身体測定それぞれの戦い!(後)
体育館の一画に設置された身体測定を行うためのブースは、白の真新しい体操着の女子生徒たちがひしめき、女の子特有の甘やかな芳香をあたり一帯に散りばめている。
俺はそんな女子校ならではの耽美な空間に少しクラクラしながら、相方のいおりんと次の測定を行う胸囲ブースに行き、順番待ちをしていた。
「はあうッ のっちに体重ばればれになったっす」
いおりんはどんより落ち込み、うら寂しく独りごちる。
「はうあッ そんなこと言うけどいおりん身長高いし、スラリとしてるからいいじゃない」
男の時も身の丈が人より低く引け目を感じていたのに、女の子になっても平均より低い身長に、俺も意気消沈していた。
「いおりん、それに思っている以上に、その......ボリュームあるしさ」
制服の時は大して目立たなかったが体操着になったことにより、こんもり盛り上がりを見せる彼女のその膨らみを、これなら少しぐらい重くっても仕方ないよねとまじまじ凝視してしまう。
うん、こういった時は同性って遠慮なく見ても変に思われないから、その点はいいよね。
「のっちって、時たま容姿からは考えられない程の邪視を放つことあるっすね」
「ええッ!?」
俺はいおりんが急にそんなことを言うものだから計らずもドキマキしてしまった。
「本人気が付いてないかもっすが、口許ニヘラってそれは愉悦な笑みを浮かべているっすよ」
がーん! なんたることでしょう。
我知らずそんな顔してたなんて、女の子になったこと他人にの視線に敏感になっていたのに、自分が放つ目付きに思いが及ばないとは、同性とはいえ注意が必要ってことなのね。
俺がまたもや灰色の空のような気持ちになって落ち込んでいると、アコディーオンカーテンで覆われた胸囲測定ブースから
「ヒトざまヨウボウなど、いとかくしもぐしたらーむ!」
なにやら興奮しきった呪文のような咆哮が聞こえ
「キャッ......!?」
続いて都ちゃんと思わしき切羽詰まったような声が聞こえてきた。
俺といおりんはお互いを見交わす。
「失礼します! 三組の委員長と副委員入ります」
いおりんはとっさに、一言断りを入れカーテンを押し分け、俺の手を引き中に入る。
「こっち! 大丈夫っす?......かッ!?」
「ちょっと......ダ、ダメだから」
そこではレキージョ近藤が都ちゃんの体操着とブラを捲り上げつつ背後に立ち、むんずと類い稀なる双丘を鷲掴みにして、むさぼるように揉みしだいでいる姿があった。
片方の掌には収まりきらない溢れるばかりのボリュームを秘め、わさわさ揺れる......それは激しく上下左右に揺れている!
俺はあまりにピンク色な光景に、頬が赤く染まりながら測定補助しているはずの上級生は、なんで黙ってみているんだろうとキョロキョロ辺りを見回す。
そこには、ニヘラと邪な笑いを浮かべながら傍観している菜々子の姿があるじゃない!
俺がその、ものすさまじいまでの邪悪な笑みに、戦慄を覚えうち震えている横で、いおりんがぼそり溢す。
「びっくりするっす! のっちと瓜二つな喜色満面な表情っすね、さすが身内なことはあるっす!」
俺はくたくた崩れ落ちるほどの精神的ショックを受ける。
『あんな表情してたのね......人の振り見て我が振り直せる?』
「これをたてまつらんとイひたり、まことのココロザシなりや!」
戦国乙女近藤は訳がわからない文言を呟きながら一心不乱揉む揉む、ひたすらにモミモミしまくる。
「ダメ......なんだ......から」
都ちゃんは恥ずかしそうに声を絞り、しかし段々と顔を上気させていく。
ごっくんと誰かの唾を呑み込む音が小さく響き、都ちゃんの色香をふくみ始めた声と野獣近藤のすでに声にならないうめきが、ブースにエコーする。
「もう......ダメ」
都ちゃんは、ついに堪りかねその場にしゃがみ込んでしまった。
それでもまだ覆い被ろうとする暴走モード近藤を菜々子が背後に立ち、何処からか取り出したハリセンで、後頭部をパシンと大きな音を響かせて叩く。
「いといたし!?」
「ハーイ いい加減にストップ! それ以上はダメだよ」
「なにーか」
不満げに視線を向けたレキージョ近藤は、しかし菜々子と目が合うと、虎と藪から棒に出合ってしまった小動物のような反応を見せ、続いてオドオド怯えながら
「をを......」小さく首を縦に振り
「人のシすべきトキ至らば、キヨく身を失いてこそ勇士のホンイなるべし Byゆきりん」
ブツブツ呟きブースからフラフラ出ていった。
「都ちゃん大丈夫?」
俺は崩れ落ちるよう座り込んでしまった都ちゃんの乱れ捲れ上がってしまっている体操服を、なるべく白いすべすべの肌を見ないよう整えながら声を掛ける。
「あっ......ん......陽菜乃ちゃん......」
俺を放心したように見つめる都ちゃん、首筋まで真っ赤にしてとてつもなくコケティッシュな艶かしさを発散している。
「都ちゃんだったよね? それじゃお姉ちゃんがしっかりバストサイズ測ってあげるね!」
今までのことなど無かったかのような態度で、菜々子はメジャーを片手に破顔すると茫然自失の都ちゃんの背後から、ひょいっと両脇に手を入れて彼女を立たせる。
「ひゃい......!?」
「陽菜乃だったら立ったままでも全く問題ないんだけど、貴女ほどになると精確に測るには九十度おじぎしてもらった方がいいかな」
なんか今、この人グサッとくることをさらりと言いましたよ!
