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ゼルテの道具屋

 北区ギルドから出て、中央ギルドに向かい歩く。昼時なのか彼方此方から良い匂いが漂ってくる。高級住宅街を抜けると武器や防具を扱う店が増えてくるが、買い物にどのくらいの時間がかかるのかわからないため、先に昼食を摂ることにする。


 露店も多く並んでいたため、その中の一軒で買う事にする。


「いらっしゃい!」


 肝っ玉母さんのような女主人だ。扱っているのは一品だけのようで、薄いパンのような生地に肉スライスした肉や野菜を挟んで食べるタコスのような食べ物だ。


「四つください」


「あいよー。銅貨十二枚だよ」


 俺達三人とラウの分も注文する。銅貨三枚って事は、約三百円だ。かなり安い。


 タコスを受け取り、それぞれに手渡す。


「私まで良いんですか!?」


「あぁ。案内してもらってるしな。帰りに妹の分も買うといい」


 俺は妹の分としてラウに銅貨三枚を渡す。


「ありがとうございますぅ。実は最近、まともに食事も摂れなかったんですよぉ」


 ラウが感動して涙を流す。父親何やってんだよ……。


「ギルドに所属してるのは赤いキツネだけじゃないんだろ?他に収入はなかったのか?」


「北区のギルドには、赤いキツネのメンバー二十名の他に八十名程登録していますが、最近は仕事の依頼が減ってきてるのと、その……ギルドを通さず個人的に依頼を受けて

 いる人達がいるみたいで、こちらに収入がまわってこないんです……。迷宮に入れば、神殿から補助金が入ってくるんですが、北区のギルドでは赤いキツネしか迷宮に入っていませんし、お父さんはお金になる物も取ってこないし……、取ってきてもお酒に消えちゃうし……」


「あぁ。わかった。俺達も助けれるように頑張るから……その……元気出せよな?」


 北区のギルドは色々と危機的状況だったようだ。ラウ「はい!ありがとうございます!」と元気良く答える。まずは、父親をなんとかしたほうはいいんじゃないか?とも思うが……。


 購入したタコスを頬張りながら、目的の店を目指す。赤いソースをかけているが、それほど辛くなくトマトの味と具材が絶妙なマッチングだ。


「こちらの店になります」


 案内された店は、言われた通り高級店ではなく、店先に置かれた箱の中に剣や槍が傘のように刺さっている。中はというと、天井まで届きそうな棚に乱雑に商品が置いてある。客もいないが店員の姿も見えない。


