身体測定それぞれの戦い!(前)
超然とした立ち姿の二人連れは、俺の姿を見つけたのか、その内の一人が嬉しそうに手を振り
「陽菜乃、おはようー! ますます可愛さに磨き掛かったんじゃないの......その髪型とても似合ってるよ!」
彩帆ちゃんとはまた違った意味での俺の師匠、元妹の菜々子がよく通る声を出しながら、満面の笑みで駆け寄ってきた。
その隣に立つのは、紫月先輩? いや違う、研ぎ澄まされた眼差しは冴衣先輩だ。
「やあ 陽菜乃に彩帆、昨日は大義であったな」
俺たち二人に何者も寄せ付けない凍てつく立ち姿から一転、気安く挨拶する冴衣先輩に驚きを隠せずにいる菜々子。
「えッ? なんでなんで いつの間に知り合ったの......というか昨日はってなにごとよ!?」
俺はかいつまんで昨日の出来事を菜々子に説明した。
「ええッ!? そんな愉快で派手なイベントあったなら、なんでお姉ちゃんに電話してこないかな」
本気で愚痴る菜々子......この様子なら電話してたら確実にすっ飛んできてたよね。
「なんだ、菜々子の一門なのか。いわれてみれば何処となく似ていなくはないな」
そんな会話が終わらぬうちに突如、菜々子は俺にムギュッと抱きつき胸に顔を埋めてきた。
「ふひょおおッ! なにしてますのこの人!?」
「はあはあッ 新品の体操服の清潔な匂いと何とも芳しい陽菜乃の香りのコラボ! はうッもう堪らんのじゃ!」
ぐりぐり顔を押しつけ、くんすか鼻息を荒くする。
「ちぃッパイ......だがそれがまたイイ!」
パスコーーン!
「お主! どれだけセクシャルハラスメントしたら気がすむのだ!」
冴衣先輩の手刀が菜々子の後頭部にめり込む。
「イタタッ 冴衣よ、判ってないのー! 可愛いいは正義じゃい!」
「時と場所を考えれ!」
いや、時と場所考えられてもそれはそれで困るのです。
まだ計測途中の二組とこれから測るためにやって来た三組の生徒が遠巻きに何事かと見守る
。
「菜々子お主のせいで目立ってかなわん さっさと我らの任を全うするぞ」
引き摺られるように連れて行かれながら、それでも陽気に手を振る。
菜々子......聖先輩にもパシッンと叩かれていたけど、いい加減に自分を抑える術を学ばなきゃ折角の形よい後頭部がへこんじゃうよ?
「あはッ 相変わらず陽菜乃ちゃんモテモテだね」
いや単に、オモチャにされてるだけなんですけど。
「どうやら二年の先輩たちがアシスタント任されてるみたいだね、それはそうと菜々子先輩と冴衣先輩って仲が良いみたいね」
超然とした物腰と抜群のスタイルを併せ持つ二人を憧れと慕情の混じった瞳で見詰める下級生たち。
菜々子も黙っていれば冴衣先輩と遜色ないクールビューティな美人なのに、もったいないことです。
「やっぱり一ノ宮さんってすごいんだね!」
今日はやたらと三成さんが俺に羨望の眼差しを注いで話し掛けてくる。
「nanakoの従姉でめっちゃ可愛がられているだけでも、とんでもないのに、しかもあの桐原先輩とも知り合いなんだね! あの人を前にして普通に会話できるだけでも憧れちゃうな」
実際は俺自身は羨ましがられるようなもの何も持ってないんだけどねと本音をこぼす。
「なに言ってんの! 一ノ宮さん自分がどれだけ魅力的か、ちっとも解ってないんだから......まあそんなところも素敵なところなんだけど」
三成さんは、顔を真っ赤に染めてもじもじと呟く。
「そろそろ三組の番になったみたい 二人とも行こうよ!」
俺は彩帆ちゃんのその言葉を聞いて無意識に三成さんの掌を握るとみんなの所に向かった。
「あっ......へへッ ラッキーかも」
三成さんは嬉しそうに囁きギュッと力を入れて握り返してきた。
「それでは、出席番号順にペアになって身長と体重それと胸囲、座高を測って下さいね、順不同で空いている所に並んでね」
二年の上級生が皆に説明する。
それを聞いた三組の生徒の間に、ごく短い間だが確かに緊迫した空気が漂った。
「ごふッ......我が覇道に生き、想い通じなりし ありをりはべりいまそがり!」
独り何事か語りて悶絶している生徒......あれは出席番号十番『戦国乙女レキージョ』の二つ名を持つ近藤さん、なにゆえか彼女から『乙女ロード開拓ラブ』唯我独尊な代表を彷彿とさせる腐思議な何かを感じる。
恍惚とした顔付きしてるけど、ペアは出席番号九番の子なのか......都ちゃん貴女にご武運があらんことを!
