『 レ研 』 終わりよければ? 『 code 10 』
「そこのアミトーンは似てるようで50L40%なの、それとは10%も違うから! あとここもベタでって言ったふ......まだまだノルマあるんだからシャッキとやるっふよ」
すいません。ほんまにすんません。ペコペコしながら指摘された箇所を修正していく。
どうしてこうなった!
パソコンに繋がったペンタブレットと呼ばれる代物をおっかなびっくり操作しながら、チラリと隣に視線を投げると涼しい顔で目にも見えない速さで指を動かしているヤツがいる。
「いおりんは本当に助かるっふ! いやはやここまで手先が器用だと神、神が降臨したかと思われ、どこかの通り名だけの七傑衆様とは大違いふわね。都っちも初めてにしては的確だし、すこぶる捗るっふ!」
「いやあ、ウチも長いこと絵を描いてるケド、これほど飲み込み早くって正確無比な描き手見たことないッス。マジで大当たり引いたヨネ」
うんうん頷き、和気あいあいと談笑するフジヨシ&早乙女両先輩とキメ顔のいおりん、都ちゃんは先ほどから一言も喋らずに黙々とパソコンを操っている。
「陽菜乃っち、だからそこは違うんダヨネ。ってかユウまるっきり才能ないネ......それに比べていおりんは既にカンストしちゃってるヨ」
いや、こないな人外と比較されても元々の才能が桁違いですから......だからそんなドヤ顔でこちらを見なくていいのよ?
よそ見したせいか大きく線がズレた。
「こうですか? わかりません! 教えてください!」
「腐フ腐 教えてあげるのはいいけどウチの授業料は高くつくヨ」
「ウチが教えてあげてもいいけど、時間あたりの単価はメガトン級ふ。ねぇマイ腐レンド」
何が可笑しいのか肩を叩きあって笑い転げる二人の先輩たち。
ため息をつきながら壁に掛かっている時計を確認すると現在の時刻は夕方の六時頃、土曜日だったため午前中には授業も終わり、俺といおりん、都ちゃんの三人はそのままフジヨシ先輩の住みかに連れて来られて合同本作製の手伝いをさせられている。
料理を覚えることを取ってもそうだけど、そろそろ認識を改める必要がありそうだ......要領が悪いのではなく不器用だと。
フッ これが若さ故の過ちといったところか。
青白い顔でブツブツ呟き、俺には根本的に不向きなのをどうか察して下さいよと画面を見ながら楽しそうに談笑している両先輩を見るが話に夢中で気が付いてくれそうもない。
「陽菜乃ちゃん......サボらない」
ぺチぺチとキーボードを操るも俺よりも数段早くノルマを達成していく都ちゃんにも注意されてしまった。
敢えて言おう。どうしてこうなった!
あんなに犬猿の仲だった二人が今や表裏一体と言っても過言ではないほどの仲の良さ。これも偏に紫月先輩といおりんの暗躍にプラスして俺も協力したことによる成果だ。
といっても俺がしたことは菜々子に相談しただけなんだけど、そのお陰か急転直下事態が好転することとなった......いやまさか、こんな所でこんな事をする羽目になるなんて木曜日のあの時点では思ってもいなかったのだけど。
あの日に菜々子がしたのは簡単なことで件の関係者と放課後、しぃちゃんには席を外してもらい理事長室で一堂に会しただけ、なんだけどそこに必殺アイテムと呼べるものを持っていったのは流石もと妹、現在は頼りになるお姉ちゃんであります!
必殺アイテム......白河先輩は校内では口元だけをオープンにしているペルソナを装着する特別許可を受けている。
それは先生でさえも正面からその人離れした御顔を直視してしまうとフリーズは必然。生徒に於いては気を失うのみ、そのため不測の事態に備えいつからか学校公認で仮面を被るようになったらしい。
それでも垣間見える瞳と夢幻的な口元だけでも半端ない威力を秘めているのですけど。
ちなみに俺もその場には同席を許されていた。仮面を付けた麗人の姿を目にした小寺先生、フジヨシ先輩、早乙女先輩三人の反応は目を見張るものがあった。
まさか白河 聖がこの場に現れるとは思ってもいなかったのか、腐女子属性とはいえ性別のカテゴリを超越した美の化身を目の前にして、アングリ口を開け言葉なく一様に固まるしかなかったようだ。
「無粋なことはなしで、ここはお二人とも嗜好を共にする同志として手を取り合ってくれないだろうか」
心に染み込む言の葉が紡がれ、それが白河 聖が自分たちに向け発した求めだと悟り、フジヨシ、早乙女両名とも極限まで顔を朱に染め惚けるのみ。
ペルソナに手を掛け近づく白河先輩に目を留めて小寺先生は息を呑み、いやいやと首を左右に振る。
「先生は私から目を逸らすことなく自分が正しい事をしていると証明できますか」
静かな佇まいで問いを投げると音を立てずに仮面を外す。外野からヒャハッやらゴ腐!などの奇声が轟く。
小寺先生も堪らず手で目を覆うも指の隙間から、その人を直視してしまったのだろう、くたくたと床に崩れ座り込んでしまった。
「相変わらずの御威光! お前は本当に仕事をするヤツだよ!」
バン!バン! 部屋の中に続けて大きな音が響く。
腐ホッ なんてことしてるのコノ人! フジヨシ先輩が絶叫するのも納得の叩いた本人以外からこの世のものとは思えね唸りが漏れる。
「だからキミは、どうしてすぐに私を叩くかな。実際のところかなり痛いんだよ......それ」
気にしなさんなと再度バシバシ叩くのを瞬間移動したかのようにスルーし、空振りした菜々子が姿勢を崩したのを舞い踊る動作で優雅に受け止める。
「ぐぬぬ 聖め! 腕を上げたものよ」
「フフッ 加速装置はお気に召しましたか」
カチッと歯を打ち鳴らし、お茶目なそれでいて極上の笑みをこぼす。
しまった......漫才でもしてるのかと思われる流れだったから、つい目で追ってしまったけど、幻聴じゃなくキラキラキラリーンと物理的な効果音が奏でられた白河先輩のほころばせた顔を直で見てしまった。
なんやかんやで心々菜ちゃんの応援やら菜々子に呼び出されて白河先輩と接した回数は多い。そんな俺でも心の準備もなくあの人の天上の笑みを目の前にすると鼓動が限界まではやくなってしまう。
早乙女先輩は......口から泡を吹いて白目を剥いてしまっている。フジヨシ先輩は......おおっ 目はハート型になっているけど、ノートにすごい速さで何かを書き込んでいるじゃない!
