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黄金のファフニール  作者: とっぴんぱらりのぷ〜
第3章 光を追って
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殺意

 階段まで辿り着けたのは俺達四人とシルト達六人その他の黄金伝説のメンバー五人だけだ。残り四十人程はほとんど死亡したと思われる。ちゃっかりリーダーのレインも生き残っていた。

 全員が肩で息をする中でレインが笑いだす。


「ハハ……、ハハハ。やったぞ!遂に四十五層を攻略したぞ!」


 レインが興奮して騒ぐが、他のメンバーやシルト達は冷めた目で見ている。本人は全く気にしていないのか気づいてないだけなのか「前人未踏だ!」「伝説をつくったぞ!」などと子供のようにはしゃいでいる。あまりにも不謹慎なはしゃぎ様にイライラして、現実を見させる。


「お前……、周りを見てみろよ。他のメンバーはどうなったかわかってるのか?」


 俺の言葉にレインが生き残りのメンバーを確認する。


「周り?そういえば、メンバーがだいぶ減ったな。まぁ、攻略に犠牲はつきものだからね。仕方ないさ」


「仕方ない?ノープランで大勢の仲間を殺しておいて仕方ないだと?」


 未だ手に持っていた小太刀で真っ二つにしてやりたい衝動に駆られるがアーシェがそれを止めてレインの前に出る。


「ん?君はどこかで……」


 パンッ!


 レインはアーシェの平手打ちに「ぐうぉふぇ」などという気持ちの悪い声をあげる。


「な!なにをするんだ!」


 パンッ!


 往復ビンタだ……。


「き、貴様!僕が誰だかわかってやっているか!?」


 鼻血を出しながらレインが叫ぶ。アーシェは無表情のままそれに答える。


「知っていますとも。六英雄の末裔オーリス家のレイン様でしょう?他人の命をなんだと思っているのです。見過ごすわけにはいきません」


「そ、そうだ!僕はレイン・エヒト・オーリス!公爵家の後継なんだぞ!こんなことしてタダで済むと……」


 何かに気づいたのかレインはアーシェの顔をまじまじと見る。


「そうだ……。前に会った事がある。君はロンデリオン家の令嬢だな!?男爵まで落ちぶれた家の娘が僕にヒドイ事をしてどうなるかわかっているんだろうな!?戻ったらすぐに王都のロンデリオンに抗議してやる!」


「どうぞご自由に。私は家を捨てた身ですので抗議は無駄だと思いますが」


「くそっ!後で後悔させてやる!」


 アーシェの平手打ちで鼻血を流すレインの情けない姿を見て、殺してやりたい衝動が収まる。


「わるいな……。嫌な役を押し付けてしまったな」


「いえ。ミツハルがやらなくても他の誰かがやりかねませんでしたので……」


 確かにそうだ。黄金伝説のメンバーからすれば、怒りは俺達以上だろう。仲間や自分の命が軽く扱われたのだから。


「魔力が回復したら全員転移で戻るのか?」


「俺達は戻るっス……。当分は上の方で大人しくしてようと思うっス。レインさん、もぅ黄金伝説抜けてもいいっスよね?」


 シルトがそう言うと生き残った他のメンバーも口々に脱退を表明する。

 それを聞いたレインは顔を真っ赤にして喚く。


「そんな勝手が許されるわけないだろう!?だいぶクランのメンバーも減ってしまったじゃないか!今抜けられたら攻略できなくなる!」


 どこまでも勝手なヤツだ。飽きれてものも言えない。


「じゃぁ、辞めればいいだろ?お前が冒険者をさ。これ以上余計な事を言うようなら、面倒くさいから殺すぞ?」


「な、なに…を…!」


 それでも喚こうとするレインが俺の目を見て黙る。殺人なんてしたくもないが、このバカの声はもう聞きたくないので本気だ。初めて他人に殺意を向けたが効果はあったようで、レインは俯いて目を合わせようとはしなかった。


「それじゃぁ、帰るとするか」


 それぞれが転移の魔石を取り出し転移していく。俺達の転移とは違いそれぞれの対になっている魔石の元に転移するはずだ。大体は無くしたり壊れたりしないように魔石屋が管理している。二箇所以上は登録できないらしく実に不便だ。


「アニキ!今日はありがとうござっした!今度はちゃんと移籍するんでまた呑みましょう!」


「おう!移籍したらあんまり無茶すんなよ!」


 シルト達も転移していき、この場に残ったのは俺達四人……とレインだけだ。


「お前も帰れよ。目障りだから」


 転移の魔石を隠したりするところを見られたくない。


「魔石を無くしました……。すみません……」


「あっそ。帰り道はあっちだ」


 俺は階段の上を指差す。レインはそれを見て泣きそうになる。レインの血を記憶して外に持ち出すこともできるが、そんな事でこの転移魔法のネタバレはしたくない。

 しかし見殺しも後味が悪いので俺は手持ちの非常食を取り出しレインに渡す。


「二週間もすればクラン赤いキツネがここを通って帰るはずだから連れて行ってもらえ。それと四十六層は四十五層より簡単みたいだから、魔物でも狩って食ってれば生きていけるだろ。お前が見殺しにしてきた仲間の恐怖と孤独を少しでも味わえ」


「そんな……。助けて……」


「無理だ。転移魔法の仕組みくらいわかってるだろ?帰れるけど来る事はできない」


 それだけ言うと俺は三人を連れて下に降りていく。レインが確認できない位置まで降りて魔石を隠しブリジットのオススメ亭へと転移した。










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