だいたい今時分、胸囲って測らなくてよくなったんじゃないの......。
俺がぶつくさそんな事を考えてる間に菜々子は都ちゃんを前屈みにすると、体操着を捲し上げ外れてしまっていたブラも上にずらし、背中側からメジャーをやんわり巻き付ける。
「あっ......」
「ふふッ メジャーを人肌に温めておいたから冷たくないでしょって ふはッ!? なにこの......前屈みになると更にヤバすぎだよ!」
「のっちは視線がヤバ過ぎっす」
俺が二人のやり取りを食い入るように見聞きしているのを、いおりんは冷めた声で戒める。
「ぬおおおッ トップとアンダーの差25cm......パーフェクトのF! なんと陽菜乃の倍! その差二倍もの開き、これは陽菜乃にとって女子力いかんともしがたし! 何にしても形も円球型でまさに理想のフォルムだよ」
だからいちいち俺を比較対象にせんでよいのよ?
「それじゃ続いて、そっちの娘......委員長? 測りますか」
菜々子すこぶる嬉しそうだな、俺がそんなことを考えているといおりんが、少し言い難そうに
「のっちは見とかなくっていいっすから......なんか視線といい、男の子に見られてる感じがするんすよ」
それを聞いてドキりとする。
いおりん何やかんや言いながらも感鋭いんだよね。
「おっと! 着痩せするタイプきたーーよ! どれどれお姉ちゃんに全てを委ねるがよい!」
あのいおりんが笑顔を取り繕っている、どうやら菜々子は苦手な手合いなんだな。
「陽菜乃ちゃん......」
ふらふらと着替え終わった都ちゃんが俺の隣に並ぶ、上気してた顔色もいつもの様子に戻っているけど、目が少々上の空なのが心配だ。
俺は都ちゃんの掌を少し力を入れて握り、顔を向ける。
「大変だったね......」
うんっと力なく頷く都ちゃん。気がつくと俺はマジマジとそのパーフェクトな代物を万感の思いを込めて熟視していた。
「もう......えっち」
都ちゃんは恥じらいながら小さく溢す。
そ、そうだ彼女は視線に敏感だったんだ。
「はうう!? う、羨ましいだけで他意はないんだからね」
あたふたと言い訳する俺をじぃと見詰めて、少しするとキュートに小首を傾げてクスっと笑う。
「じゃーん! 委員長のサイズは、対陽菜乃1.5倍の18cm Dカップだよ!」
だからいちいち俺を持ち出し比べなくってもよくなくないッスか?
「三人を称するとデカ!! なかなか! しょっぱい......だね」
おい! 俺だけその表現どうなのよ
「もう! 菜々子......お姉ちゃん、さくっと私も測って終わらせてよ」
かなりの時間が俺たちに掛かってしまっている。
「ああ 陽菜乃のなら、さっき顔埋めた時に測り終えてるよ......ブラ分を差し引くと12.4cmのBカップで間違いないよ やったね!」
さも当たり前のように言い切る菜々子、お前は顔で指触測定出来るのかよ!
――彼女なら出来そうです。
陽気に笑う菜々子を横目に大・中・小の三人は顔を見合せ、乾いた笑いをもらすしかできなかった。




