Scene 3 運行管理局
「十一時二十四分、一二五四ポイント右、ノードA二四五」
「クリア」
「十一時三十三分、一二五八ポイント右、ノードA三四九」
「クリア」
「十一時五十一分、一二六四ポイント左、ノードC三五〇」
「チェック、ノードC三五〇、対向車量が十一時五十四分まで占有の為、同五十五分まで待機」
「了解、十一時五十五分、対向車量通過の後一二六四ポイント左、ノードC三五〇」
「クリア」
「十二時〇九分、一二七一ポイント右、…… ――
双子の管理局員が淡々と運行標を読み上げる声とペンを走らせる音が運行管理局に心地よく響く。
「大陸横断長距離貨物二四一便、予定通り到着しました」
「はいはい~ ご苦労様。 んん? もしかして、あなたがウワサの~」
「噂……ですか?」
「いいえ~ 何でもないわ。 運行標、確認させてもらうわね」
管理局のカウンターに座る受付嬢がにこやかに応対して運行標を受け取ると、眼鏡の右側の蔓を人差し指でくいっと整え、バインダーに挟まれた運行標に目を走らせながらパラパラとめくっていく。
「あ~ 車長はグレックね。あのおっさんから変な事されなかった?」
受付嬢がチェックの手を休めずに言う。
「いいえ、とても良い車長さんで、安心して運行できました」
「ほんとかしら~? あのおっさん、暇を見つけてはここに来て女の子に話しかけて来るのよ。こっちは忙しいんだっての」
「ふふ、そういうところはありますね」
「なんかあったら報告してね」
そう言うと同時にバインダーをぱたんと閉じる。
「うん、完璧。A判定よ」
「ありがとうございます」
「あのおっさんに『A』を出すのは癪だけどね~」
あははと笑いながら記録用紙にペンを走らせて判を押す。
「ここにサインを」
ツクシはペンを受け取ると、用紙に『天宮標思』のサインをする。
「へ~、珍しい。チャイニーズ?」
「いえ、ジャパニーズです。絶滅危惧種ですよ。アマミヤ・ツクシと読みます」
「ま、今となっては人類自体が絶滅危惧種だけどね~ 私はパロマ・リーチ。パロマって呼んでね」
そう言いながらパロマがカウンター越しに右手を差し出す。
「はい、パロマさん。私の事はツクシと」
それに応じてツクシもペンをカウンターに置き、握手を交わした。
「うん、よろしく、ツクシ」
「あ、そだそだ。西の運行管理士の女の子が来たら駅長室に行くよう託ってるわ」
「私の事ですね。向こうを発つ前にもそのように聞いています」
「駅長室はわかるかしら?」
「いえ……この駅は複雑すぎて、来るときもここの運転士さんに案内して頂いたんです」
「運転士…… ああ、ニート君ね」
「……ピートさん、ですね」
「あはは、彼、ここではニートって呼ばれてるのよ。ちょっと気の毒だけどね…… 運行管理士不足であぶれちゃって、今は汽車に乗ることもせずに専らこの駅の案内と保全活動をしてるわ」
「そうだったんですね」
「……気になる?」
パロマがずいと顔を近づける。
「え、ええ……多少は…… 親切にしてもらいましたから」
その圧に少し引いてツクシが答える。
「もしかして、彼と一緒に仕事したいとか」
「はい、機会があれば良いですね」
「ふっふっふー ニート君も案外スミに置けないわねぇ 『僕の人生の運行管理士になって下さい』とか言うのかしら?」
「パロマさん、パロマさんもグレックさんとあまり変わりませんよ」
楽しそうににやにや笑うパロマにツクシは冷めた目線を送る。
「うぐっ……」
「それに、そのセリフはもう何度も聞いていますから」
「やっぱ定番なんだ」
「定番です。一緒にお仕事した八割の運転士さんから言われました」
「おおぅ 私も管理士になろうかしら」
「パロマさん、そんな事より、駅長室に案内していただけますか?」
「私にとっては重大な事なの!」
その後ツクシはパロマの後に従い、角を二回曲がり止まったエレベーターを上って駅長室へ向かった。




