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PACE4-1→雪花

†行方†

    

    

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

君の隣にいて幸せ

君の近くにいて幸せ

願わくば

君が幸せなように

僕の隣で幸せなように

      

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

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「……貴様なんざ、俺は知らん。」

   

「知らん。じゃないわよ。あたしのコト忘れちゃったの?ユナよ、ユナ。あんたの幼なじみっ!」

   

道行く人に知り合い発言をされた師匠の表情は見事に停止していた。思考を巡らすように宙に視線をめぐらし、急にあぁ!と手を打つ。

   

「あぁ、よく言えば活発、悪く言えばうるさいあのユナか。悪い、女は腐るほど抱いたから記憶になかった。」

   

毒舌炸裂。ユナと名乗った女の人はにこりと笑った。

   

「口の悪さはご健在で何よりだわ。……でも誰かと勘違いしてるんじゃなくて?女の敵の鈴欠さん?」

   

「何いってるんだ?俺は美人の味方なだけだ。あとは目に入らないから敵にもなりえない。あぁユナどこだ?俺には見えない。」

   

ユナさんはにっこり笑ってもっていた袋を師匠の顔面に叩きつけようとする。片手でそれを受けとめた師匠は、ふっと笑った。

    

「あぁそこか、まったく見えなかった。」

    

「最悪っ!」

    

「何をいまさら。」

    

苦笑した師匠はひょいと袋を取り上げる。

    

「何のつもり?」

    

「純粋な親切だ。」

    

「ありえない、あぁ解った。家の場所忘れたのね。綺麗にしてあるから安心して。」

    

師匠は満足したように口の端を釣り上げると、ため息をつく。ユナさんはぴくりと眉をあげた。

    

「幸せ逃げるわよ!……ってあれ…?その子、どうしたの?」

    

今まで気付かれなかった僕に、視線が向く。師匠が無表情のうえに困惑を乗せた。

    

「ぇー…あぁこいつは……うん、弥だ。」

    

苦し紛れの回答に、ユナさんはなぜか納得した。

    

「また拾い癖が出たの?猫に犬に。栗鼠まで拾ったんじゃなかったかしら。」

    

ぴくっと師匠が眉をあげた。事実かなぁと見上げると、瞬時に目をそらされる。どうやら本当のようだ。言い訳のように、怪我してたんだから仕方ないだろ。と言う。柄じゃない。

    

「でもあんたってショタコンだったのね、こんな小さい男の子になにしてるの?可哀相に、坊やあたしのとこにおいで?」

   

「ぇっ…。」

    

戸惑って目を見開くと、師匠の眉が凶悪に跳ね上がった。

    

「師匠?」

    

「貴様は口のきき方が解っていないようだな。……来い。」

    

ぐぃっとユナさんを引っ張った師匠は、小声で何かを説明している。僕と目があうとちょっと困ったように苦笑した。

    

「あんた……今までどこにいたの?」

    

「あぁ?……ここより生活水準が高いところ。冷蔵庫知ってるか。」

     

ユナさんのきょとんとした顔。師匠はため息をついてつぶやいた。

     

「暖房器具はせめてストーブであってほしいな…。」

    

期待は裏切られるもの。結局今回の任務は、ストーブも冷蔵庫も洗濯機もない世界で行なわれるみたいだ。連れて来てもらった家の暖房器具は暖炉だけ。

    

「……箪笥…生きてかえったら絶対に殺してやる。」

   

師匠の宣言、さてさてこれからどうなることやら…。

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

   

師匠の表情が、愛想笑いのままぴたりと停止している。

さっきから口にだしたことと言えば、そうか、と、あぁ、と。

     

「あんたって何でそんなトロいの!男でしょっ!」

     

「え、え、あ、ごめんよ、でっでも僕雪のうえ走るのってに、苦手で…。」

     

「今までここに住んどいて何をいってるのあんたはっ!」

     

「ご、ごめんよ!」

    

怒ってる人、ユナさん

怒られてる人、レーニーさん

ちょっとひいてる人、僕と師匠。

二人は幼なじみ。ようするに、くっつくはずの二人。

    

