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ヒーローに憧れる俺は正統派ヒーローに敗れて仲間になる悪役ヒーローになりたい。  作者: なつのさんち


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第三話:英雄の父親とひかりの母親

本日3話投稿する中の1つ目です。

 親父の様子がおかしいと感じ始めたのは、携帯電話を貰った事を話した時だった。

 誕生日だからとスマホを頂いた事を報告すると、目に見えて動揺し出し、俺からスマホを取り上げてアプリの内容を確認し、データのリセットをかけた。

 電話帳のデータは手書きでチラシの裏へと一件一件書き写し、リセットが終わり次第手入力で入れ直していた。

 親父は怒ると無言になるのだけれど、この時はやたらとブツブツ独り言を発していた。そして俺の目を見て、「ひかりちゃんの事、本当に好きなのか?」と確認して来た。


「いやまぁ、始めは向こうの聞き間違いと言うか、勘違いに近い感じだったけど、決して悪いコだとは思わないしな。可愛いコだから悪い気はしないし、今さら勘違いだったなんて言っても遅いだろ?」


 付き合いだして1週間、言い出すにはさすがに遅いだろう。


「お前が納得しているのならいいんだがな……」


 そう言って、俺にコンドームの箱を手渡して来た。親父もかよ。


「ひかりもお母さんから貰ってたわ、コレ。でも手で触り過ぎて中で破れてたみたいだけど」


「使ったのか!?」


 えらい慌てようだな。まぁ男側の父親としてはそれくらいのリアクションになるか。


「いや、使ってねぇよ。使うような事しねぇよ。知ってるだろ? 俺が女に手を出した事ないの」


「あ、あぁ、それは分かっているが、一応な。気になるだろ」


 いいか、と前置きし、さらに親父は念を押す。


「使うような事になったら、絶対にひかりちゃんが持っているモノは使うな。この箱を使う直前に開けて、それから使え。絶対に着けないでするな。これ以外は使うな。分かったか!?」


 念を押す親父に違和感を覚えながらも、一応頷く。よし、と明らかに安堵した表情を見せる。


「なぁ親父、親父とお袋は結婚してから俺を作ったんだよな? 何でそんなに気にするんだ?」


 過去に何かあったのだろうか、息子としてはあまり聞きたくない話題だが、ここまでされると聞かずにはいられない。


「あぁ、俺達は大学を卒業して、実家を出て、結婚してから作ったんだ。お前は望まれて生まれて来た、自信を持て。望まれない子供が出来ないよう、気を付けるんだ」


 無理やり話を切り上げるように立ち上がり、道場へ向かう親父。明らかに様子がおかしい。

 テーブルに置きっぱなしの親父の財布が目に入る。こんなとこに置いとくなよな、いくら俺が札を抜いたりしないって分かってるとしても。


 いつもの引き出しに入れておいてやろうと手を伸ばしたら、上手く掴めず床へ落としてしまった。パラっと二つ折りの財布が広がり、中身が飛び出す。整理されてないからすぐに散らばるんだよなと思いつつ、カード類を入れ直していると、泌尿器科の診察券が見えた。

 さっきのコンドームの話から想像するに、親父どっかで病気貰って来たのか……?



 それからひと月、俺とひかりの関係は特に変わらずぎこちないままだった。

 家に連れて行かれる事はさすがになくなったが、ひかりがうちの道場に空手の稽古へと来る日は、早めに来て俺の部屋で過ごす事が多くなった。

 ただ一緒に話をしたり、学校の宿題をしたりするだけなんだが、俺もやっぱり1人の時間が欲しいというか、ひかりの事を考えない時間が必要だと思う。ここまで一緒にいる事こそ必要! みたいなスタンスで来られると引いてしまう。

 やんわりとお断りをすると泣かれるし、浮気を疑われるしでやり辛い。だからって明確に拒絶してしまえばどうなるか分かったものではないので、出来る限りひかりの希望に沿えるようにしている。

 でもこれは違うようなぁ、俺が無理してひかりに合わせている時点で、無理があるんだよなぁ。いずれ俺が耐え切れなくなって終わりを迎えるような気がしている。


 そんな事を思いながらも、今日もひかりの話し相手をしていると、ひかりが困ったような顔をしながら俺に近付いて来た。


「あのあのあの……、ダメかな……?」


「ん?何がダメか聞いているのか分からないんだが」


 そのそのその……、ともごもごしている。


「わ、私はね? ヒデ君と付き合ってるって実感が欲しいの。ヒデ君の特別になりたいの。だから……」


 おもむろに立ち上がり、ひかりが来ている道着の帯を解く。白地のTシャツの下に薄らと浮き上がるブラジャー。

 ちょっと待て、俺はそんな事望んでいない。


「ひかり、それ以上したら別れるぞ」


 ビクッ、と身体を震わせて固まるひかり。何で俺が止めると分かっていて脱ごうとするんだろうか。


「付き合っている実感って何なんだ? ヤる事か? それ以外にないのか? 何気ない日常の会話とかさ、一緒に宿題したりさ、色々あると思うんだ。休みの日に出掛けるだけではダメなのか? 俺が別な女と遊ぶと思うか? 俺はそんな浮気な男じゃない。分かってくれてると思ったんだけどな……」


