使徒、人の温かみに触れる
トカゲを倒し旅を続けること数週間。
やっと街に着いた。
途中よくわからんヌルヌルした生物や狼やらに襲われたが俺たちの脅威ではなかった。
結局一番強かったのは最初に出会ったあのでかいトカゲだったか。
「やっと人に会えそうだな。小次郎」
「気やすく名を呼ぶな」
相変わらず佐々木小次郎との関係はよくないな。
門に近づくと人が見えてくる。
この世界に来て初めて話が通じそうな相手だ。
数週間かなり気まずい旅だったからな。話しかけても無視されるか嫌そうな顔されるし。久々に敵意のない人間と話せるかもしれん!
「止まってくれ。見ない顔だな。どこから来た?」
「旅をしていてな。街に入れてくれないか?久々に料理が食いたい」
狩った獲物を食べて生き永らえてきたからな。
そろそろ手料理と暖かい布団で寝たいぜ。
「では通行証を見せてくれ。旅人なら持っているだろう?」
通行証か。持ってないな。
勿論小次郎も持ってない。
「それが旅の途中で馬鹿でかいトカゲに襲われちまってな。その時に荷物を全部捨ててきちまったんだ。だから通行証はおろか、無一文なんだ。何とかならんかね?」
「…それは災難だったな。ちょっと待っててくれ」
あっちも俺たちが荷物も持たないでやって来たのが不審だったのだろう。納得した様子で誰かを呼びに行った。
それからしばらくして門番の上司らしき人間を連れてきた。
「魔物に襲われて無一文になったってのはあんたらのことか」
「「ああ」」
「そうか。俺は警備隊隊長のレックスだ」
「宮本武蔵だ」
「佐々木小次郎」
「ミヤモトムサシにササキコジロウか。変わった名前だな。冒険者になったことはあるか?」
「冒険はたくさんしてきたが…」
「お前は阿呆か。職業か何かだろう。ないな」
阿呆とは何だ阿呆とは。
「ふむ。では俺について来てくれ。2人にはギルドカードを作ってもらって、それを身分証明として使ってもらう。本当はギルドカードを作るには依頼を一つ達成しないといけないんだが…お前たちは魔王城の方向から来たな。何か倒したか?」
「ああ。馬鹿でかいトカゲと狼、あとはヌルヌルしている軟体生物」
「馬鹿でかいトカゲはどれくらいの大きさだった?」
「俺の身長のざっと3倍はあったな」
「あんたの3倍?ドラゴン…?そんなわけないか。まあファングやスライムを倒せるなら実力は文句ないだろう。身のこなしも常人離れしているしな。資格アリと報告しておく」
街に入り歩きながら隊長が色々質問してくる。
よくわからんが依頼は達成しなくてもギルドカードとやらは手に入るようだな。
他にも出身地やら何をしてきたのかとか聞かれたが適当に答えた。
街並みは…かなり発展しているように思える。
日本よりかは栄えている印象だ。
何より左右で屋台を開いて旨そうなものを売っているのがいいな。
おっとよだれが。
「腹が減っているのか?何か食べるか?」
「ああ。数週間野宿だったからな。見るもの全てが旨そうだ」
「本当によく生き延びたなお前たち。…しょうがない。何か奢ってやろう」
「本当か!嬉しいぜ!」
「恩に着る」
これが人の温かみよ!
人間ってやつはこうじゃなきゃな!
「じゃああの串焼きが食いてえ」
「悔しいが同意だな」
「オークの串焼きか。よし。ちょっと待ってろ」
隊長さんが串焼きを買いに行ってくれた。
いい奴だ。
その間に街を改めて眺める。
象形文字みたいなもんがそこかしこに書いてあるんだが、なぜかその意味を理解できちまう。こんな文字を勉強した覚えはないんだが…
小次郎と目が合う。
「お前も文字が読めるか?」
「ああ。大方あのロキの仕業だろう」
「ま、それしか考えられんよな」
あの自称神な。
まあこれは嬉しい誤算だ。よくよく思えば日本語が通じている時点でおかしいはずだしな。意思疎通が出来ることはロキに感謝しておこう。
隊長が串焼きを3本持って帰ってくる。
「待たせたな。ほら」
「ありがとう」
「かたじけない」
隊長から串焼きを貰い頬張る。
「うまい!久々に調理済みの物が食えた!」
「やはり肉は生より焼くに限るな」
「お前ら…」
隊長が憐みの視線を向けてくる。
生き延びれれば何でもいいと思っていたが、やはりある程度の手間でも焼いたり煮たりするべきだったなやっぱし。
食材に感謝しつつ完食し、再び歩きながらまた隊長の質問攻めを受ける。
「それで、お前たちは何をしにこの街に来たんだ?」
「ああ、ちょっと人探しをな」
「ほう。どんな奴だ?俺は仕事柄多くの人を見る機会があるからな。もしかしたら力になれるかもしれん」
