俺とお前と
手は届かなかった。無防備な状態でまともに攻撃されたら只の怪我では済まない。
目の前でドス黒い血が噴き上がる。
イェーガーが胴体から首を失い、血を噴き出している。
左手は届かなかったはずなのに……。右手の剣がイェーガーの首を斬り飛ばしていた。
「なんで……」
『よかった……。間に合いましたね』
リヒトがやったのか?
『そう……みたいですね。なんだか動けました』
「あぁ……。よかった。ありがとう」
全身の力が抜け、その場にへたり込む。
ミーニャの治療が終わり、二人がそばに寄ってくる。
「すまなかった。俺のせいで危険な目にあわせてしまった」
情けない声を出して二人に謝罪する。
「いえ、ちゃんと守ってくれたじゃないですか」
「傷も治ったし、そんなに痛くなかったよ!」
そんな俺に二人は励ますように声をかける。俺一人では守れなかった。リヒトがいなければ二人がどうなっていたか。
「先に進みましょう?考えるのはまた後で」
アーシェに促され俺達は歩き始める。
ようやく、三層目に続く階段に辿り着き、階段の途中で座り休憩をとる。
顔や手についた血を落とし、マリーさんが持たせてくれたサンドイッチを食べる。俺は先程の事もあって食事を摂る気にならなかった。
『ミツハル。二人が心配していますよ?少しでも食べないと』
リヒトの言う通り二人が心配そうに俺をみている。
『なぁ。リヒト。この先俺は二人を守ってやっていけると思うか?』
少し間が空いてリヒトが答えてくれる。
「今のままでは難しいかもしれませんね。もっと強くならなければ」
リヒトの口からリヒトの言葉が漏れる。
アーシェとミーニャが驚いてこちらを見ている。あれ?今……なんだ?
「あれ?なんででしょう?おかしいですね。僕が喋ってますよ?」
二人はいよいよ混乱して俺を見ている。盛大な独り言のうえに言葉遣いまで変わってしまった。
『リヒトと俺が入れ替わった?』
「そうみたいです。身体も動かせます」
『俺はどうすればいいんだ!?』
身体を失って意識だけになってしまえばミツハルという存在はどうなってしまうんだ?
「僕がミツハルの代わりに迷宮を攻略するか、龍の神子を解放すればいいんですかね?いや、元々はそのつもりだったはずだし、僕の目的でもあったはずだ」
リヒトも少し混乱している。
「ミツハル。どうしたんですか?」
「お兄ちゃん?」
独り言を続けるリヒトに二人が心配して声をかける。
「いえ、なんでもあ……ない。僕……俺が先頭を歩くからついてきてくだ……くれ」
『なんだそりゃぁ』
リヒトが無理に俺の口真似をしようとするが、たどたどしいを通り越して怪しすぎる。
『だって、お二人はミツハルの仲間じゃないですか。僕はあくまでもミツハルに徹しますよ。ひょっとしたらまた入れ替わるかもしれませんし、経験を積むいい機会ですよ!』
『お前……。いいやつだな』
リヒト達三人は三層目へと移動を始める。
三層は二層と違い、一層のような石造りのマップだ。途中、シュピンネやイェーガーに出食わすが、リヒトが一瞬で仕留める。余裕があるときはアーシェやミーニャにも戦わせ、経験を積ませる。まるでパワーレベリングだ。その後も新しい敵に会うこともなく、順調に五層目までやってくる。
「僕の経験……。聞いた話によると五層目から敵が強くなりま……る。特殊な変化をした魔物もでま……る。二人とも俺から離れないように」
『特殊な変化をした魔物ってのは強いのか?』
慣れたのか、言葉にせず伝えてくる。
『えぇ。ケッツァーと呼ばれる魔物です。元は普通の魔物なんですが突如として強力な力を得る個体が出てくるんです』
何度かケーファーに遭遇するが、リヒトが強すぎてまるで相手にならなかった。リヒトは魔法を使わずに身のこなしと剣術だけで敵を仕留める。
アーシェは何度も首を傾げていて、不思議に思っているようだが……。
地図上でもうすぐ階段が近くなってくると、前方の広い空間から戦闘の音が聞こえてきた。




