赤いキツネと
「「ごめんなさい!」」
赤毛の少女達が深々と頭を下げる。
「ほら!お父さんも謝って!」
右多めのマウに言われる。
「あぁ……。悪かったな。謝ったから登録料くれよ」
「お父さんはもういいです!奥に引っ込んでいてください!」
左多めのラウに怒られる。
「ちっ!わかったよ!黙ってりゃいいんだろ!ギルド長は俺だってのによ!つめてぇ娘達だな」
大男は奥には引っこまず、近くのイスに座っている酔っ払いを投げ飛ばし、空いたイスに座る。
「凄い方ですね……」
「怖いよ……」
アーシェの顔は引き攣り、ミーニャはビビってしまった。
「今までのは、ちょっとした冗談です!テヘ」
とはマウ。
「よく見たら、あの人はギルド長じゃなかったみたいです!」
存在すら否定するラウ。
「「お願いです!北区のギルドに登録してください!」」
二人同時に頭を下げる。
「俺達は冒険者登録して、迷宮に行かなきゃならないんだ。金儲けとか、お遊びじゃなくて本気で迷宮を攻略しなくちゃならない。だから、ちゃんとしたギルドに入りたい」
「うちがちゃんとしてねぇとでも言いてぇのかよ」
自称ギルド長が鋭い視線で俺を射抜く。さっきまでのふざけた態度は消えていた。
「気を悪くしたなら謝る。だが、この状況をみて、まとまな仕事をしているとは思えない」
「見た目で判断すんじゃねぇよ。だから簡単に投げ飛ばされるんだよ。めんどくせぇ、マウ、説明してやれ」
「皆様がこの状況を見て、開店休業状態と思われるのはごもっともです。今、このギルドで酔い潰れている方々は朝から酔い潰れているのではなく、昨晩遅くに一ヶ月にも及ぶ迷宮攻略から帰って来て、昨晩から酔い潰れています。北区ギルド最強にして、現在のメトでは最下層記録となる四八層まで攻略しているクラン『赤いキツネ』のメンバーです」
え?カップ麺?
「へぇ。それってすごいの?」
「へぇ……って!中央ギルドの百人からなるクランでも四十層までしか攻略していないんですよ!?『赤いキツネ』はメトの冒険者で知らない人がいないくらいのクランなんですよ!?」
「いや、すまない。悪気はないんだ。来たばかりで詳しくわからなくてな」
緑のたぬきの事が頭をよぎった時、アーシェが言う。
「私は聞いた事があります。アイテムや魔石には目もくれずひたすらに攻略だけを目指すクランだと……」
ラウが呆れて話す。
「そうなんです。だからウチのギルドは貧乏なんです……」
「おいおい。攻略は男のロマンだろ!?いちいちアイテムなんか拾ってたら先に進むのに邪魔になるじゃねぇか」
「転移魔法で戻れないのですか?」
アーシェが疑問を口にする。転移魔法なんて便利な魔法があるのか。
「お嬢ちゃん。あいにくとウチのクランには転移魔法なんて、卑怯な支援魔法を使うヤツはいねぇ。攻撃するのに役にたたねぇ支援魔法なんざいらねぇ。男は黙って前進あるのみだ!」
俺が便利と思った魔法は自称ギルド長には役にたたないらしい。
「確かに光や闇属性の魔法は直接攻撃するのには向いていませんかもしれませんが、仲間の生存率を上げるには重要な魔法です。他人を護ることを軽視している人達には用はありません。ミツハル、ミーニャ行きましょうか。ゲイルさんのような人はいないようです。別のギルドに登録しましょう」
アーシェが冷めた口調で言い放ち、出口に向かう。
「ちょっと待ちな。お嬢ちゃん」
「何でしょうか?」
アーシェが振り向き自称ギルド長と対峙する。
「ゲイルってのはぁ、ウチのギルドのゲイルのことか?」
「えぇ。こちらのギルドに所属していたゲイルさんです」
「していた?今だって所属してるぜ?あいつがどうかしたのか?」
「二日前にゴブリンの集団に襲われ、亡くなりました」
アーシェは俯いて答える。
「おいおい。それはねぇって。迷宮には潜らなくなったが、あいつはランク6の冒険者だぜ?ゴブリンごときにやられるはずがねぇ。そりゃ、何かの間違いだぜ」
自称ギルド長は全く信じていない様子で笑っている。冒険者にもランクがあるのか……。
「いや、間違いない。俺達が最期を看取った。本人から家族へとこれを預かっている」
そう言って俺はゲイルから預かった袋を見せる。自称ギルド長はそれを手に取りマジマジと見る。
「こりゃぁ、ゲイルのもんだ。クランマークも入ってる。嘘だろ……。ラウ!ゲイルはどこに行ってた!?」
ラウは分厚い台帳を見て答える。
「ゲイルさんはハンスさんと一緒に、八日前から北区のドレス商会の護衛に行っています。昨日到着の予定でしたが、連絡はないですね……」
「ハンス?誰だそりゃ?」
「お父さん達が迷宮に行ってる間に中央ギルドから移籍してきたランク5の冒険者です。移籍したのは二週間前になります」
「俺達はその事を中央ギルドに報告して、ゲイルさんが北区のギルドに所属しているのを聞いたからここに来たんだ。家族に伝えなきゃいけないこともあるからな……」
「マジかよ……。で、そのハンスってやつはどうなったんだ?商団は?」
「ハンスが誰かはわからなかった。話せたのはゲイルさんだけで、商団はここにいるミーニャを残して全滅したんだ」
「すまねぇ。ホントにすまねぇ!ゲイルにもお前等にも……。ホントにすまねぇ。俺はなんにも知らねぇで恥ずかしいマネを!」
ガルドは床に頭を打ちつけ何度も謝る。
「ガルドさん。顔を上げてください。もういいですから……。ガルドさんがギルドの冒険者の事を大事に思っているのがわかりました」
アーシェがなだめるように声をかけ、手を差し伸べる。
アーシェの手を取るガルドは泣いていた。