正気を保ってるのも凄いけど、瘴気とも呼べる黒きオーラを発して高速で手を動かしている。
白河先輩と菜々子が未だに床へ座り込んでしまっている小寺先生のところに向かったのを目の隅に捉え、いったいフジヨシ先輩が何を一心不乱に書いているのか気になった俺は横からひょいっと覗き込む。
うはっ そこには先ほど白河先輩が見せた絢爛たる笑みが緻密に描かれている。その絵には聖イズムが込められているのか目が離せなくなる。
「腐ハッ 不覚にも意識が飛んだっふ! 危なふ......間違いなく魂の底まで獲られるとこだった......ふっ! マジでエナジードレインされるから、ウチよこれ以上は見ちゃダメっふ!」
起きた瞬間に騒ぎ立てる早乙女先輩は何やら難しい顔で話し込んでる小寺先生たち三人から目を逸らすと、隣で精魂込めてペンを走らせるフジヨシ先輩に気が付く。
「いったいおマエさんは血走った形相で何を描いてるっふ? 腐ホッ!? なにコレ......胸の奥から込み上げてくる魂を揺さぶるこの感じ......ふっ!」
早乙女先輩はしばらく何も言わずに描き込みを見ていたが、再び驚愕の表情を浮かべ
「はひっ!? もしかしてもしかするとフジヨシって、フェティ・シズマ大先生でいらっしゃいますかっ!?」
心底驚いた叫びをあげた。
なにそのあり得ないペンネーム......。
「先生の本は全て最低三冊づつ揃えていまっふ! 最新刊めっちゃ楽しみにしてまふう! ......なんで腐? 既に完成してお持ちになっていると!」
早乙女先輩はその場で忍者のように垂直に飛び上がるとそのまま床に這いつくばる......なんの意味があるのだろうそのアクションに。
「今までの数々の非礼、誠に申し訳ありませぬ! 一度だけお目溢しを許して頂きたく、叶うのであればウチを先生の弟子にして下され」
「オモテをあげエイ! 昨日の敵は今日の友......苦しゅうないソナタをウチの愛弟子第壱号に任命しようゾ」
なにこの茶番劇......。
師匠、弟子ヨと固く抱き合う二人を呆然と眺めているとポンッと肩を叩かれた。
「先生から事情を聞いたよ。詳しくはしぃちゃんに私から説明しておくから陽菜乃は心配無用だからね。っと、なんだかあの二人すごく仲良くなってない?」
俺の話を聞き「ふむっ これなら二人手を取り合ってサークル活動やっていけそうだね。小寺先生も顧問引き受けるのやぶさかでもないみたいだし、まあ丸く納まって良かったね」
「それじゃ、弟子弐号、締め切り近いのがあるからそろそろいくヨ」
「はひゃあ!?」
フジヨシ先輩が力強く俺の脇の下に手を回し、ぴたりと息があったように早乙女先輩が逆側を支え、室内から連れ出そうとする。
「弟子とか全く志願してませんし!? 助けてお姉ちゃーん! 貴女の大事な妹が拉致られてますよ!?」
菜々子はフッと優しく微笑み。
「陽菜乃ならやれるよ。それいけッ」
どこに逝けというのですが、貴女の大切な妹が腐思議なナニかに染まってもいいのですか。
「大団円になるものさ」
スッチャッとペルソナを鮮やかに装着する白河先輩。
まったくなっていないと思いますけど。
思い出から現実に戻った俺は時計を見ると既に九時を回っているのに気が付く。
結局いおりんと都ちゃんを巻き込んでしまったわけだけど、二人には適性があるのか、なんやかんや楽しそうにやっている。
「都ちゃん、明日は『Diapason』で大事な撮影があるから、そろそろ帰ろうよ」
「陽菜乃ちゃんの......ノルマしてるとこ」
「ちなみに自分はのっちが描いたところを全て修正してるっすよ」
やれやれといった醒めた応えが『レ研』の仲間から返ってきた。
もう一度敢えて言おう。どうしてこうなった!!




