人間と同じ成長過程になれるよう設定するよ』
「…お願いします」
『そうか。…君の人生はまだ始まったばかりさ。頑張ってね』
ロキ様は用が終わるとすぐにいなくなった。
あの神様に怒っても仕方のないことだ。私の運のなさは何度も経験しているだろうに。しっかりしてくれ自分。
でも思ったよりも前回の死に方はショックが大きかったようで、今回の人生は無気力に生きて、何事もなく死んだ。
そして私はまた転生を繰り返す。
死んでも繰り返される。
終わりはない。
その考えに今更ながら気づいて、また絶望した。




