『 レ研 』シン七傑衆『 code 09 』
化学準備室に集った『レ研』の面々を目に止め、しばらくして紫月先輩は語り始めた。
「シン七傑衆については伝説の二人より新しい話となる......そもそも当事者のボクですら、ごく最近知り得たことなのだから」
謎めいた微笑みを湛え、前置きをすると宮女で語られつつある抽象的存在を明かしていく。
第一席 伝説の王子 白河 聖
第二席 伝説の王女 椎木 菜々子
第三席 腐の伝道師 藤澤 美明
第四席 撃剣の風雲児 桐原 冴衣
第五席 理由なき存在 桐原 紫月
第六席、第七席は現時点では空席となっていて、席次は仮決めらしく序列などはもちろんないとのこと。
「なんというか......誰一人として尋常じゃない、もとい最高ランクの面子で構成されたもんっす!」
それには淡い笑みで応え
「白河 聖に於いてはその存在自体がレジェンド......同じ学年に在籍しているだけでも晴れがましいことだよ......あの人にこそアンタッチャブルという言葉が相応しい」
紫月先輩をもって言わしめるほどの生きる伝説。当人と接したことがある俺もそれには一も二もなく納得してしまった。
「実はここに『乙女ロード開拓ラブ』の会長......フジヨシ先輩と同じ三年生の早乙女 不二香先輩がエントリーしたがってるらしい......なんだろう。とうてい人に誇れるものじゃないのにね」
紫月先輩は不思議そうに首をひねるけど、ゲームや同人関係にハマっているとそういった通り名に夢見てしまう気持ちは何となくだけど理解出来てしまう。
「とはいえ、本人が得たいと思ってもこればっかりは多数の声で決められるもの......望む、望まないは別としてもね」
確かにそりゃそうだ。第五席までの誰一人として第一印象、ルックス、行動力どれをとっても常人を遥かに凌ぐものを持っているのは疑問の余地もない。
早乙女先輩も見た目はけっして悪くはなかったけど、挙げられた五人誰もから受けるファーストインプレションでの衝撃があるかというと微妙としか言えない。
「なんでも自主サークルから部に昇格することで同志を募り、その実績を持って一躍時の人となり殿堂入りを狙っている......名に値しない生じた後の間に合わせ的な発想さ」
「そんな事で小寺先生を巻き込んだんすっか......はた迷惑も甚だしいっす!」
いおりんはいつになく憤っている。まあ栞音ちゃんとのイザコザもあったし、この騒動に腹立ちをぶつけたくなる気持ちは解らなくもないけどね。
「そうだね......『レ研』としてはこの火ダネに今後どのように対処していくか......ヒナも理事長からそこらの事情を調べるよう頼まれてるんだったね」
ここにきてシン七傑衆なる新たな存在が浮き彫りになってきたが、まずチームとしての指標としての大戦略を決めなければならない。
いろりんは、俺の考えを読み取ったのか準備室にあるホワイトボードの前に立ち
壱『右か左かの方向性を定める』
右は『関わる』左は『関わらない』と書き込む。そして一同を見渡し右の『関わる』を大きく丸で囲った。
続いて弐の効用レベル『そのために達成すべき中間目標を決める』
「これについては何を指標に中間の目標としますかね? 一つ目は小寺先生が抱えている問題を解決するで決まりなんですけど、二つ目は早乙女先輩が目論んでいる部成立を阻止しちゃいます? ですかね」
うーん......いおりんが言いよどむのも致し方無い。強制的な話でもない限り別に腐女子部がこの学校に出来てしまっても現実レベルとして困るわけでもないし、シン七傑衆にしても呼ばれたい人は呼んでもらえばいいんじゃないのといった思いが強い。
まずはフジヨシ先輩の『貴腐人苦ラブ』と早乙女先輩の『乙女ロード開拓ラブ』このサークル代表同士の確執を収めて一日でも早く宮女に平穏をもたらすべきだ。
「それに関してなんだけどボクに妙案があるんだ」
紫月先輩はそれはご満悦の澄みきった笑みを浮かべている......背中をすごい勢いで悪寒が走り抜けたのは気のせい?
