メトへ向けて 「悲しみの向こうに」
アーシェは倒れている人達に近づき、声をかけている。しかし、誰からも返事はない。全滅ではないかと思ったが、馬車の後ろ側にまわると、微かな息づかいが聞こえてきた。最後まで戦っていた冒険者風の男だ。
「おい!大丈夫か!?」
「アンタ達が……ゴブゥ……倒してくれた……のか……」
男は肺を刺されたのか、口から血を吐き出しながら答えようとする。
「もういい、喋るな!神官がいるから、ちょっと待ってろ。アーシェ!こっちに来てくれ!まだ生きている!」
すぐにアーシェがやってくる。アーシェは男に手をかざし詠唱を始める。
「お願い!大地よ!光よ!慈悲の輝きでこの者の傷を癒したまえ!フルサークル!」
男が光に包まれる。
『おぉ。フルサークルとは……。彼女は戦闘能力も高いですが、神聖魔法の使い手としても一流ですね』
アーシェの魔法により男の傷は完全に塞がり出血も止まる。
「ありが……とう。だいぶ楽に……なった。」
「無理をするな。傷は塞がったが顔色が悪い。だいぶ血を失ったんだろう」
「いや……。俺はもぅ長くありません……。二人にお願いがあります」
男は言うと、腰のポーチに手を伸ばすが、手が動かず上手くポーチの蓋を開くことができない。
「あれっ?おかしぃなぁ……」
無理してつくり笑いを浮かべるが、ほとんどの血液を失ってるのだ。痺れて指は動かないはずだ。
「このポーチの中か?とってやるよ」
俺は、男のポーチの蓋を開け、中から袋を取り出す。ずっしりと重い。
「あぁ……。ありがとう……。それをメトの冒険者長屋にいるエレン・ビネガーという女性に届けて欲しい。中には金が入っている。そして、伝えて欲しい。ルイスをよろしくと……。二人を愛していると……」
男は瀕死とは思えないくらいの力で俺の手を握り懇願する。
「あぁ……。わかった。必ず届けて伝える。お前が逃げずに勇敢に戦った事も。名前は?」
「ゲイル……。ゲイル・ビネガーだ。痛みも消えて静かに逝けるなんて俺は幸せ者だ……。他の冒険者に恨まれちまうな……ハハッ……」
ゲイルは笑い、目を開けたまま動かなくなった。
「起きてください!傷は治ったんですよ!どうしてですか!?」
ゲイルを揺さぶるアーシェを止め、ゲイルの瞼を閉じてやる。
「もう終わったんだ。傷は治っても失った命は戻らないんだ」
「そんな!なんで!誰も救えない!私は何もできなかった!」
アーシェは涙を流し叫ぶ。
「アーシェは十分やったよ。見ろよ、こいつの安らかな顔を……。お前が救ってやったんだ」
「うわぁぁぁん。ヒッ、ヒゥ、ごめんなさい。ごめんなさい」
日が暮れてきたがアーシェは泣き止まず、俺は他に生存者がいないか見てまわった。
「おかぁ……さん」
アーシェはゲイルの側で泣いていて、動けずにいる。
「……おかぁさん……」
『今、声が聞こえましたよ?』




