少女だった者のまだ少女だった頃の話
私の家は貧乏だった。満足な食事も摂れないくらいには。
そのせいか身体は痩せ細り、小学校に入ってからは周りと比べられて軽いいじめを受けていた。
それでも給食は出るし、あだ名を付けられて馬鹿にされるくらいだったからまだ耐えられた。
しかし中学では度が超えていた。
早々にいじめのターゲットにされてからは一向に終わる気配がなく、日々いじめはエスカレートしていくばかり。
周りは見て見ぬふりで助けを求めても煙たがれるし、教師に至っては気付いていながら、問題になるから誰にも相談するなと直接言われたこともある。
家では両親が怒鳴り合わない日はなく、虐待まがいなことを受け、学校では地獄のようないじめに遭い、死にたいと思い始めることは必然だった。
こうして私のどうしようもない日常はあっけなく幕を閉じた。
「あれ…死んだはずなのに…」
なぜか死んだはずなのに意識があった。
目が覚めたのは白い部屋で、目の前にいる少年を除けば本当に何もない部屋だった。
『なかなか壮絶な人生だったね。あそこまで悲惨な日常はそうそうないよ』
「はぁ…」
目の前の少年がなんてことないように話し出したのでとりあえず相槌を打つ。無視が一番してはいけないことなのだ。
『山根しずか』
「はい」
『世界はもう少し楽しいところなんだ。君の人生では味わえなかったけれど。もう一度、違う世界で違う人生を歩んでみないかい?』
少年が笑顔で私に話しかけてくる。
もしかしたら笑顔を向けられたのはこれが初めてだったかもしれない。
私は不覚にもその笑顔を見て真剣に考えてしまった。動揺を隠すために。
私の人生は自信をもって酷かったと断言できる。
でもその近くで幸せそうにしていた人間がいることも知っている。
何度人生を入れ替えたいと思ったことか。それが叶うのならば…
「あなたにそれができるのですか?」
少年は胸を叩いて自慢げに話す。
『当然さ。ボクは神だからね。それくらいどうってことないさ』
神様か。本来ならそんなことを言ってくる人がいれば鼻で笑うんだろうけど、この少年が神だと言われてもなぜか納得できてしまう魅力があった。
毎日のつらい生活を嘆き、生まれ変われるなら何をしたいとか、こんな人生を歩んでみたいとか、現実逃避は何度もしていた。私は…
「もう一度…生きたいです」
『うん。そう言ってくれてよかった。今度は違う世界に転生させよう。今ボクが注目している世界なんだけどね。アルズワルドっていうんだ。あ!そこではスキルっていう…君たちの世界では魔法かな?そんなものが使えるんだけど、特別に1つスキルをプレゼントしよう。何かリクエストはあるかな?』
魔法が使える世界…か。
私は自分でも馬鹿だと思う。きっと新しく人生を始めてもまたいじめに遭うかもしれない。
そうじゃなくても、幸せになれるか不幸になるかで言えば、不幸になる可能性のほうが高い気がする。
それなら…また人生をリセットできるスキルがあれば…何度でもやり直せればもしかしたら幸せを掴める人生にいつか巡り合えるかもしれない。
「死んでも…また転生できるスキル…そんなものはありますか?」
『何度でも死んだら転生するのかい!?それは…とっても面白そうだね!いいだろう。そんなスキルをプレゼントしよう』
短い時間しか話さなかったけど、私のスキルを聞いた時の顔は一番素敵だった。
『じゃあスキルも決まったことだし、そろそろ転生させてもいいかな?』
「あの…お名前を…」
『ああ!これは失礼。ボクの名はロキ。楽しいことや面白いことが大好きな神様さ』
「ロキ様…」
「うん。それじゃあね。よい生を」
ロキ様の言葉を聞いた後、すぐに視界が暗くなり、しばらくすると私は赤ちゃんとしてアルズワルドという世界に転生していた。
「アリス。ずいぶん大きくなったわね」
「はい。マザー」
私はアルズワルドという名の世界の孤児院で生まれた。
やっぱり私はついていないのか相変わらず貧乏な人生を歩んでしまったけれど、元居た世界とは人の暖かさが違った。
ここにはいじめなどなく…ただ必死に、みんなで力を合わせて日々を生きる楽しさを見いだせていた。
そもそもこの世界には魔物という脅威があって、人々の生活圏はどんどん縮小していっているらしく、人間同士で争っている余裕なんてないという理由もある。
「前の世界では私がターゲットだったけど、この世界では魔物がターゲットってだけか」
