MPK
ちょっと待て……。ミーニャが撃った矢を見てみろよ……。ほら、地面に穴が空いてるぞ?
『まだ一匹残っています。今度はミツハルがやってみてください』
「ゴブリンの時みたいでいいのか?」
『基本は同じなんですけど、もっと魔法属性を意識して、そうですね……。剣に魔力を付与して攻撃してみてください』
前回のゴブリンの時は、多数めがけて魔力を放出したが今回は目の前のケーファー一匹だ。俺は、剣を持つ右手に意識を集中させるが、ケーファーも黙ってはいない。ギチギチと羽を鳴らし勢いよく飛んでくる。
飛んできたケーファーを躱し、もう一度集中する。イメージは火だ。剣に火を纏わせ、あいつを焼き斬る!
着地したケーファーは狙いは誰でもいいのか、近くにいたアーシェに向かって飛ぼうとする。アーシェはメイスを構え迎え撃つ体勢に入るが、ここで俺のイメージが完成した。右手が熱くなり、剣の色が真っ赤に染まる。
俺は走り出し、飛ぼうとしているケーファーに上段から剣を振り下ろす。剣技なんて習ったこともないが、真っ赤に染まった剣はケーファーの硬い殻に当たるとバターナイフのように溶かし斬る。ケーファーは真っ二つになり、動かなくなった。
『お見事でした!練習して、もっと早く発動できるようにしましょう!あと、体術や剣術も修得したほうがいいですね』
目の前には、五匹のケーファーの死骸が散乱している。メトでの初戦闘はMPKという不測の事態だったが、リヒトのチートスキルで勝利する事ができた。
「一体何をしたんです?あれは魔法ですか?詠唱もしないでどうしてあんなことが……」
アーシェが疑問を投げかけてくる。
「あぁ……。俺もよくわからない」
『詳しい説明は後です!素材と魔石を回収しましょう!迷宮に吸収される前に』
「素材と魔石を回収しよう。迷宮が吸収してしまうらしい」
「らしいですか……。いえ、わかりました。急ぎましょう」
俺達は倒したケーファーから魔石と殻を回収する。硬い殻は素材として売れるようだ。因みにミーニャが倒したケーファーは魔石が粉々になっていた。
終わる頃には俺達は緑色の体液まみれになっていた。
「それにしても、トレインMPKするなんてヒドイ奴らだな。怪我人が出たらどうするんだ?」
「トレイン?MPK?」
「あぁ。俺のいた世界の言葉だよ。魔物に絡まれて、そのまま他人に押しつける行為の事だ」
Monster Player Killの頭文字を取ってMPK。MMORPGではよくある行為で、トレインはモンスターを電車に例えている。通報されれば悪質な場合はアカウントの停止や削除の罰則がある野蛮な行為だ。ゲーム内では死んでもホームに帰るか蘇生で済まされるが、ここでは、死んだら終わりだ。
『よくありますよ。故意にというわけではない場合もありますが』
こいつ……。絶対迷宮に入った事があるな。
『……』
素材と魔石の回収が終わり、俺達は外に戻ることにした。




