この想い心によせて
「アハハッ! では安全運転でいってみよう!」
軽快な紫月先輩の掛け声と共に、陽一が運転する黒野家所有の車は商業施設を後にする。
目指す場所はヘアーサロン『Diapason』
これより先輩と白露が、より理想的な女の子と成るためのヘアースタイリング作戦開始だ。
「しかし行きと帰りで、見事なまでに華やかになったもんッス!」
陽一が思わず溢すのも納得出来る。
俺はバックミラー越しに映る後部座席の三人に目を向けた。
シルエットは違えど白を基調にした可愛いらしいワンピの都ちゃんと白露、二人は生足に丈の高いブーツと示したように揃いの格好で、顔立ちは無論のことそっくりなため、中心に先輩と三人が並ぶと相乗作用が極限まで高まり、どこぞのアイドルグループにも負けない華やかさがあった。
三人とも色が白くメイクもしていないのに、艶やかな唇、ほんのり桜色に染まった頬といい......本当に堪らんッス!
俺は今回助手席に座り、マネージャー気分を満喫し、後ろ席にはもちろん先輩が真ん中に、そこが定位置のように鎮座している。
種類が違うものの統一感のある装いの顔形がそっくりな双子の美少女に挟まれた先輩は、至って上機嫌にハミングを奏でていた。
この三人をプロデュースして売り出したら、一攫千金も夢じゃなかろうか。
グフフと妄想にかられていると、どうやら陽一も同じことを考えていたようで、口元に邪な笑みを浮かべている。
「フフウーン♪ どのようなアレンジにしてもらおうかな......ハクはどういった髪型が自分に似合うと思う?」
急に話しをふられた白露は、買ったばかりのワンピースの裾をギュッと握りしめ顔をこれ以上ないぐらいに上気させる。
「髪型なんて......どんなのか判んないよ......陽菜乃ちゃん、僕どうしたらいいの!?」
動揺する白露に優しく言葉を掛けながら、俺はスマホを取り出し『Diapason』のHPを開いて渡す。
紫月先輩もこれには興味津々の様子をみせ
「はう! この娘......くせ毛風パーマがナチュラルなのにくびれ感が何ともマシッソヨ!」
ましっ......そよ? たまに先輩は意味不明のワードを素で紡ぐ、でもまあニュアンスからイイ感じの誉め言葉なのだろうけど。
「オオッ! この娘の髪型なんて白露にピッタリ合ってるんじゃない!?」
先輩イチオシの鎖骨ラインまでのゆるふわセミディヘアは、大人可愛い仕上がりをみせていて、とても女の子してる仕上りとなっている。
「モデルの娘......みんな可愛いから......僕なんて......無理だよ」
いやいや、白露の可憐さはこの中に入ったとしても飛び抜けると思うよ。
俺がそう思ったぐらいだから当然の如く先輩も同じ考えと目を向ける。
だがしかし、先輩はすでに違う世界に行ってしまってたようで画面を見たまま固まっていた。
「あれれっ!? これミヤだよね......なんかいっぱいコメント書かれていて、サイト内でもすごい人気じゃない! なになに『見てるだけで幸せな気持ちになります!』『いつも元気をもらってます♪』『Miyaちゃんみたいな素敵女性になりたいです!』だって......確かにどの写真からも輝くばかりの愛らしさが溢れ出ているね!」
先輩が興奮ぎみに捲し立てるものだから都ちゃんもすっかり照れてしまう。
「そんなことない......陽菜乃ちゃん......一番人気」
ああっ それを知られちゃダメ!
俺が都ちゃんの次の言葉を止める前に先輩は、そのページを見つけてしまう。
「すんごおおおお! ヒナ......キミのためだけに丸々何ページも特集が組まれているよ! なになに『現世に舞い降りた天使を発見!』『これぞ清楚なお嬢様の中のお嬢様!』『貴女のうなじに絡む髪になりたいの』マニアックだね......これなんて『愛してます!』うん、直球で愛されているね」
先輩がすんごおおおとか乱暴な言葉を喋るの初めて聞いたかも。
俺がそんな益体もないことを思ってる間に、先輩と白露は頬と頬が引っ付くのもお構い無しに目を丸くしながら画面を食い入るように眺めている。
あああっ 最後のページだけは見ないで下さいませ......俺の微かな希望を打ち砕く雄叫びが、次の瞬間に車内に響き渡った。
「なんどい! この夢見る乙女全開フルマキシマムな表情......こう胸を抉られるキュンキュンさ......こんな、こんな画像......見たことねえッス!」
先輩キャラクタ変わり過ぎじゃないですか?
