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LOVE BOX  作者: 蓮冶
第六話・さあ、愛ある家庭を築きましょう❤
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第5話・どうせ僕はお人好しのバカですよっ!




 三谷から子守りを言い付けられて一ヶ月が経とうとしている。七緒は仕事帰りに保育園に寄って皐月を迎えに行き、三谷の家に帰宅してから食事をつくる。そんな日が続いていた。

 当初と比べて皐月は次第に心を開いてくれるようになり、最近では七緒のことを『ななお兄ちゃん』と呼んで笑みさえもこぼしてくれるようになった。

「皐月は俺と真奈美(まなみ)のーー別れた妻と俺との間にできた子だ」

 陽光はまだ高い。三谷に社長室へ来るよう呼び出された七緒は、三谷と向き合うようにして二人掛け用のソファーに座る。

 三谷は自分の身に起こった出来事をぽつりぽつりと七緒に打ち明けていった。

「そのことを知ったのは、君に子守りを命じた3間前のことだ。真奈美は俺に子供がいることを知らせず皐月を育てていたんだ。そして新しい男ができたとたん、皐月を押しつけきた」

「ーーーー」

 なるほど。だから皐月は何をするにしても大人の顔色を窺って子供らしからぬ行動を取り、三谷に至っては社内に育児書を持ち込むまで読んでいたというわけだ。これでようやくすべての合点がいった。七緒は内心大きく頷いた。

 常にエリートとして道を歩んできたに違いないこの社長がしかめっ面で育児書を見ている。その光景を想像するとなんだか可笑しい。可愛いとさえ思ってしまう。

「俺の両親は今海外にいて、頼れる状況ではなかった。皐月を俺一人でどう育てて良いのか判らず困っていたところに君の噂を耳にしたんだ。ーー失礼だとは思いながら家族構成などを調べさせて貰った。君が15の時に両親が離婚し、それ以来母親と二人暮らしだそうじゃないか。そして現在、母親が入院中だということも含めてーー。いやしかし、どんなに困っている状況だとはいえ、自分の立場を利用して君の弱みにつけ込んだことは申し訳なく思っている。すまない」

 まさか社長自ら謝罪されるとは予想だにしていなかった七緒は驚く。しかしそれ以上に三谷が耳にした自分の噂についての方が気になった。

 果たして三谷は自分の何についての噂を聞いたのか。

「あの、噂って?」

 まさかとは思うが、会社としていかに役立たずであるかを社長は耳にしたのだろうか。

 彼は会社の責任者だ。部下の七緒がいかに不出来なのかはもう知っているだろう。それでも、噂について尋ねたのは三谷には呆れられたくはないと思ったが故だ。

「…………」

 何故自分は三谷に呆れられたくないと思ったのだろう。会社をクビになるのが怖いのか、それとももっと他に理由がーー。

 いや、やめておこう。何故か七緒はこれ以上、この件についての感情を深く追求してはいけないような気がした。

 そんな七緒の心情を知らない三谷は静かに口を開いた。

「荷物が重くて困っている老婦人を家まで送っていた為に、先方との取引時間に間に合わなかったとーー」

 尋ねなければ良かったと、七緒は今さらながらに後悔した。その件は今から二ヶ月前にあったことで、頑張って頑張ってどうにか取れた大手取引先との商談を自ら台無しにしてしまうという最も愚かなことをやってのけた。おかげで相手先には取引をキャンセルされ、会社に戻ってからは上司から散々小言を聞かされた。

 彼はきっとそんな自分を馬鹿にしているに違いない。七緒は澄ました顔の社長を睨む。

「仕事よりも困っている人を助ける僕はどうせお人好しの大馬鹿者ですよ」

 三谷は七緒がいかに不出来な人間なのかを知っている。それでも馬鹿にされるのはまっぴらだ。こうなったら焼けだ。どうせ皮肉のひとつやふたつ帰ってくるに違いない。

 ツンケンした態度で言い返せば、彼は口角を上げて微笑んでいた。そればかりではない。さらに彼は七緒に思っても見ない言葉を投げかけてきたのだ。

「いや、可愛いよ」

「えっ?」

(可愛いってなに?)

 またもや思ってもみない返事が返ってきた。同性相手に可愛いとはどういう意味だろう。彼は何故そんなことを口にしたのか。それに自分はいったいどうしてしまったのだろう。心臓が早鐘を打ち、顔が熱を持つ。体中が火照っているのが七緒本人でも判るほどに……。

 これでは初恋を知った少年のようではないか。返事に苦戦する七緒だが、救いの手は思わぬ場所から差し伸べられた。

 三谷の携帯から繰り返し着信音が聞こえて、七緒は助かったと思った。しかしそれも束の間だ。電話で話している相手先との会話は芳しくないのか、三谷の表情が少しずつ険しくなっていく。

「とにかく警察に連絡して。私も探してみます」

「どうしたんですか?」

 嫌な予感がする。

 ただならぬ気配を感じた七緒は尋ねると、三谷はようやく顔を上げ、七緒を見た。果たして彼は、何をするにしても常に自信に満ち溢れているあの社長だろうか。皆からは秀逸とさえ呼ばれる普段の彼からは全く想像できないほど、顔が真っ青だ。

 とてもではないが見ていられない。七緒は目の前で顔面蒼白している彼に尋ねた。

「皐月がいなくなったと保育園から電話が入った」

「なんですって?」

「子供の足ではそう遠くに行っていない筈だ。とにかく探す」

「僕も探します!!」

 七緒は社長と共にオフィスを出ると、保育園まで急いだ。

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