「何か言いましたか?アリス」
「いえ。なんでもないです」
ただ、魔物も害があるだけではない。
倒せばお金にもなるし、食べられる。強い魔物を倒すことができれば一攫千金も夢じゃないし、魔物はそれこそ腐るほどいるため仕事が無くなる心配もない。
そんな理由から孤児院の子どもたちは将来冒険者になりたいと考えている子が多い。私もその中の一人だ。
本来の私なら冒険者なんて職業は絶対に選ばないのだけど、ロキ様が初めから私に【無限転生】というスキルのほかに5000Pもスキルポイントを与えてくださっていたのだ。
そのおかげで私は火魔法をLV5まで何の苦労もなく覚えることができた。だから街の周辺にいる弱い魔物くらいなら私でもなんとかできるのでは考えている。それにもし死んでもまた転生できるのだ。
「アリス。死なないでね。たまには顔を見せに来なさい」
「はい。今までありがとうございました。マザー」
こうして私は孤児院を出なければいけない年齢になり、冒険者を目指すことにした。
まぁ就職するとか冒険者用の建物があるとかそんなことは無くて、自分で街に出て魔物を狩るだけなんだけども。
孤児院生活中のごみ拾いや織物で得たお小遣いで装備一式を買い、いよいよ魔物を狩りに行く。
「門を開けてください」
「君1人でか?何をしに?」
「今日から冒険者として活動するんです」
「…そうか。初めて街の外に出て戻ってくる奴がどれくらいか知っているか?」
「いえ。知りません」
「3人に1人だ。残りの2人は永遠に戻ってこない。危ないと思ったらすぐに引き返すんだ。わかったな?」
「…はい」
「頑張れよ」
分かってはいるけど、人生甘くはないのだ。
改めて気を引き締め、私は街の外に出た。
「おぎゃ!おぎゃあ!」
「元気な女の子です」
いつの間にか私は赤ん坊に逆戻りしていた。
はい。3人のうちの2人に入りましたよ。
自分の運の悪さはどうにかならないのだろうか…運1って…いろんな人に聞いてみたけど私以外に1の人見たことないよ。
途中までは順調だったのだ。ゴブリンを不意打ちで狩って、初日だから無理はしないでおこうと帰るところで狼の群れに蹂躙された。魔法なんて使う余裕はなかった。
またやり直しか…そう思ってステータスを視ると前回のステータスのままであることに気づく。
まだ赤ちゃんなのにレベルが15だった。
「(ロキ様…ありがとうございます)」
これなら希望が持てる。鈍くさい私でも何度か転生すればまともなステータスになることができるのだから。
3度目の人生はまともに戦闘できるよう、戦いについての知識を得ることに全てを費やそうと決めた。
ある程度成長してから冒険者になり、人と組むことは精神的にできないので強そうな人の後ろをこっそりついていき戦闘方法を学び、自分で実践してみる。そんなことを繰り返しながら何とか生き延びていった。
そうして3度目の人生にして、初めて16歳を迎えることができた。
「相変わらずぼっちだけど。でも嬉しいな」
誕生日を迎えたことだし、自分に何かプレゼントしたい。
レベルも上がってきたし、ちょっと遠くまで探索してみようかしら?
こっそり尾行することが多かったので【追跡】と【探知】のスキルを覚えたのだけど、これが意外にも優秀で周囲の魔物もこの2つのスキルで把握できるため、ほぼ不意打ちを受けることはなくなっていたのだ。
なので多少探索範囲を広げてもいい頃だと思っていた。
「よし。ちょっと頑張ってみよう」
こうして初めての年齢に浮かれきっていた私は愚かにも魔物が跋扈する世界に足を踏み入れてしまった。
「はぁ…はぁ…はぁ…しつ…こい…!」
私を待っていたのは前回殺されたあの狼共だった。
あいつらの索敵範囲は私よりも広いらしく、私が見つけたころにはすでに全力疾走で私に向かってきていた。
狼の速さは私よりも圧倒的で、しかも集団で追ってくるためかわからないけど、どんなに私が逃げても諦めない。
「あっ!」
狼を意識しすぎて木の根っこに足を取られて転んでしまい、最後に見た景色は狼が私の服を食いちぎっている姿だった。
「元気な赤ちゃんが生まれましたよ!」
「「おお!」」
はぁ。またやり直しか…
私ってホント…どんくさい。
この人生ではあの狼を絶対にしばく。
そう心に決めてとりあえずは赤ちゃんらしく産声を上げることにした。




