七つの光を集めろ!
翌日になってもリヒトは現れなかった。さすがに心配するが、こればかりは俺ではどうしようもない。ひょっとして、拗ねて話さないだけかもしれない。
俺達三人はいつもの様に中央区へと向かうが、迷宮入り口には行かずに神殿までやってきた。
今日は迷宮には潜らず、ルグ教の神殿に入る予定にしている。俺とミーニャはアーシェの従者として中に入る。
神殿の入り口である一階の階段前に立つ。今日も二人の兵士が立っていて、俺達三人を訝しげに見る。
「なんの用だ。ここには許可なく入ることはできん。礼拝なら他の教会に行くがいい」
一人の兵士がそう言うと、もう一人も
「さっさと立ち去れ。ここは冒険者なんかが入れるところではない。捕まりたいのか?」
と警告してくる。
アーシェが前に出て、堂々とした態度で話す。
「私はニールのロンデリオン家、アシェル・アレクシス・ファルシュ・ロンデリオンです。今日は教皇様に御挨拶に来たのですが、ご不在でしょうか」
兵士は一瞬だけ驚きを見せるが、すぐに鼻で笑う。
「フン。ロンデリオン家の者が冒険者のような格好でここに来るわけがなかろう。世迷言もいい加減にせい!」
どうやら兵士はアーシェの顔を知らなかったようで相手にしない。
この作戦はダメなのかと思ったが、神官衣を着た中年の男が階段を降りてきて声をかける。
「どうしたんだ。騒々しい」
兵士はその人物に礼をすると
「いえ!この者達が六英雄を騙り神殿に入ろうとしていたものですから。すぐに追い払いますので」
「六英雄を騙るなど追い払うだけでは済まないだろう。すぐに捕らえて尋問するがよい」
男は俺達をまじまじと見て、アーシェを見てから固まる。
「ア、アシェル様ではないですか!一体どうして!?」
「お久しぶりです、オズマ司祭。メトに滞在中なので久しぶりに教皇様に御挨拶をと思いまして、足を運んだのですが……」
「それは大変失礼致しました。あいにくと教皇様は不在ですが、どうぞ中へお入りください。そちらは従者の方々ですかな?武器の類いはお持ちになれませんので兵士に預けて、皆様も中へお入りください」
兵士達の顔が青ざめる。
「た、大変失礼致しました!」
俺達は武器を外して兵士に預け、階段を上った。
正面に見える大きな扉は礼拝堂とか祭壇がある部屋なのか?アーシェは神殿で龍の神子らしき人物を見たことがないと言っていたから、普通に入れる部屋にはいるとは思えない。入ったはいいが、どうしたものか……。
俺とミーニャは待機室のような部屋に案内され、アーシェはオズマ司祭と別室で会談をする。
神殿の中はほとんど人がおらず探索するには丁度いい。
「ミーニャ。誰かが来てどこに行ったか聞いてきたら、トイレに行ったっていうんだぞ?俺は龍の神子を探してくる」
「うん。わかったー」
以前にゼルテが使っていたような隠蔽魔法を使ってみる。おそらくは光属性の魔法だろうと予想する。
「あ、お兄ちゃんが消えた!どうやったの!?」
「光属性の魔法で周りの光を屈折させてみたんだ。ちゃんと消えてるか?」
「すごい!ちゃんと消えてるよ!」
「よし、じゃぁ、ちょっと行ってくる」
「いってらっしゃーい。気をつけてね!」
おうっと返事をし、部屋を出る。神殿内には結構な部屋数があるが、普通の部屋にはいないはずなので、怪しいところがないか調べて回る。
それほど部屋数はないため十分ほど歩きまわると大体は調べ終わった。途中で何人かとすれ違うが、全く気付かれている様子はない。効果が魔力や知力に影響されるのだろうか?俺の知力は下がっているが……。
あと調べてないのは礼拝堂と思われる正面の部屋だけだ。さすがに扉も大きく、中に大勢の人がいたら気付かれてしまう。どうしようかと悩んでいると、意外な人物を見つける。
その人物は真っ直ぐ正面の扉に向かい中に入る。なぜか扉は開けたままにしていく。俺も後に続き中に入る。中は予想通り礼拝堂だったが心配していたような事はなく、誰もいなかった。
前を歩くザロモン司祭は真っ直ぐ祭壇に向かい、俺もその後につづく。
声をかけようか迷うが、ザロモン司祭がどんな思想を持っているのかわからないため、やめておく。
ザロモン司祭は祭壇の前に立つとしゃがんだようだ。丁度、説法台の後ろに隠れて見えない。俺も祭壇に近づくが、ザロモン司祭が消えている。
「どういう事だ?確かにここにしゃがんだはずだ」
俺もしゃがんでみると、祭壇の下の床に隠し扉があり、開けてみると下に降りる階段があった。
かなりの段数を降りただろう。下の階はギルドのはずだが、ぶつからないように設計されているのだろうそのまま真っ直ぐ降りる。このままでは迷宮入ってしまうのでないかと思ったところで行き止まりになる。迷宮第一層と同じような壁に囲まれるが、扉も何もない。でも、ザロモン司祭は俺の前に降りたのではないのか?絶対何かあるはずだ。
石壁を調べてみると、文字のようなものが七つ刻まれているのを見つけると同時に、字を習っていなかった事を後悔する。
「ここまで来て、何が書いてあるのか読めないってバカだな俺は……。ん?どこかで見た事があるような……」
この文字は見憶えがある。一度じゃない。何度もだ。あ、っと思い出し自分の冒険者カードを取り出す。そこに書いてある文字と全く同じだ。
「七つの属性、光闇土風水火雷……。全属性の魔力を込めればいいのか?」
どうなるか仕組みもわからないが壁に手を当てて魔力を集める。
すると、壁に刻まれた文字がひとつずつ光り出す。
最後の一つが光り、七属性が揃う。
突然、ゴゴゴと音がして目の前の壁が上にズレる。薄暗い階段とは違い、中は眩しいくらいの光に満たされていた。
上の礼拝堂並みに広い空間の真ん中に台があり、その上には少女がいた。
龍の神子、アイラだ。




