メトに向けて 「初めての魔法」
動かなくなったゴブリンから離れ、アーシェの隣に立つ。先程よりは出血量が減ったように思える。
「大丈夫か?」
「はい。ヒールで傷口はだいぶ塞がりました。ミツハルのおかげです。ありがとう」
チラリと俺のほうを見て、素直に礼を言うアーシェにドキッとする。
「お、おぅ。すぐに動けなくてわるかった」
「いえ、初めての戦闘なのに見直しました」
しかし、依然としてゴブリンの数は十を超えている。一気に来られたら流石に耐えきれないだろう。向こうも警戒しているのかこちらの様子を窺っているようだ。さっきまで戦闘していたはずの用心棒らしき人影も見えなくなった。やられたのか?
「さて、どうしたものか……アーシェ、やれるか?」
「戦闘はできますが、一気にこの数を相手にするのは厳しいかもしれませんね」
『ミツハル。魔法を使ってください』
「魔法を使えるのか?呪文とかどうすればいいんだ?俺は全然わからないぞ!」
『呪文はいりません。右手をゴブリン達に向けて身体の中にある魔石の魔力を感じるんです。自分の魔力で敵がどうなるかイメージしてください。手に魔力が集まったら敵に向かって魔力を放出するだけです』
「イメージ……魔力を感じる」
俺は“左手”をゴブリン達に向け集中する。手のひらが熱くなり、見えない何かが腕に纏わりつく感じがする。
狙うのはゴブリンだけだ。人には当てない。
『ミツハル!利き腕以外では上手く魔法は撃てな……』
「俺は左利きだ!!」
リヒトの声を遮り、俺は魔力が込められた左手を右の腰まで引きゴブリン達の首を狙って居合抜きのように一気に引き抜いた。
込められた魔力が失われたのを感じる。イメージはゴブリンの頭だけを吹き飛ばすことだ。抜き放った左手から魔力の斬撃が飛び出す。
今度は狙い通りにゴブリン達の首元へ飛んでいく。魔力の刃は十匹のゴブリンの首を吹き飛ばし、後ろの馬車までも切断した。
首からドス黒い血を噴き出してゴブリン達はその場に崩れる。
一匹だけ背の低いゴブリンが難を逃れたが、戦意を喪失したのか、キィキィ叫びながら走り出す。
『仲間を呼ばれると面倒な事になります!さっきのナイフで仕留めてください』
リヒトの指示通り、先程投げたナイフをゴブリンから抜き、逃げたゴブリンへと投擲する。
投げたナイフはやはりクルクルと勢いなく飛んでいくが、空中で勢いを増し、ゴブリンの背中に突き刺さる。
同時に、ナイフが刺さったゴブリンが突如として火だるまになる。火を消そうと地面を転げまわるが、火の勢いは鎮まることなく、やがてゴブリンは動かなくなった。
「え?このナイフってあんなこともできるの?怖すぎ」
『あのナイフにそんな力はありませんよ。誰かが火の魔法を使ったのでしょう。しかも上位魔法の』
「そうなのか?そんな凄い奴がいるならこんな状況にならなかったんじゃないのかよ……」
馬車の周りにはゴブリンだけではなく、商人や子供の死体も同じくらいの数だけ転がっている。
「生き残ってる人を探さないとな……」
すでにアーシェは倒れている人に声を掛けていた。




