紫と白のシンフォニー
いろとりどりの女性用シャツやカットソー、ジャケットなどが並ぶ派手やかな店内を、たかぶった気持ちを隠そうともせず、白露はキョロキョロしながら物珍しそうに、小声であれって何? これ可愛いけど大胆だよねと顔を上気させながら種類を問い掛けてくる。
俺は最近うろ覚えに学んだ女の子の服の呼び名を頼りなくだけど教えていく。
それでも白露は素直にへえ! はうう! と感心してくれる。
実際には間違っているかもとひやひやしながら乏しいながらも知識を総動員していると、試着室から華々しい装いの女の子が興奮さめやらぬ様子で飛び出してきた。
「アハッ ドヤッ!」
その女の子......紫月先輩は、たった今着たばかりの黒を基調にしながらも、散りばめられた異なる色が鮮やかに調和したニットワンピースの衿元を指で摘まみ、こちらに少し屈みながらシナをつくる。
そんな格好をするものだから、緩やかな曲線を描く衿元から覗く鎖骨部分が、きれいに浮き出ているのが目に飛び込んできてしまう。
なおかつ先ほど購入した赤色と黒色のレースをダイナミックにあしらったブラがチラ見えして、俺と白露は目のやり場に困ってしまい二人して赤くなりながら下を向いてしまった。
「アハハッ! 服のサイズは、ひと回り小さいのしか合わなくなったけど、たくさんの号数がある身の丈になったから、以前着てみたくても叶わなかった服が選び放題! 全くもってマーベラス!」
先輩は至りて満足したのか大きく頷き、まだぽおっと自分を惚れ惚れと眺めている白露に眼差しを向ける。
「さてっ......いよいよキミのターンとなったね」
先輩はそれは愛しそうに手を差し伸べ白露の手を優しく掴む。
「ぼ、僕は......いいよ」
ここに来てまで戸惑いをみせ消極的な態度の白露に、先輩はそれは力強い視線を送る。
「ダメ......ここにきてキミはそれでいいの......そんなことで自分に納得出来るのかな」
先輩は言い聞かせるよう白露の真意を問う。
「ぼ、僕は......そ、そうだよね こうして想い描いていた理想的な姿に成った。恥じることなど何もない......無いのだよね」
はじめは自信なさそうだった呟きも、いつしかしっかりとした言葉となっていた。
「そう......ボクたちは何もじぐじした思いを味わう必要など無い......そんな事を気にする必要のない存在に成れたのだから」
それはもの柔らかな口調でしかしきっぱりと断言する。
「さあ! キミにとてもよく似合う出で立ちを、そろそろセレクトするかな」
紫月先輩は、見るものを幸せにする笑みをたたえると、白露の手を引っ張ると確かな足取りでワンピースコーナーへ連れていった。
先輩が白露のために選んだのは、白と黒の彩りが美しいボーダーカットのドッキングワンピ。
フレアーシルエットがボリューム感を出し、キュートなスカートと大きめのドルマンスリーブがゆったりとした女性らしいシルエットを色づけている。
「ど、どうかな......変じゃない?」
白露は恥ずかしさと喜びと一抹の恐れが混ざり合ったような表情を浮かべ、不安げに俺たちの前に立ち着用した。
「クール......極めてエクセレント!」
白露の清楚なとても女の子している姿に自分を重ねたのか、紫月先輩は込み上げてくる想いを噛みしめ胸が一杯といった様子で、低く感嘆の声を上げそのまま言葉なく佇む。
「ボクたちのこの胸の高鳴りを抑えることは、誰にも止められない......さあ、白露いくとしよう」
紫月先輩は、白露の手を引き会計を済ますためにレジへと向かう。
丁度そのタイミングで俺のスマホに陽一からの着信を知らせるゲームのBGMが鳴り響いた。
※※※
陽一、都ちゃんは現実離れした美少女に変貌した二人を見るなり、感動していうべき言葉を失い、びっくりしながらも至って感慨にふける。
しばし二人の装いに話が弾んでいると、どこからかキューと小動物が鳴くようなボイスが、続いてくううと唸り声みたいな音も聞こえてきた。
「あははっ......お腹空いたかも」
「朝......何も食べてない」
俺と陽一も朝食をしっかりとってきたはず、なのにその音を聞いたことにより急にお腹が空いてきた。
現実的な問題解決のため少し遅めのランチを満場一致でとることとなった。
昼のピーク時を過ぎ、それでも八割ぐらいの席がうまっている洋食屋の店内でもテンションの高い先輩は、常に場の中心となってムードを盛り上げている。
皆は一様に感心したり、心から楽しそうに先輩が話すことに相づち表情を緩める。
相手を楽しませるということは、人を惹きつけるだけでなく周りの人を大切にするということ、自然体でそれが当たり前のように出来る先輩はやっぱり只者ではない。
スタンドポイントという人の心の内が透けてみえるスキルを持つ、言い換えればそれは相手が今何を望んでいるかを瞬時に理解し実行できる......気配り上手ということ。
メインディッシュも終わり、お腹も一杯となってくつろぎながら食後の飲み物を頂いていると、先輩が都ちゃんをじぃと見詰めているのに気が付いた。
「今更だけどミヤのその髪型......サラサラなのにボリュームがあり艶やかで驚くほどにプリティなんだよね......いったい何処でカットしてもらったのか教えてくれる?」
最後は目をキラキラさせ両手を口の前に持ってくるとお願いポーズを決める。
――先輩ってカラーリングもしていないのに微かにピンクに輝くネイルといい本当に女子力高すぎ!
俺はその組んだ指先に目を釘付けとなりながら、ついつい思わずにはいられない。
「ハクも髪型変えたら、よりいっそう綺麗になれると思うな」
あやかりたい 言い募るものだから、都ちゃんが何か言いたそうにこちらに目を向けた。
察しのいい先輩は俺をマジマジ注視する。
「ヒナ......キミか! 前からお洒落な髪型してると思ってはいたのだけど......ミヤとは流派は同じでも何処となくイメージが異なる......ヒナにはとても似合ってはいるけどね」
照れるようなことを平然とした顔で言う先輩に、友達の家がヘアーサロンを経営していて、そこでカットしてもらってること、俺と都ちゃんは別々のスタイリストさんが担当してくれていることを話して聞かせた。
いいな、ボクもシックにカットして欲しいなとおねだりする先輩。俺も二人がより一層お洒落になることに異存があるはずもなく、それではっと彩帆ちゃんのスマホに連絡をいれる。
ダンス部の練習が午前中に終わり、午後からサロンの手伝いをするのと明るい声で応える彩帆ちゃんに、予約状況を確認してもらう 残念ながら夏江さんは予約で埋まってしまっていたが、ラッキーなことにジョーさんとサユさんが、一時間後には空くとのことで急遽予約して貰う。
『ねえ、陽菜乃ちゃん......すごく楽しそうだけど、いったい誰を連れてくるの』
電話の向こう側で彩帆ちゃんが俺の心浮き立つ気配を察して尋ねてくる。
それは行ってからのお楽しみ、ついでとばかりに陽一も一緒に行くことを告げる。
彩帆ちゃんが息を呑む音が微かに伝わってきた。




