旅のお供に
「小さいものしかありませんが、これでよかったら」
俺はアーシェに渡された手鏡を覗く。
「若くなってる……」
鏡に映る顔は確かに自分の顔だが、高校生の時の顔じゃないか。言われた通りに眼も紅い。
「どうしたんじゃ?顔に何かあったのかの?」
「むこうの世界では俺は黒髪黒眼で、年相応だったはずだが、明らかに若くなってるな。別に驚きはしないが」
ここは異世界だ。年齢や少しくらいの容姿の変更はあって当たり前だし、何故か見慣れた顔のような気がする。オークやらゴブリンじゃなくてよかった。
「さっきフォーリアがどうとか言っていたが、こういう見た目のヤツらがいるのか?」
「うむ。このアルステン王国の最北端で海に面している地方がフォーリアなんじゃが、大体の人々が黒髪紅眼じゃ。火の魔法に長けた物が多くてのぉ、独自の魔法を編み出しておるという噂じゃ」
何それ。カッコいい……。紅眼が疼いてきた。気がするだけだが……
「まぁいいや。とりあえずメトとかいう街にいって迷宮攻略すればいいだけだろ。じゃぁ、世話になったな」
「若いっていいのぉ。じゃが、道中は魔物も出よるし、迷宮に入るには手続きも必要じゃぞ?」
「行けば何とかなるかなぁ……っと。マズイか?」
そういえば何にも考えてなかった。チートスキルでガッポリ稼げて、魔物とやらもサクサク倒せると思ってた。俺にはチートスキルはないのかな……
「うむ。迷宮以外にはそれほど強い魔物は出ないのじゃが、道案内くらいはいたほうがいいじゃろう。それに他の世界から来たことは他言してはならぬのじゃ」
「異世界人なのは隠したほうがいいのか?どっちにしろ信じてくれないと思うが」
「もちろん奇異な目で見られるというのもある。じゃが、一番は命を狙われる危険があるということじゃ」
「命を狙われる?何でだ?」
「さっきも言ったが、400年前に現れた闇の魔術師は異なる世界から来たかもしれぬという事を一部の者は知っておるのじゃ。また厄災を起こされる前に始末しようとする輩もいるかも知れん」
随分と恵まれないな……。闇の魔術師さん何してくれてんのよ。
「これもルグ様の御導きじゃろうて……共に冒険者となろうではないか」
え?じじいついてくるの?
「アーシェが……」
「はい!?私がですか!?」
「だってワシ歳だし足腰痛いもん。若者を教会から放り出して、問題でも起きたら怒られるのワシじゃし」
じじいが子供みたいに駄々をこねる。少女と二人旅とかアウトじゃねーか?
「セーフじゃ!」
またかよ!読みすぎだろ。顔に出てるのか?
「なんの話をしてるんですか!私は嫌です。誰ともわからない男の方と過ごすなんて……絶対に嫌です!」
「いいのかのぉ?そんな事言って。実家に言いつけてもいいんじゃぞ?すぐに連れ戻されるんじゃないかの?本当にいいのかの?」
じじいがいやらしい顔をしている。あくどいな……
「そ、それはやめてください……。家には絶対に帰りません」
おいおい、泣きそうになってるじゃねーか。
「それは冗談として、お主もまだ若い。一度冒険者を経験して、自分を磨くのも悪くなかろう。ミッちゃんが闇の魔術師のようにならないよう見張るのもルグ教の神官としての役目じゃ」
「はぁ……わかりました。ルグ様の名前を出すなんて司祭様はズルいですよ。では、ミツハル様。見張りとしてしばらくお供いたします。くれぐれも妙な事は考えないように!」
「あぁ。しばらくの間よろしく頼む。それと様付けは気持ち悪いからやめてくれ。お前のご主人様じゃないんだから」
「わかりました。では、ミツハル。私の事もお前ではなくアーシェとお呼びください」
「あぁ。わかった」
そんなやり取りをしてるとじじいが満足気に頷いている。とんでもないじじいだ。
「若いっていいのぉ」