「お婆ちゃんいますかー?」


 ラウが叫んでも返事がない。この店の主人はお婆さんのようだ。


「こんなんじゃ勝手に持って行っても気付かないんじゃないか?」


「欲しいものがあれば持って行ってもいいぞ?必ず見つけ出して倍の値段を請求してやるがな」


 背後から声がかかる。中から入り口を振り向くと小さな丸椅子に老婆が座っていた。


「なんじゃ、持っていかんのか?」


「持って行ったら倍の値段なんだろ?」


「折角隠れて持って行くのを待っておったのに残念じゃなぁ。それに、この程度の隠蔽魔法も見破れないとはお前さん達ひよっこ冒険者じゃな?」


 どうやら婆さんは魔法で姿を消していたようだ。タチがわるい。


「ゼルテさん。イタズラもほどほどにしてくださいね」


「フンッ!で、赤毛の娘がひよっこ連れて何の用じゃ」


「この方達は新しく冒険者になった方々です。迷宮攻略が目的なので、道具と装備を買いに来ました」


「ほー。ひよっこが迷宮ねぇ。ま、いいさ。金さえ払えばあたしにはその後は関係ないからね。好きなのを選びな」


 まるで商売する気がない。大丈夫なのかこの店……。


 まずは、装備を整えないといけない。


『ミツハルの装備は今のままで十分ですよ。まだまだ使えるはずです』


 そうなのか。伝説の武器とか、最強の剣を造るとか興味があったんだがな。


『良い物を持っても、使えなければナマクラなんです。身体は僕のですが、使うのはミツハルなんですから、まずは剣術や魔法の使い方を覚えてください』


「俺の装備はこのままでいい。アーシェはどうだ?」


「私も特に買い換える必要はないですね」


「じゃぁ、ミーニャの装備だけだな。どんなのがいいんだ?」


 ミーニャは頭にハテナマークがついているため、ラウにアドバイスを求める。


「そうですねぇ。ミーニャちゃんは敏捷が高めでしたし、属性も風なので、軽めの装備で武器は短剣やレイピアなんかがいいですかねー」


 そう言われ、棚の商品を見て回る。


「こういうのか?」


 俺は棚に置いてあった一振りのレイピアを手に取る。


「フンッ!全然じゃな。そんな長い武器ちびっ子に使えるわけがなかろう」


 婆さんに言われてみると確かに120センチ程のミーニャには長すぎる。婆さんは「しょうがないのぉ。ひよっこが」と言うと店のあちこちから装備らしき物を集めてくる。


「これをつけてみな」


 婆さんが持ってきた装備は埃をかぶっていたが、綺麗な装飾が施された小さな胸当てだ。それと、短めのスカート、鎧下のシャツやらブーツ。小振りのククリナイフを二本とショートボウを用意してきた。


 アーシェと婆さんに手伝ってもらい、奥の部屋で着替える。


 戻ってきたミーニャの防具はオーダーメイドのようにぴったりとフィットしていた。


『あれは、きっとエルフが造った防具ですよ。エルフはミスリル以外の金属をを好まないので、おそらくはミスリル製でしょう』


「高いのか?」


『えぇ。ミスリル自体も高いですからね。服もエルフ製だとすると、金貨数十枚はするかと』


 婆さんはブツブツと文句を言いながらも必要なアイテムを揃えてくれた。


 カンテラのような物、長めのロープ、その他何に使うのかわからない物まで……。


『使った事のある物ばかりなので、大丈夫ですよ』


 ウンチク魔王のリヒトがいるから大丈夫だろう。


「全部で幾らになる?」


「そうじゃなぁ。金貨三十枚じゃ」


「「「さんじゅう!?」」」


 他の三人が驚くが、リヒトから高いだろうと聞いているので、俺だけは驚かない。


「そうか……。これしか持ってないんだが……」


 俺は、中央ギルドから貰ったミーニャの分金貨六枚とギルドで換金した銀貨四枚を婆さんに見せる。


「フンッ!つまらない男だねぇ」


 と言いながら、五枚の金貨を取る。


「あんた、三十枚だよ!?もっと驚いたらどうだい!?」


 婆さんはガッカリしたように言い放つ。


「ミーニャの装備はミスリル製でエルフが造ったんだろ?

 金貨数十枚はくだらない」


 リヒトのウンチクをそのまま引用して、できる男を演出する。


「フンッ!本当につまらない男だねぇ。あんたらみたいなひよっこが適当な装備で迷宮に行って死ぬのが大嫌いなんだ。エルフ製の装備は属性防御が高いから、早々死ぬことはないさ。慣れるまでは後ろで矢でも撃ってるんだよ!いいね!?」


「はい!ありがとうございます!」


 ミーニャが元気よく答える。


「代金が足りないんだが?金貨一枚残ってるし……」


「フンッ!身ぐるみ剥いで野たれ死なれたら夢見が悪いよ!ツケにしといてやるから絶対に完済するんだよ!もし払い終わる前に死んだりしたら、あの世まで追いかけて取り立てするからね!」


「あぁ。わかった。ありがとう婆さん」


「婆さんなんて失礼だねぇ。あたしゃゼルテだよ。あんたらの名前は!?」


「ミツハル・ヒカゲ」


「アーシェ……」


「ミーニャ・トルバ!」


「ミツハル!アーシェ!ミーニャ!死ぬんじゃないよ!」


「「「はい!」」」

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