Scene 2 ボーイ・ミーツ・ガール
到着したばかりの長距離貨物列車の荷下ろしが始まり、荷役たちの合図や掛け声が喧騒となって貨物ターミナルに響く中を少女は駅舎へと入っていく。
洗練された曲線と幾何学的な線で構成された鉄筋コンクリート造りの駅舎は、その先進的なデザインとは対照的に長らくメンテナンスが行われていない様子で、ミラーガラスは曇り、屋根を構成する曲面には砂ぼこりが積もっている。
駅舎全体を覆う曇ったドームの天井からは濁った陽光が差し込んでいる。ツクシは初めて訪れる駅舎に戸惑いながらも表情を変えずに周囲を見渡し、目的地を探す。
止まったエスカレーターを歩いて上り、九連のホームが並ぶ旅客ターミナルを見下ろすコンコースの床に描かれた矢印を辿り、ようやく発見した案内板をじっと見つめた。
「あの、運行管理士さん。先ほどから何かお探しですか?」
ツクシが若い男の声で振り向くと同じ歳くらいの少年が緊張気味の表情で佇んでいた。
ツクシとは違うエンブレムの付いた鉄道員の制帽を目深に被り、細身の紺色のブレザーの襟にはファーイーストターミナルの社章が付けられている。
「ええ、どうやら迷ってしまったようです。運行管理局へはどう行けばいいですか?」
「えーっと、ちょっと口では説明しにくいな」
少年は独り言を言うように呟いて顔を上げ、グレーの瞳をツクシに向ける。
「あー、僕が案内しますので、付いてきてください」
「良いのですか? 助かります」
「どうせヒマですし……じゃなかった。運行の合間なので……あはは」
少年は慌てて失言を訂正し、取り繕うように頬を掻きながら笑う。
「この駅は四十年程前に作られた建物でして、電子機器が生きてた頃にはホログラフナビゲーターも動いていたらしいんですが、今やこの通り。通路は一部閉鎖されてるし、エスカレーターもエレベーターも使えないし、初めて来る人には迷路同然ですよね」
少年は駅について話しながらツクシを案内し、ツクシは少年の案内を聞きながら駅の構造や現状を確認する。
「そのようですね。ご案内が無ければ迷子になっているところでした。えっと……私はウェストエンド管内で運行管理士をしている、アマミヤ・ツクシと言います」
「あっ、ピーター・アシュフォードです。この管内の運転士……見習いです」
少年はツクシの自己紹介に促されるように制帽の鍔をつまみながら目を伏せて自己紹介する。
「運転士さんですか。それでは、これから運行でご一緒することがあるかもしれませんね。私の事はツクシと呼んで下さい」
「まだまだ見習いの身で……お恥ずかしいです。僕はみんなからはピートと呼ばれています」
「よろしくお願いします。ピートさん」
「はっ、はい。ツクシ、さん」
ピートはそれきり黙ったまま案内を続け、何度かの迂回を経てバックヤードへの入り口に到着する。
「この中です。廊下の突き当りの右側にありますので」
「ありがとうございました、ピートさん。またよろしくお願いします」
ツクシは穏やかな笑顔でピートに挙手の敬礼をすると、ピートの頬が赤く染まる。
「そっ、それでは、これにてっ ツ、ツクシ……さん」
伏し目がちに敬礼を返すピートの指先は少し震えていた。




