PACE2-4→わになみだ5
†関係†
あぁ神様。
私はいつ間違えたのでしょう。
いつ道に迷ったのでしょう。
いつ踏み外したのでしょう。
私はもう
貴方のもとへいけません。
*******
『どうした?』
流れ出した嫌いな声に鈴欠は嫌そうな顔をした。その後ため息をつき、ぼそぼそと話し出す。
「これから仕事をしようと思うが。」
『ほぉ?遅いな、どうした?』
「夜中じゃないと出来ない。」
『女か?得意分野だからな。』
「黙れ箪笥。」
『…なんで知ってるんだお前は!忘れたんじゃないのか?!』
「忘れてないさ。いや、忘れられないと言うか。箪笥なんて馬鹿みたいな名前…はっ。」
馬鹿にした笑いをした鈴欠に電話の向こう側は沈黙した。どうやら頭に来たらしい。
『お前の給料は俺が左右できるんだぞ?』
「…脅すなよ。」
『事実だ。あぁそうだ、鈴欠。お前、失敗するなよ?』
司令官の言葉に鈴欠は嫌そうな顔をした。当たり前だろうとでも言うようにため息をつく。
「じゃぁ、行ってくる。」
『お、ぉぃ?』
端末をベッドに投げた鈴欠は上着を取った。それはすぐに振動を始めたが、鈴欠は目を細めただけだった。
「…まぁいいか。」
扉が開いて閉じる。端末はまだ静かに振動していた。
★
私は今何をしようとしているの?
彼は言った。
「俺の願いを聞いてくれる?」
私は頷いた。頷いて、なんでも言ってと言った。
「じゃぁ、サラどうにかしてくれないか?」
そして私は此処にいるの。片手には銃を、冷たい冷たい凶器を持って。
だって、私はあの人がいなくちゃ嫌なのよ。あの人が一時でも幸せでない時があるのは我慢ならないのよ。だから私はここにいるの。リーザ?大丈夫か?緊張する?」
彼の言葉が心地良い。低くてやわらかい声。
「ええ、大丈夫。貴方のためだもの。」
「ありがと。」
「ねぇ、サラは本当にくるの?」
「くるよ。よんだから。」
「本当に?」
「うん。」
三日月に照らされる礼拝堂は綺麗で暗い。パイプオルガンが勝手になりそう。キリスト像が動きそう。なんだか恐くて、彼に擦り寄った。
「どうした?ぁ、わかった。恐いのか。」
何故解るんだろう。ほほえんだ彼が、ふと扉をみた。
ぎちぎちと、扉が開く。お気に入りの黒いドレスを来たサラがそこにいた。
「神父様待ったかしら?……あら?リーザ…?」
どうしてここにいるの?という声。解らないのかしら?私は静かに銃を上げた。
思ったより重いのね、腕が震える。
「どうした?あぁもしかして重い?仕方ないなぁ。手伝ってあげるよ。」
後ろから手がまわる。銃口はゆっくりとサラの心臓へむいた。
「な、どういうこと?どう…。」
「わからない?君はつまらないということだ。とるにたらないモノ。そして自分の夫さえ信じられない小物。わかるか?君の価値はない。むしろ、マイナスだ。」
「ど、どうして?!どうしてリーザ!」
あぁ、いまさら、本当にいまさらだわ。
「あたしたち仲良かったでしょう?!」
「でも貴女はクルスと結婚したじゃない。」
「…!!それ、それは………。」
あぁやっぱりね。
知っていたのよこの女は。
みんな知っていたのよ。
あぁでもちょっと待って、私何をしようとしてるの?私もしかしていけないことをしようとしてるのかしら。
あぁもう解らないわ。誰か助けて…。
「ねぇリーザ!!!」
「どうしたリーザ、何をためらっている?」
あぁ彼の声。
まただわ、思考が鈍る。
「リーザ、君は何も悪くないんだよ。あの女はクルスを盗った本人じゃないか。それなのにあいつは…ここに来た。クルスを本当に愛してないくせに君から盗ったんだよ。」
「それは………っ!」
「あとリーザ。俺の願いかなえてくれないの?」
決定打だったの。
彼は耳元でささやく。
「…大丈夫君は悪くない。」
「り………………!!!」
銃声は二回。心臓と額を貫いて、頬に生暖かいものが飛んできた。
「…。」
「どうしたのリーザ。」
「私、がんばった?」
「うん?」
「私、ちゃんとやったわ、ねぇ幸せ?」
「あぁ、ありがとリーザ。」
幸せだよ。そう言った彼は私を長椅子に横たえた。
「血で汚れてしまったからね、綺麗にしようか。」
「こんなところで?」
「場所なんか関係ないだろ?」
変なところを気にするな。そういわれて、そうなのかもしれないとか思ってしまった。
ダメなの。彼といると思考が鈍るの。何を考えているか、解らなくなるの。
