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ドンゾコナビ ~滅びの世界で少女導く~  作者: 内村一樹
5章:這い上がる者

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第125話 居場所のない者たちへ

 朝の光が、ゆっくりと地面を撫でていく。


 焼け焦げた大地は、まだ黒いままだ。ひび割れた土の隙間に、炭になった木の残骸が突き刺さっている。風が吹くたびに、細かい灰が舞い上がって、喉の奥がざらついた。


「……妙に、静かだな」


 誰に向けたわけでもなく、そんな言葉が漏れた。


 スザクがいた頃は、こんな朝はなかった。空を見上げれば、いつだってあの化け物がいて、いつ炎が降ってきてもおかしくなかった。


 だが、今は違う。


 空は青く、ただ広がっているだけだ。


 エオウィンとの戦いが終わってから、一ヶ月。


 世界は、確かに変わった。


 なのに――


「……こんなんで、いいのかよ」


 自分でもよく分からない違和感が、胸の奥に引っかかっていた。


 足元に転がっていた瓦礫を一つ拾い上げて、脇へどける。崩れた石の下から、まだ焦げていない土が覗いた。


 こんなことを、毎日繰り返している。


 壊すために使っていた力で、今は直している。


 自分でも笑える話だ。


「おーい、ルース!」


 背後から声が飛んできた。


 振り返ると、ダグが両手いっぱいに何かを抱えている。木材と、どこからか拾ってきた金具らしい。


「これ見てよ! ほら、こうやって組めばさ、雨避けくらいならなんとかなると思うんだけど、どう?」


 目を輝かせながら、地面に材料を広げていく。


「……器用だな」

「オイラ、こういうの結構好きだからね! 戦うよりよっぽど楽しいかも」


 カン、と軽い音を鳴らしながら、ダグは手際よく組み上げていく。


 その様子を、少し離れたところから眺める。


 戦いのためじゃない。

 ただ、生きるための手だ。


「みんな~!」


 今度は上から声がした。


 見上げると、黄緑の羽がひらりと揺れている。クゥだ。背中にはライラもいるみたいだぜ。


「手紙持ってきたよー! 北の大陸から!」

「……手紙?」

『はい。アレックスさんからの便りですよ』


 いつもの癖で、聞き取る耳(パーシバー)を使って声を拾う。

 ライラの声が静かに響く。


 ダグが「おっ」と顔を上げた。


「ホント!? なんて書いてあるの?」


 クゥが軽く咳払いをしてから、紙を広げる。


「えーっと……『こちらは順調だ。子どもたちも、ようやく外で遊べるようになってきた』だっクェ」


 ダグがにやりと笑う。


「元気そうにやってるみたいだね!」

『北の大陸も、少しずつ復興が進んでるようでした』

「あとさ、『そっちも無理すんなよ』って。ダグ、ちゃんとご飯食べてるクェ?」

「もちろんだよ」


 クゥが肩をすくめる。

 俺は何も言わず、そのやり取りを聞いていた。


 聞き慣れた皆の話なんだけどな。

 どうしてか、遠くの話に聞こえちまうぜ。


 と、俺がそんなことを考えてると、背後から声が降ってきた。


「クゥとライラ! 来てたのね!」


 振り向くと、イザベラが立っていた。

 彼女に対して、クゥとライラが軽く手を振る。


「久しぶりだねー!」

『元気そうで何よりです』

「そっちこそ。アレックスも元気?」


 イザベラの問いかけに、クゥは手紙を手渡した。

 再び音読会が始まり、少しだけ騒がしくなる。


 そんな様子を眺めてると、不意にイザベラが俺に視線を向けてくる。


「ちゃんと聞いてた?」

「……聞いてたよ」

「ならいいけど」


 それだけ言って、踵を返す。


「……どこ行くんだよ」

「ちょっと散歩よ。来る?」


 振り返りもせずにそう言う。

 俺は一瞬だけ迷ってから、後を追った。


 辿り着いたのは、崩れた塔の跡だった。

