ブリジットのオススメ亭
ラウ、マウに別れと告げて俺達は「ブリジットのオススメ」亭へと戻る。暗くなってしばらく経つと思うが、宿では未だ客達が酒や料理を楽しんでおりとても賑やかだ。
「お、お帰り!無事に帰って来たね!まずは……風呂にお入り!」
女将のマリーさんが鼻をつまんで風呂を勧めてくる。
そうだ。俺達はケーファー体液まみれだった。葉っぱをすり潰した様な青臭さはあるが、それほどキツくなかったためすっかり忘れていた。
早速、風呂へと向かう。汚れた衣服は宿で洗濯までしてくれるようだ。
浴室は小さめで一度に二人程しか入れないが、男湯と女湯が分かれていて、割と小綺麗だ。湯船に浸かりながらリヒトに質問タイムだ。修学旅行だと恋バナになりそうだが、はたから見ると、あいにくと一人芝居だ。
「そう言えば、この世界は電気がないのに灯りが点いてたり風呂を沸かせるのは魔石ってやつの力なのか?」
『そうですよ。魔石は大体は冒険者が集めてくるんですが、そのままだとタダの魔力の塊なので、生活に使用するのは難しいんです。ですが、魔石に紋様を入れると魔力がなくなるまで効果を発揮します。例えばお風呂を沸かすなら“水を沸かせるくらいの火”、灯りなら“眩しくないくらいの光”といった感じで紋様を施すと、紋様に合わせた効果があらわれます。勿論、魔石の魔力は無限ではないので、時々交換する必要がありますが』
「乾電池みたいなものか……。時間が判る魔石もあるって言ってたよな?それはどういう仕組みだ?」
『私も魔石専門ではないので、詳しくはわかりませんが、魔石に残された魔力の減り具合で紋様に変化が出るといった物だったと思いますよ』
なるほど。迷宮探索には必要そうだな。あとで買いに行こう。
「アーシェは巨乳だよなぁ」
『そうですねぇ』
『な、何言ってるんですか!』
面白いなぁ。リヒトをからかってたらのぼせそうなので、あがって夕食にしよう。腹が減ってはリヒトもからかえない。
『ヒドイですね。まったく……。まぁ、僕も割と楽しいですけどね』
「え?俺は男に興味ないよ!?」
『そういう意味ではありません!』
いよいよのぼせそうなので、風呂からあがり、着替えてから食堂へと移動すると、すでに二人は待っていた。
ここの料理は美味しいとラウから聞いていたため、かなり楽しみだ。
「はい!おまち!」
ドン!と豪快に置かれた皿には、これまた豪快な料理がのっている。
料理がのった皿にローストビーフの塊のような肉にチーズやらジャガイモがのっており、もう一つの皿に熱そうな鉄板がのっている。
「このでかいのはどうやって食べるんだ?」
「こういうのは初めてかい?みてな!」
マリーさんはそういうとナイフで肉を一口サイズ切り、串に刺してチーズと一緒にして鉄板に押しつける。
ジュゥっと音を立て少しチーズが焦げるくらいの匂いが香ばしい。
「ほら食べてみな!」
マリーさんから渡された串焼きを頬張る。口の中でチーズと肉汁が混ざり合い。何かの宝石箱という表現が頭に浮かぶが、要は
「うまい!」
ということだ。
マリーさんはアーシェとミーニャにも同じように取り分けてくれる。面倒見のよい女性だ。
リヒトの身体はあまりアルコール慣れしていないため、練習も兼ねてエールを注文した。
『練習って……。自分が飲みたいだけじゃないですか!』
「肉に酒は付き物なんだよ!」
「はい?」
いけない。また口に出してしまった。
「なんでもない。アーシェも何か酒でも飲むか?飲んでもいい年齢なんだろ?」
「そうですね。では葡萄酒を少しだけ……」
「そうこなくっちゃ!ウチ料理は酒にピッタリなんだ!しっかり堪能しておくれ!おチビちゃんには葡萄のジュースを持ってきてあげるよ!」
マリーさんは、嬉しそうに厨房へと走った。