「ねぇ。」
「ん?」
「月が綺麗だわ。」
「…そうだな。」
床に倒れたサラはもう見えない目で月をみていた。
「じゃぁ綺麗にしようか。」
目の前の彼はそういって笑う。月のように輝く髪を揺らして。
あぁ神様。私は…。
*****+*****
「汚い。」
部屋に入ってくるなりそう呟いて血のついたシャツを基に押しつけた。
「それ、処分しろ。」
「だが…。」
「手っ取り早く燃やせ。…気持ち悪い。風呂入ってくる。」
銀の髪に付いた血が乾いてぱりりと音を立てる。それが鈴欠にはひどく耳障りに感じて舌打ちをした。バスルームの扉を乱暴にあけて中へと入る。
「…ぁれ…?師匠、帰ってきたんですか…?」
寝呆けた弥の声に、正直すこし驚いた基は素早くシャツをかくして振り向く。
窓側のベッドで目を擦っている少年は年齢相応に可愛らしい顔をしていた。起きているときは何かと痛いことをきいてくるが寝起きは無害らしい。
「…お風呂ですか?」
「あぁ、すまない起こしてしまったか。」
時計は12時を回っているにもかかわらず、弥は首を横に振った。
「大丈夫…うとうとしてただけですから………師匠、荒れてますね…。」
シャワー音に眉を潜めた弥は呟く。その言葉に軽く頷いた基はため息をついた。
「…師匠当たりませんでした…?」
「…あぁ、平気だ。」
ぎちっという音がして扉が開いた。ワイシャツを羽織っただけの鈴欠が出てきて弥に気づく。少しだけ気まずそうにしたあと、起こしたかと呟いた。
「ちょっと目が覚めただけです。師匠は最近寝てないみたいですけど。」
「…まぁ仕事が終わるまでは止むを得ないからな。終わったら眠れるさ。いいから寝ろ、お前は子供なんだから。」
「…なんですかそれ。」
「ん?じゃぁ何だ?お前は子供じゃないのか?」
「いや、あの子供ですけど。」
「じゃぁ寝ろ。子供って言うのは九時以降におきていると法律違反で舌抜かれるんだぞ?このイギリスって土地は。知ってたか?ほら早く寝ないと…。」
「!寝ます!」
慌てて布団をかぶった弥に、鈴欠は小さく微笑んだ。
「やっぱり子供だな。」
「鈴欠様嘘はよくないかと。」
「いや、嘘じゃない。俺様法廷第一条。」
「第二条からは?」
「ただいま考案中しばらくお待ちください。」
「…。」
「…。悪かったな、馬鹿な事言って。で?箪笥から連絡あったか?」
司令官の本名に戸惑った基に、鈴欠は最大限のいやな笑みを浮かべた。
「あぁ、司令官様様だ。どうだ?」
「すでに五回ほど。」
「…深夜に電話してくるとは、あれだな、常識がない。」
「それは鈴欠様も同じかと。」
「黙れ馬鹿。」
「申し訳ない。」
素直に引き下がられたことが面白くなかったらしい彼は小さく舌打ちをして立ち上った。
「…あぁ基。俺は少し向こうに戻るから、弥のことたのむな。」
「…どこに?」
「いつものとこ。どうやら召集がかかったらしくてな。そろそろ行かないと内臓かき混ぜられる。」
「…。」
「…冗談だ。まぁ危ないのは確かだが。」
「…お気を付けて。」
頭を下げた基に頷いた鈴欠は、ふと思いついたようにそうだ、と呟く。首の後ろに手を回し、かかっていた装飾を外した。付けていたのさえ気付かなかった、銀の指輪の付いた銀のチェーン。
「預けとく。」
「これは…?」
「…ま、これ付けていくとキレるからな。さてと、…よく寝てるな。」
そっと弥を覗き込んでそう呟く。一瞬ほほえんだあと、小さくため息をついた。
「いってくるな。いい子にしてるんだぞ。」
頭を撫でた後、静かに顔をあげる。一言も発しないままひらひら手を振った鈴欠はふと、思いついたように言葉を落とした。
「…今日の月はきれいだったな。」
+++++*+++++
自動人形は回ります。
くるくるくるり。
自動人形は踊ります。
くるくるくるり。
彼らに意志はありません。
くるくるくるり。と
ある日突然彼らはとまります。
ぴたりと
彼らに意志はありません。
すべては持ち主の意志に。
かちゃん
ことん
きちきちきち
ぎぎぎぎぎ
さぁ自動人形。
私のために踊っておくれ。
世界が消えても私が消えても
私のために踊っておくれ。
神のために踊っておくれ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。新連載暗庭-antei-はじめました☆そちらもよろしくお願いします。