そんなことなど今は問題ないとばかりに、先輩はスマホの画像を俺に向かってかざす......そこには、初めて『Diapason』へ行った際、夏江さんとジョーさんがそれは絶妙なアングルで撮ってくれた俺と孝のツーショットが映りこんでいる。
「ヒナ......この画像を通してキュンキュンくる胸の高ぶりは、ある意味......アートだね。 キミがこの彼に寄せる好きだという気持ち......喜びの感情が見るものの心を揺すぶり捉えて放さないよ」
先輩は真顔で言うけれど、孝......俺は本当に彼のことを好きなのだろうか。
孝とは小学生の頃から連れだって遊び、中学、高校と同じ所に通い長い時間共に過ごし何をするにも二人一緒だった。
体育祭や文化祭でのちょっとしたハプニングや、修学旅行に行った時なんて二人だけで別行動したため集合に遅れて、こっぴどく先生に怒られたこともあったけ。
孝は同じ学校の生徒や他校の娘からも告白されていたのにモテるわりに結局、在学中に特定の彼女をつくらなかった。
孝が特定の彼女をつくらなかった理由......それってなんでだろう。
俺のことをからかってはシリカルな笑みを浮かべていたけど、本心から大笑いしたり、本音トークを語るのは陽一だけっていつか溢してたよな。
イケメンで俺と違って男女問わず友達もいっぱいなのに、取り分け親しくしていたのはただ一人俺だけ......それってやっぱり俺が特別な存在だということなのだろうか。
その考えに胸の底からほっこりとした嬉しさがこみ上がってくる。
だけど俺はそこで気付いてしまう。
陽一......知らず隣の席でヒタッと前方を睨み付けるように運転に集中している陽一の横顔をまじろぎもせず見据えていた。
俺がこの身体になるまでの記憶を同じように持つ陽一......今の彼は孝のことを、いったいどのように思っているのだろう。
ダメだ、これではダメなんだ。
だろう、だろうと推測ばかりしていても埒が明かない、気持ちの整理が必要だ。
俺は陽一に向けていた視線を外すと車内を見渡す。
気が付けば物思いに沈んでいる俺に気を遣ったのか、先輩は白露と二人でスマホの画面を見ながら小さな声で話していた。
俺の困惑した気配を感じたのか、先輩はフッと顔を上げる。
バックミラーに映る俺の瞳と瞳をまじろがず合わせた。
「ヒナ......悩んだ時は、みんなで真剣に話してたどりついた『レゾンデードル研究室則』を思い出してごらん......キミは一人じゃないのだから」
そうだ。大事なことは俺自身が孝の事をどう思っているのかということ......ここは先輩の言うとおり『レ則』に基づき考えてみるのも一つの手かも知れない。
チームとしての指標 壱: 大戦略レベル
『右か左かの方向性を定める』
右か左か......好きか嫌いか。
俺は孝のことが好き、これは揺るぎのない真実。
右か左か......友情『ライク』か愛情『ラブ』か。
親友として好きなのか、恋人になって欲しいのか。今はまだ決めることなんてとても出来ない。こんな時は第五則の現象に惑わされず、常に本質を吟味するも合わせて考えてみよう。
俺が思う『ラブ』の行動。
『彼に会いたいと思う』『私に会いたいと思ってほしい』と思うか......強く思う。
電話どころかラインの一本もくれないなんて実際どうなんだろう、それとも俺と同じで送っても返信がなかなか来なかったり、素っ気ない文が返ってくることに気後れを感じているのかな。
『彼のために、尽くしたくなる』かどうか......尽くしたい。
まだ料理とかお菓子なんて、とても作れないけど出来るようになったら、好きな物をいっぱい作ってあげたい。
『二人っきりになりたいと思う』かどうか......なりたい。
映画を観たり、ショッピングや遊園地なんかにも二人きりで行きたいと思う。
Yes......Yes......Yes
俺は紫月先輩からスマホを返してもらい、とびっきりの照れ笑いを浮かべるツーショットの画像を、揺らぐ想いと淡く漂う不確かな何かを秘め、静かに見つめていた。