 スザクがいた、あの火炎の塔。


 今は見る影もなく、石の残骸が積み上がっているだけだ。

 焼け焦げた匂いがまだ残っている。


 そんな残骸のなか、足を止めたイザベラは、静かに空を見上げた。

 まるで、俺の言葉を待つように。


「なあ」


 自然と、言葉が口をついた。


「俺さ――」


 足元の石を軽く蹴る。


「自分で壊したもんを、自分で直してるんだよな」


 乾いた音が響いた。


「……滑稽だろ」


 笑える話じゃない。


 イザベラは少しだけ考えるように間を置いてから、口を開いた。


「そうね。滑稽かもね」


 あっさりと、そう言った。


「でも、それでいいんじゃない?」

「は?」

「一度壊したって分かってるなら、直せばいいじゃない」


 当たり前のことみたいに言う。


「……簡単に言うなよ」

「簡単よ。だってあんた、そう思ったんでしょ?」


 言葉に詰まる。

 否定は、できなかった。


「だからやってるんでしょ。それで十分じゃない」


 イザベラは肩をすくめる。


「お前な……ほんと適当だな」

「うるさいわね」


 少しだけ、空気が緩んだ。


 風が吹く。

 足元で、何かが揺れた。


 視線を落とすと、黒く焼けた地面の隙間から小さな草が伸びていた。

 細い葉が、風に揺れている。


「……」


 それを、しばらく眺める。

 不思議と、目が離せなかった。


 何かが、そこにある気がしたから。


 ――見られている。そんな気配。


「……まさかな」


 小さく呟く。


 答えなんて、どこにもない。

 それでも、世界は勝手に続いていく。


「ねえ」


 イザベラが、ぽつりと言った。


「ちょっと考えてることがあるんだけど」

「なんだよ」

「宿、やろうかなって」

「……宿?」

「どんな人でも来れる場所。温かいご飯と、寝る場所くらいは用意してあげるの」


 少しだけ遠くを見るような目をしている。


「行き場のない人でも、少しは休めるような、そういうとこ」


 しばらく黙る。


「……随分でかい話だな」

「いいじゃない。別に」


 イザベラは軽く笑う。


「どうせやるなら、それくらいがいいでしょ」


 そして、ちらりとこっちを見る。


「手伝いなさいよ」

「……気が向いたらな」


 素っ気なく返す。

 それでも、イザベラは満足そうだった。


 遠くから、ダグの声が聞こえる。


「二人とも! ちょっと見て欲しいんだけど!」


 クゥの笑い声と、ライラの落ち着いた声が重なる。


 風が吹く。

 草が揺れる。


 そうやって、世界は少しずつ戻っていく。


 これが正解かどうか、今の俺には分からない。だから――


「……あがくしかねぇだろ」


 足は、自然と前に出ていた。

ドンゾコナビ~滅びの世界で少女導く~

これにて完結です。


楽しんで頂けたでしょうか。

もしくは、暇つぶしになれたでしょうか。

ホントは80話程度で終わらせようと思ってたんだけどなぁ。

短くまとめることが、どうも苦手です。


これでも、エオウィン視点とか勇者一行の過去の出来事とか、もっと深堀して書こうかと悩んだんですが、長くなりすぎるので全部端折りました(笑)

需要があれば、書くかもです。


投降開始した2025年1月4日から、約1年と4か月かかりました。

最近、更新の頻度が落ちてきてしまってます。すみません。


歳のせいなんですかね。仕事終わりや休日に書く気力が湧かない日が増えた気がする今日この頃。

それでも、結末まで書き終えることができた自分を褒めておきたいと思います。


ちょうど連休に差し掛かるので、温泉にでも行って次のお話の案を考えたいなぁと思います。


あとがきはこれくらいで、終わりたいと思います。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。 内村一樹

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