119:10歳のソーリスとクアトロ
十歳になったソーリスは、庭の畑の見回りをしていた。
この庭では父が自分の魔法で作り出した植物の研究をしている。
「うん、よく育ってる」
ソーリスもここで父の手伝いをしていた。
というのも、ソーリスの魔法が「土壌操作」という、土を動かしたり、土の性質を変えたりできる類のものだからだ。
不毛の地だったスートレナの土を、ソーリスの魔法で徐々に作物が育ちやすい土壌に改良していっている。
とはいえ、十歳のソーリスの魔力量では限度があり、未だスートレナ全土の土壌を回復するには至っていない。
ただ、父の役に立てているのは嬉しかった。
幼い頃は訳もわからず庭で魔法を使い、植物を枯らしたり、草をボーボーに生やしたりして、大人たちを困らせていたらしいが……。
畑を観察していると、幼馴染みであるクアトロが声をかけてきた。
「ソーリス様、ここにいたんだ」
クアトロは、母アニエスの侍女リリアンヌと護衛のトッレの息子である。
ソーリスの一歳下で、弟のような存在だ。
「もうすぐ剣術の訓練があるから、お父様が呼んできてって……」
「もうそんな時間か。わかった、行こう」
「うん……」
答えたクアトロはどこか元気がなかった。
「どうした、クアトロ? 嫌なことでもあった?」
すると、クアトロは首を横に振る。
「訓練がちょっと憂鬱なだけです。僕はお母様に似て華奢で、力も強くないから……腕相撲でも、妹のレレアンナに負けそうになるし」
レレアンナはクアトロの一つ下の妹で、トッレととてもよく似ていた。体も大きく、力も強い。ついでに声も大きい。
だから兄のクアトロは余計に、自分の体形をコンプレックスに感じているようだった。
「気にしなくていい。クアトロ、君の剣技は誰よりも綺麗で正確だ」
「でも、ソーリス様に一度も勝ててないし。下手をすると、レレアンナにも負けそう。僕は魔法だって戦闘向きじゃないし」
下を向いたクアトロは、とことん弱気だった。
「今は子どもだけど、もう少ししたら、クアトロだってもっと背が伸びるはずだ。お父様も昔は小柄だったが、十二歳を過ぎたあたりから、どんどん背が伸びだしたらしい」
「ナゼルバート様が?」
「うん。ジュリアン叔父さんも、ポール叔父さんも、同じようなことを言っていた。だから、諦めるべきじゃない。仮に身長が伸びなかったとしても、強くなることはできると思う。ほら、ラトリーチェ王妃殿下も大柄ではないけれど、とても強いと有名だ」
「そうなんだけど……」
ソーリスは少し考えてから、クアトロに告げた。
「そういえば、うちの執事長も小柄だけど強いな。彼に稽古をつけてもらえば? 体の大きさや力の強さに頼らない戦い方を熟知しているかもしれない」
昔、母がどこかから引き抜いてきたらしい彼は、もともと密偵の仕事をしていたという。
今は屋敷の執事長として、日々スートレナのために働いていた。
「ああ、あの人か。でも、いつもとても忙しそうだけど」
「僕から母上を経由して頼んであげる。ついでに、僕も一緒に訓練を受けたい。騎士だったトッレとは違う戦い方を学べると思うよ」
「ありがとうございます。ソーリス様」
「とりあえず今は、トッレの剣術訓練が先だね」
ソーリスはクアトロの手を引き、庭の一角にある訓練場へ向かった。
その後、クアトロは執事長の訓練が合ったようで……一年もしないうちにめきめきと頭角を現し、トッレとは異なった方向で強くなっていくのだった。
そうして将来、スートレナの諜報部隊のトップを担うようになるが、それはまた別の話。
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