120:芋くさ夫人は弟の恋を応援する(ポール&アニエス視点)
時系列→ポール卒業時です。
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ポールは無事に隣国の学校を卒業した。
けれど、エバンテール侯爵家は両親の罪のせいで爵位を剥奪されているので、ポールに帰る先はない。
ひとまず、姉夫婦の屋敷に滞在することになった。
居候の身というのは気乗りはしないが仕方がない。
義兄のナゼルバートが砦で働く人員を募集しているので、そちらで彼の補佐の一人として就職するつもりだ。
スートレナはいつだって人手不足なので。
(ただ飯食らいになるわけにはいかない)
決して屋敷に初恋の相手であるケリーがいるから、いい格好をしたいというわけではない!
(はああ、ケリーさん……ある意味、同居になるのか……?)
恋愛初心者ポールのドキドキは止まらない。
馬車から降り、大きな荷物を持ったポールは、ふよふよと空中を移動しながら、スートレナにある領主の屋敷の門をくぐる。
すると姉夫婦が出迎えてくれた。
「やあ、おかえり、ポール。たくましくなったね」
「ただいま戻りました、義兄上、姉上」
眼鏡をきらめかせ、ポールは堂々と胸を張る。
そう、隣国で鍛え上げられたポールは目に見えて逞しくなった。
背も伸びたし、今の体つきはトッレのように筋肉質だ。
もちろん、精神的な成長も遂げたと自負している。
すると、アニエスが屋敷の方を向いて声を上げた。
「あ、ケリー。ちょうど、ポールが帰ってきたわよ~」
(え……)
瞬間、ポールの心臓はバクバクと大きく脈を打ち始める。
(け、けけけけケリーさーーーーん!?)
数年片思いしてきた相手が、恋文を送り続けてきた相手が……今、目の前にいる!
体がガクガクと震え、顔に、いや全身に熱い血潮が巡る。
そうとは気付かないアニエスが、にこやかな表情を浮かべ、ケリーをポールの前まで連れてきた。
「ケリーは歓迎会の準備をしてくれていたのよ」
素の顔を崩さないまま、ケリーがコクリと頷く。
「はい。主役のポール様はこちらへ」
その流れで、ケリーはポールを屋敷へ案内しようとした。
「へ、ふぁい」
裏返った声で答えたポールは、吸い寄せられるようにケリーの後ろに続く。
(どうしたポール! なんだその負抜けた返事は! 成長したのではなかったのか! たくましさはどこへ飛んで行ったんだ……!?)
心の中でもう一人の自分が叫ぶ。だが、どうにもならない。
ポールはふわふわとした頭で、ただ歩くことしかできなかった。
※
私――アニエスはナゼル様の隣で、ケリーの後ろを付いていくポールを眺めていた。
「あらまあ、ポールったら。緊張でガチガチ」
「微笑ましいね」
ナゼル様が優しい声で告げた。
「ここはもっと、キリッとケリーに挨拶してほしいところだけれど」
「アニエス、珍しく手厳しいね」
「はい。ケリーが私のお義姉さんになってくれたら素敵ですので。ポールには頑張ってもらいたいです」
「ポールのお嫁さんなら義妹になるね。俺もケリーが身内になってくれたら嬉しいと思うよ」
「そうと決まれば、ポールの応援に行きましょう」
「いや、アニエス、それは……」
このままでは、いつまで経ってもポールの恋は発展しない。
姉として、私は歓迎会で弟の恋を後押ししようと決めた。
しかし……。
歓迎会でのポールは緊張もあって、なかなかケリーとの距離が縮まっていない。
(見ていてもどかしすぎる~!)
ここは、姉として応援する場面だ。そうに違いない。
私はさりげなくポールを誘導する。
「ポール、主役なのに悪いんだけど……ちょっとケリーを手伝ってあげて。向こうでテーブルの移動があるみたい」
「……! は、はい」
ちょうどテーブルを動かそうとしていたケリーに近づいたポールだが、意気込みすぎたのか、その場で躓いてずっこけた。
テーブルの脚に頭をぶつけている。
(ポールぅぅぅ! なんでそうなるの~!?)
ふらりとよろけた私を、傍にいたナゼル様が支えてくれた。
「ポール様、大丈夫ですか?」
離れた場所で、ケリーが倒れたポールをのぞき込んでいる。
「ひゃい、だ、大丈夫れす」
声は上擦り、距離があってもわかるくらい顔が真っ赤である。
(ああ、ポール……)
弟の恋は難易度が高いと思っていたけれど、これは難しいとか、前途多難とかいうレベルでは済まないかもしれない。
(このまま進展しないかも……)
立ち尽くす私を、ナゼル様が抱きしめてくれる。
「うんうん、アニエスは頑張ったよ。ここはそっと見守ろう」
「はい……」
それから、ポールはケリーに連れられて一旦その場を退室した。 頭に出来たたんこぶを、彼女に手当てしてもらったようだ。
(あら? なんやかんやで距離が縮まった?)
しばらくして戻ってきた彼の顔は、最初の比ではないくらい真っ赤で、茹で蛸のような色に染まってしまっていたのだった。
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