「この4人だ」
「ふむ。どれどれ?…この方たちは!!」
写真を見せると隊長が劇的な反応を見せる。
おいおい。これは知っている反応だぞ。案外すぐ見つけられそうだなこれは。
「その様子だと知っているみたいだな」
「今どこにいるのか教えてくれないか?」
「ああ。この街にいた期間は短いが、全員が同じ変わった服装を着て、顔も美少女だったから今や伝説になっている4人組だ。ちなみに俺の推しメンはおっとり笑顔が素敵な芽衣ちゃんだった。だが残念ながら彼女たちは今この街には居ない」
「…そうか」
隊長が急に元気に語りだした。どうやらこの街ではかなり有名みたいだな。
まあ、簡単に見つかるとは思ってなかったが。
「どこにいるかはわかるか?」
「噂では北の街スクーナに向かったみたいだな。詳しい話は彼女たちが泊まっていた宿の女将サーシャに聞くといい。サーシャが一番彼女たちについて詳しく知っているだろう。さっき通り過ぎてしまったが、噴水があった広場にある銀波亭という宿だ。」
「そうか。助かる」
「貴重な情報をありがとう」
「いやなに。最近よく聞かれるからな。お前たちも彼女たちの追っかけだったか!お前たちの推しメンは誰だ?」
やたらと笑顔で聞いてくる隊長。
どうやら彼女たちの追っかけだと分かって完全に俺たちのことを信用してくれたようだぜ。
なぜか釈然としないが…まあいいか。
推しメンってのが何かわからんが…さっきの隊長から察するに、気になっているやつを言えばいいのか?
「俺はこいつだな。二刀流だと聞いているからな」
「夕陽ちゃんか!お嬢様っぽくてかわいいよな!わかるぜ!コジロウは?」
「俺はこっちだ。俺の秘剣を返せる強者と聞いた」
「朝日ちゃんか!4人のリーダー的存在だな!天真爛漫で裏表が無さそうな子だ!分かってるじゃねえか!」
やたら詳しいな隊長!
「だが、残念ながら銀波亭は予約も取れないほど人気宿になっちまったから泊まることはできないぜ?何でもいち早く4人が帰ってきたときに会うため、ファンが常に銀波亭で張っているらしい。更に、この4人が泊まっていた部屋はあまりにもいい匂いがするため閉鎖されているらしい。噂ではサーシャがこっそり使っているとか…!職権乱用もいいところだぜ!」
「お、おう」
「そうか」
隊長どんだけこいつらのこと好きなんだよ。
引くわ。
「おっと。つい話し込んじまったな。ここがこの街のギルドだ」
どうやら目的地に着いたようだ。
中に入ると強そうなやつらがちらほら。道場みたいなもんかね。女が多いのが気になるが。街中も女のほうが多かったな。
受付まで歩いていき、隊長が受付嬢に話しかける。
「すまんが、こいつらにギルドカードを作ってやって欲しい。依頼は免除してやってくれ。実力は俺が保証する」
「レックスさん。かしこまりました。ではこちらの用紙にお名前を記入してください」
「「ああ」」
自分の名前を書いていく。この世界の文字でだ。
不思議な感覚だが。これが自分の字なのか…
「はい。ありがとうございます。パーティー編成はしますか?」
「「パーティ?」」
「あんたら二人で仕事するのか?って意味だ」
「冗談じゃない」
「おい小次郎。いいじゃねえか」
「断る。一人ずつの登録にしてくれ」
「はあ。まあいいけどよ」
「いいんですか?二人のほうが何かと便利かと思いますが」
「ああ。別々で頼む」
「わかりました。それでは少々お待ちください」
受付嬢が奥に引っ込む。
隊長が怪訝な表情で尋ねてくる。
「いいのか?二人でランクを上げていくなら依頼の数も倍こなさなきゃいけなくなるぞ」
「構わない」
「実は小次郎は俺のことが嫌いなのさ。これから俺のことももっと知ってくれればちっとはいい関係になるんじゃないかと思うがな」
「そんな未来は訪れん」
「なんだ。喧嘩でもしてんのか」
「そんなところだな」
喧嘩どころか殺し合った仲だな!前世だが。
「お待たせしました。こちらがギルドカードです」
「よし。これでお前たちも大手を振ってこの街に滞在できるぞ」
「感謝する」
「ありがとうな隊長」
「ああ。追っかけは大変だろうけど頑張れな。あ、もし会ったらサイン貰っておいてくれ!金はいくらでも払うから!」
「?ああ。任せろ」
サインってなんだ?まあいいか。
ギルドを出て隊長と別れる。
とりあえずは彼女たちが泊まっていた銀波亭ってとこに行ってみっか。
この二人も美少女設定ですが、服はボロボロ、その上臭いので隊長はなんとも思ってません。




