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インファイト

 白煙が消える。地下道だったのは幸いだった。右腕を失った事でサイクロプスは、こちら側の世界にその巨体の全てを顕現させていた。


 その巨大な体躯は、立ち上がれば三メートルは優に超えそうだ。地下道らしい慎ましやかな天井が、俺たちに味方してサイクロプスの動きを封じていた。天井に頭がつかえ、首を傾げるような姿勢で片膝立ちになっている。サイクロプスは制限された中で左腕を振り回し、特殊作戦群の部隊に攻撃を仕掛けようとしている。


「第四中隊はさがれ!ヤツの間合いから離れろ!」


 サイクロプスの左腕側に展開していた第四中隊に、土方さんが即座に指示を飛ばす。沖田さんと同じように這いつくばるように射撃をしていた隊員は、ほかの隊員に比べ僅かだが、反応が遅れた。


「危ない!」


 俺は叫んでいた。あの日、ゴブリンを掴み、己の食欲を満たすためだけに本能に任せて振り回された手は、思考ではなく反射で獲物を狙う。俺はその怖さを知っている。俺自身も思考ではなく、反射で叫んでいた。


「第四中隊の後退に合わせて、銃撃を目に集中させろ!」


 バンバンッと破裂音と共に、サイクロプスの目に銃弾の雨が降る。第三中隊と沖田さんの一斉射撃が始まると、サイクロプスが叫んだ。


「ばぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」


 第四中隊の隊員の一人を捕らえようと伸ばされたサイクロプスの左手は、銃弾の雨から弱点の目を守るために動きを止める。そして、サイクロプスは第三中隊を牽制するように左手を、無理やり振り回した。


「撃ち方始め!」


 安全圏まで下がった第四中隊が、土方さんの合図と共に攻撃を再開する。また左手を振り回そうとしたサイクロプスはその反動に、体勢を崩した。


 サイクロプスの巨体がぐらつく。そして、こともあろうに俺と伊佐美、佐野さんがいる中央に向かって倒れ込んでくる。


「伊佐美!」


 俺は勝手に体が動いていた。佐野さんと伊佐美を庇うように前に出た。倒れ込んでくるサイクロプス腕の間合いに俺たちは取り残されている。俺は刀を鞘から抜くと上段で構える。


 轟音のようなサイクロプスの叫び声が俺の耳に響く。俺の目の前に俺の顔より大きそうな、サイクロプスの親指が見えた。そして、激しい衝撃と痛みと共に、俺の身体は地面を離れる。


「圭ちゃーーーーん!」


 伊佐美の声がする。どうやら伊佐美は無事らしい。ぎりぎりとサイクロプスの握力が俺の着ている防弾チョッキにダメージを与えている。防弾チョッキがなかったら死んでいたかもしれない。


「撃つな!圭介くんに当たる!」


 沖田さんの声で銃撃が止んだ。伊佐美の叫び声が下の方から聞こえてくる。サイクロプスは、伊佐美の懇願するような叫びなど聞く耳は持たない。俺をその口で味わおうと、左手を自分の口元へと運んだ。


「……だろうな。俺だってそうする。俺もおまえも頭が足りないから!」


 俺は上段に構えていた剣を目の前にあるサイクロプスの目玉に突き上げた。


「食いもんは……すぐに口に運ぶよな!」

 

「ぎゃああああーーー」


 俺の刀はサイクロプスの目玉から、その脳に向けて深々と刺さった。間近で聞く叫び声で、脳が震え、その口臭に吐き気がする。


「ああああああああああーーーーー!!!」


 俺は一心不乱に刀を刺した。何度も抜いては、何度も刺した。その度に、サイクロプスの目玉から血飛沫が俺の身体にシャワーのようにかかる。


「これで……。どう……?」


 俺がトドメの一撃を加えるべく、刀を構えた。その刹那、俺は空を飛んでいた。視界が回転する。ドームシティのジェットコースターなんて、お遊戯だ。


 サイクロプスに放り投げられ、スローモーションのように回る視界は、右肩から壁にぶつかった衝撃と共に、終わりを迎える。そして俺の視界は暗転する。最後に見えたのは金色の光に包まれるサイクロプスと、泣きながら俺に駆け寄ってくる伊佐美の姿だ。

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