そう今はそれが、かけがえのない仲間だろうが人の心配をしている余裕はない、まずは自分の身を守ると同時に、なおかつ攻めるべき時ではないか!
俺はペアとなる我が永遠の宿敵 庵 渚にキリリッとした目線を送った。
「小娘よ どこからでも掛かってくるがよいっすよ。かるーく返り討ちにしてやるっす」
いおりんは、ふふんッと不敵に口許を緩め宣誓する。
「無難なところ、身長からいこっか」
「そっすね」
なんやかんやいってお互い不安なところがあるのか、先ほどまでの空元気はどこに? トボトボ身長測定の列に並ぶ。
俺たちの順番が来てアコーディオンカーテンの中に入ると、そこには冴衣先輩が静かに立っていた。
「私が測るから相方は記入する。以上だ」
なんとも素っ気ない用件だけの通達があり、昨日あれからリョウに何を買ってもらったか聞こうと思っていた俺は、開きかけた口を閉ざした。
いおりんも紫月先輩のことを何か聞きたかったのだろうけど、同じく口を閉ざしている。
「これ、同時に体重も測るから忘れず両方記入するように」
「「!!」」
いおりんは、物理的な衝撃を受けたかのようによろよろと一歩後退する。
イヤイヤと首を横に振り母犬とはぐれた仔犬のような瞳で俺を見詰める。
残念なことだが、その瞳に少しもキュンとなる要素は見当たらない。
しかし元男として先陣を務めるべく、俺は台にせいッやと掛け声あげて乗ってみた。
これでもか! 背筋をピンッと張り首を極限まで伸ばし、少し踵を浮かしてみる。
ガツーーン 結構な勢いでお洒落にセットされたヘアー頭頂部に、冴衣先輩によって測定計のバーが下げられる。
「ふふッ 陽菜乃よ踵浮いているが、何処まで耐えるつもりなのかな」
とても片手とは思えない力で、ぐいぐい押さえつけられる。
覆い被り密着された状態のため先輩がはっする仄かな淡く香しい体の匂いが鼻をくすぐる。
「はにゃああッ?」
ついに力尽き踵がペタリと測定面に引っ付いてしまった。
「身長155.2cm......体重......ぬぬッ? 44.4Kgだと!?」
言葉を失う二人、それとは別に俺も息ができないほど驚いていた。
身長低すぎでない? 冴衣先輩押さえ過ぎだよ!
まだヒリヒリする頭頂部に手をやりながら測り直しを頼もうとした俺は、二人の冷めた眼差しに言葉が出なくなる。
「そ、それじゃ庵さんどうぞ」
ギロリと俺を睨むといおりんは仕方ないっすね、とボヤきおもむろに体操服を脱ぎ出した。
はひッ ブラまで外そうとしてる!?
「ちょい待ち、それらの分は差し引かれているから脱ぐ必要ないぞ」
ちぇッと小さく舌を打つと伊達メガネを外して俺に投げ寄越し、観念したのか台に乗る。
「身長161.6cm 体重ピィー.ピィー」
個人情報保護法もあるし聞こえなかったことにしておこう、しかし身長6cmも差があったのか......けっこうショックかも。
冴衣先輩は、どんより落ち込み外に出ようとしている俺たち二人に低く言葉を掛けてきた。
「あいつ......紫月に、本当に困ったことが起きたならば、私を頼っても構わぬと伝えてくれ」
目を細めそれ以上は何も言わない、言わさないとばかりに俺たちが外に出るようジェスチャーで示した。