「違うの!! ……、男女が付き合ってたら、そうなるのが自然だって! 比呂ひろも、その、そういう事してるって言うし、変だって言うの! 手を出されないのは女としての魅力がないからだって!! お母様も……」


 お母さん? 普通娘に対して母親が付き合ってたらヤるのは当然って教えるか……? 身体を大事にするようにって教えるもんじゃないか?

 比呂も比呂だ、あいつバカなんじゃないか? 自分の付き合い方を当然のように幼馴染に教えて、煽って、俺達の事を応援するんじゃなくけしかけて……、そうしなければならないような雰囲気を作ってやがる。本当にあいつにはがっかりだ。名前と違ってえらい下衆な奴だ。


「よし、今から比呂に会いにいくぞ。お前のお母さんにもだ。俺達の事はそっとしといてくれってはっきり言ってやる。お前が困っているんなら、俺が何とかしてやるよ」


「ダメっ! 1度でいいから! ね? 1回でいいから……、お願い!!」


 何でそんなに必死なんだろうか。ちょっとパニックになっているひかりを優しく抱き締め、落ち着かせる。


「誰かに、何かされたのか? するって言われたのか? しろって言われたのか?」


「……、身体の繋がりがなかったら、男の人はすぐに離れていくわよって……」


 落ち着いたひかりから聞いたのは、とても母親とは思えないひかりのお母さんからの発言の数々。


・初めてを捧げるのはどんなに素敵な事か

・身体で繋がれば心の結び付きがさらに強くなる

・身体を許さなければ心も離れて行く

・心も身体も1つになるのはとてもとても気持ちがいい事

・愛する人との子供を授かる幸せ


 吐き気がする。自分がそう思うのは勝手だけれど、それを娘に強迫観念を植え付けるように話すのが気に入らない。

 俺の正義に反する。やはり直接会って俺にそんなつもりはないから、俺達の事は放っておいてくれと言わなければ。


「ひかり、やっぱりお前のお母さんと話をしよう。俺達には俺達の付き合い方がある。俺はひかりの事を大事に思うからこそ、今ヤるって考えはない。お母さんが何を言おうと、俺はひかりの事を嫌いになったりしない。今からお前の家に行ったら会えるか? 俺から直接話すから、一緒に聞いてくれないか?」


 落ち着きなく目を泳がすひかり。俺とひかりのお母さんが話をするって事で、どうなるのかと不安に思っているのだろう。ひかりが落ち着いて、俺の気持ちを受け止められるまで待とう。


「多分だけど……、今行ったらヒデ君のお父様がいると思う……」


 はぁ!? 何で親父がひかりの家にいるんだ?


「お母様と、ヒデ君のお父様、昔付き合ってたんだと思うんだ……。はっきり聞いたわけじゃないんだけど、空手を習っていた男の子と家格が釣り合わないからって引き離された事があるらしいの。それがヒデ君のお父様だと思う。偶然再会出来て……、その……」


 あのクソ親父……! 今まで女の影がねぇと思ってたら、よりにもよってひかりのお母さんと……!? 相手は既婚者だぞ! しかも息子の彼女の母親とか、有り得ないだろ!!!


「ひかり! やっぱり今から家に行くぞ!! 親父を殴らないと気が済まない……!」


「それは止めておいた方がいいぞ」


 比呂!? 何勝手に人の家入って来てんだお前……!!


「……、どういう事だ? お前は俺の親父とひかりのお母さんの事、知ってんのか?」


 思わず胸倉を掴み睨み付ける。場合によってはボコボコにしてやるぞ!?


「父親のむごたらしい姿、見たくないだろ?」


「だからどういう事かって聞いてんだよ!」


「ヒデ君ダメ!」


 殴ろうとした手をひかりに掴まれて止められる。少し冷静さを取り戻せた。

 胸倉から手を離し、しかし比呂を睨んだまま問い詰める。


「親父の惨たらしい姿ってどういう事だ?」


「奥様は英一えいいち様とお付き合いされる事になった。今朝から雨宮あまみや家で過ごされている。……、英雄ひでおも今日から雨宮家で暮らすんだ」


 比呂が喋っている内容を理解する前に、比呂が持つスタンガンによって脇腹に衝撃が走り、気を失ってしまった……。



次話は21時投稿予約済みです。

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