「……無茶言うな…。」

    

本音がこぼれる。疲れたようにため息をついた師匠は、見兼ねたように机をたたいた。

   

「そのへんにしておけ。見苦しい。」

     

「だってっ!」

    

「黙れ。」

    

地を這うような低い声に、ユナさんが黙る。師匠はため息をつくと、煙草をくわえた。

    

「……久しぶりだな、レーニー。」

    

「あ、うん、久しぶりだね。何年ぶり?」

   

「さぁな……。片思いは何年になった?」

    

レーニーさんの色白の頬が赤くなる。師匠は慣れた手つきで煙草に火をつけ、再びため息をついた。

    

「前途多難だな……頭が痛い。」

    

舞う煙。師匠から煙草を奪ったユナさんは、きっと師匠をにらむ。

    

「室内禁煙!」

    

「……。知るか。」

   

「ルールはまもる!当たり前でしょっ!」

    

「……レーニー、どうにかしてくれ。」

    

話をふられたレーニーさんは、困ったように、そういわれても…と呟いた。琥珀色の髪が気弱にゆれる。やさしそうな人だ。

    

「あーもーいらいらするっ!ちょっと来なさい!」

    

ひっぱり立たされたのは、何故か師匠。師匠も驚いているらしく、何故俺が。とか言ってる。ちょっとおもしろい。

     

「あたし達買い物行ってくるから、あんたと弥くんは留守番ね。じゃ。」

   

「おい!俺は行くなんて一言も言ってないだろ……聞いてるのか、貴様。」

   

「聞こえないわ。」

   

「レーニー!こいつ止めろ…!」

    

ばたん。

無常に玄関のドアが閉まる音。寒いのが嫌いな師匠は哀れ、雪の中へ…。

   

「……。」

    

「………。」

   

取り残された僕らは静かに苦笑。これから一体どうなるんだか…。

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

「おい、いきなり何のつもりだ。」

    

ぐいぐいとコートをひっぱる女は、さっきから無言で歩いている。こっちは慣れない雪道で、滑らないよう細心の注意を払っていることには気付いていないらしい。

顔としては中の上、性格は…中の下。プラマイ0で中格の、そこらにごろごろ転がってる女と診断。興味が失せた。普通の女にはもう飽きているのだ。

ため息をついて煙草をくわえる、マッチをすった音に、女は振り向いた。

    

「あたし嫌い。」

    

「……は?」

    

言葉が漠然としすぎてよくわからない。問い返すと、同じ言葉が返ってきた。まるで子供で、深くため息をつく。

     

「それ、ちょーだい。」

     

「あ?」

     

「あんたの今くわえてるの。」

     

「吸えるのか?」

     

問うと、無言で煙草をとられた。仕方なく見守っていると盛大にむせる。

     

「何がしたいんだ…。」

     

ため息をついてソレを奪い返すと、女は潤んだ瞳でこちらを見上げてきた。50パーセント、それなりに色っぽい光景だ。童顔なのが惜しいところだが。

     

「こんなまずいのの、どこがいいの?」

     

「子供みたいな質問だな。」

     

「失礼しちゃうっ!」

     

言い捨ててすたすた歩いていく彼女を静かに見守ってみる。前にもこんな光景があった気がする。思い出す前に振り切って、煙を吐き出した。どうも、うまく行かない。

     

「ちょっと!」

     

「なんだよ…。」

     

「見下ろさないでよ。」

     

何を言いだすかと思えば…。まるっきり子供のような発言に苦笑して、無理いうな、とため息をつく。

これを恋愛対象としてみることができるレーニーを尊敬しよう、俺には無理だ。

   

「ちぢんで。」

    

「目茶苦茶なこというな、駄々こねるなよ。」

   

「見下ろされるのは不快……ゃっ!」

   

ずるっと、女がバランスを崩す。仰向けに突っ込んできた女をあわてて支えるが、支え切れずに尻をつく。雪が積もってるはずなのにそれなりに痛い。反則だ。

   

「いったぁ〜…ちょっと!ちゃんと支えてよね!」

   