「キミたち一年三組の生徒全員に秋穂先生の発想で各自に二つ名がもたらされた......シン七傑衆は先に説明したとおり皆が二つ名持ちなんだよ......そこで早乙女先輩に早々と諦めてもらうためにも後の二席を確定してしまう......どうだろう?」
どうだろう......なんて言ったきりひたすら見詰められているけど......もしかして何かを俺に期待してませんよね?
「さすがっす! くっち先輩の思いはがっしりとのっちの小さい胸中を満たしましたっすよ! あと二席は片翼ペアで決まったっす!」
おいおいおい! いおりん貴女は何食わぬ顔して片翼とか言っちゃってる? しかも小さいとか強調しなくてもいいんじゃないの......まあ、それは置いといてもそこはほら自称天才マジシャンの二つ名、疾風雷光の庵 渚が立候補しますとか宣言するとこでしょ?
「陽菜乃ちゃん......ファイト」
都ちゃん......俺に何と戦えとおっしゃるのですか。
「そうと決まれば、さっそく手段レベル『最終的に活用するツールや戦術の優先順位』を考えていくっす!」
おう!と俺以外はノリノリで応えているけど......どうしてこうなった!
※※※
「陽菜乃ちゃん! 宮女シン七傑衆の噂を聞いたことある? そうそうたるメンバーなんだけど、その中に陽菜乃ちゃんと心々菜ちゃんの二人が入ってるんだって! うちも同じクラスメートとして鼻高々だよ!」
朝のホームルームの前にさっそく興奮冷めやまぬ栞音ちゃんが席に飛んでくる。『レ研』で話し合ってからまだ三日しか経っていないのに......恐るべし紫月先輩といおりんの情報操作能力。
「のん......昨日までは私たちを避けてたのに、今日はご機嫌だね」
いーちゃんのチクっとした嫌味にも、陽菜乃ちゃんと仲違いしたわけじゃないし、それにいおりんにしてもいーちゃんとだって別に喧嘩してるわけじゃないでしょと無邪気に断言されては、二人とも苦笑いで返すしかなかった。
「心々菜ちゃんはシン七傑衆の噂は知ってる? 今や宮女のどの生徒もその話で持ち切りだよ!」
明るく問い掛ける栞音ちゃんに困惑の瞳を向け
「演劇部の先輩たちに昨日教えてもらったんだけど、それが何で、どうして私がその中に入っているのかもチンプンカンプンなの」
柔らかな微苦笑を浮かべ本当に解せないよねと心々菜ちゃんは、いおりんに問い掛ける。
「そうっすね......でもまあ、なっちは最近あの白河先輩を相手してきっちり演じることが出来る希少な存在として、飛躍的に注目集めているみたいじゃないっすか、それに伝説候補としては十分なビジュアル持ってるからじゃないっすかね」
一年生は自らが中心となり噂をばら蒔いているのに、我関せずとしれっと言い切るいおりん......相変わらずの策士ぶりを見させて頂きましたです。
「陽菜乃ちゃんはどう思う?......って! 陽菜乃ちゃん!?」
急に振られると考えてなかった俺は思いっ切り目が泳いでしまったようだ。
「おっ? その動揺ぶりは陽菜乃っちは詳しい事情を知ってるとみた! ホラホラ恥ずかしがらずお姉さんに曝してごらん」
いーちゃんが嬉しそうに言い、栞音ちゃんも目をキラキラさせて詰め寄ってくる。いおりんはアチャって顔してるし心々菜ちゃんも釈然としない表情でこちらを気にしている。
うはっ 自分の正直すぎる振る舞いに反省する間もなく、このピンチをどうやってやり過ごすか......ここは、やはり
時と次元を越え、願わくは我を助けに召喚されよ!
ブツブツ呟いていると願いが通じたのか水嶋先生が扉を開け入って来てくれた。とはいえ次の休憩時間で絶対に追及されるよな。
突っ伏したくなったが授業も始まったこともあり、集中できないままノートを取っていると、しばらくしていおりんからメモが回ってきた。
読むと筋道の立ったストーリーで先ほどのフォローが細かく書かれている。文の終わりには、この紙は授業終わり頃には自動で文字が消えること、それまでに自分の言葉で噛まないように練習しとくことが書かれて〆られていた。
いおりん、ありがとう。
俺の呟きが聞こえたのか、小さく親指を立て応えた。