「…あぁ悪かったな。さっさと立て。」

   

言い返すと、女はさっと目を逸らした。それから小さな声で捻ったみたぃ…と呟く。

あぁもう何で俺がこんなことをしなければならないんだ。ため息をついて立ち上がる、見上げてくる女を拾いあげて肩に担ぐ。

    

「ちょっと!何するのよ!」

    

直ぐ様悲鳴。道行く奴らが不審な顔をして振り向いていくのを見返して、静かにため息をついた。もしかしなくても、これは不審者扱いされているんじゃないのか。みられてるし、噂されてるし。なんだ、俺は変質者か。

    

「降ろしなさいよ、変態!」

    

「疑われる発言をするな馬鹿者。貴様歩けないだろうが。」

    

「だけどっ!」

     

「騒ぐな、誘拐かと思われたら困るだろ!」

     

「きゃーっ!助けてぇ!」

      

「………。」

     

向けられる冷たい視線。これはあれか、俺が犯罪者とか、そう言う目か。

     

「……少し黙ってろ。」

     

「!」

    

ため息をついて首に手刀を振り下ろした。静かになる空気と、冷たくなる視線。

    

「あの男です!あの男がユナをっ!」

    

「…来たか、勘違い…。」

     

思わず本音が漏れた俺を、せめる奴はいないはずだ。…司令官をのぞいて。

     

「そこの白髪の男!とまれ!」

    

「あ?……お前ら今なんて言った。」

    

只今、鈴欠さんは睡眠不足と度重なる勘違いのストレスでいつもより多めにキレやすくなっております。

    

「ユナを離せ!」

    

「うるさい黙れ勘違いするな。」

    

くってかかって来たのは、20程の男。背は同等、若しくは向こうが少し小さい。

    

「いいから離せ!」

     

「離したら落ちるだろうが、この女きゃんきゃんうるさいし。」

     

あぁまったく以て遺憾だ。集まる冷たい視線。これはなんだ、もしかして、俺が悪いコトしてるって視線か。まったく、親切なんてするもんじゃない。ほっといて帰ればよかった。

後悔先に立たず。本当だ。はじめに気付いた奴を誉め讃えて顔面を殴り飛ばしてやりたい。あぁ腹が立つ。今すぐ誰か殴ってやらなきゃ気が済まない。

    

「ユナを離せ犯罪者!」

     

「誰が犯罪者だ……誰が。」

    

これだから人間は嫌いなんだ。男は決心するように息を吐くと、果敢に殴りかかってきた。膝をおるとひゅんっと風を切る音、立ち上がりつつ後ろに下がると、顔面すれすれに拳が通り過ぎる。

相手は人間にしては鍛えてる。それに足場が悪いなか、俺は女一人のハンデ、ちょっとひど過ぎやしないか。視線も冷たいし。

     

「……かっ…鈴欠!ユナ!」

    

後ろからかかった声に思わず振り向く。あぁレーニーだ。気付くと同時に、ずっ…と滑る足。あぁまずいかも知れない。そう思ったときは遅くて、レーニーが叫ぶ。

    

「鈴欠避けて!」

    

がっ…!

無理を言うな。右頬にしっかりはいる拳。バランスを崩しかけたところを追い付いたレーニーに支えられて、どうにか倒れるのだけ免れる。

    

「…って…。」

    

軽く脳震盪を起こしてるのか、くらくらする。レーニーにユナを預けて座り込むと、殴った男はきょとんとした。

     

「へ……レーニー…知り合い…?」

    

「知り合いも何も……幼なじみが久しぶりに帰ってきたんだよ……大丈夫、鈴欠?」

    

冷たい視線が哀れみの視線へ、ため息をついて立ち上がると視界がゆれた。再びしゃがみこむ。

    

「う、嘘……あ、あんた大丈夫かっ?!」

    

いまさら言われても全然嬉しくない。とりあえずにっこり笑って言ってやった。

    

「無実の奴を殴った気分はどうだ?勘違い野郎。」

    

本当、ついてない。

     

     

     

     

     

     

     

     

     

あぁ降り積もる雪にたたずむ、君は花。

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