安心して眠れる夜
第7話は、悠斗が「安心して眠れる」という感覚を、少しずつ覚えていく回です。
最初の頃の悠斗は、
* 「途中で起きたらどうしよう」
* 「また間に合わなかったらどうしよう」
* 「絶対失敗したくない」
そんな不安をずっと抱えていました。
だから、夜や長時間の移動は特に苦手でした。
でも今は違います。
奈々と美咲と一緒に過ごす中で、
「もしもの時も大丈夫」
と思えるようになってきています。
今回は、大きな事件が起きる話ではありません。
でも、
* “安心して眠れること”
* “無理をしなくていいこと”
* “一人じゃないこと”
を、静かに描いた回です。
その日の夜。
悠斗は、自分の部屋のベッドへ寝転がっていた。
スマホの画面には、奈々たちとのLINEが開いている。
『今日めっちゃ並んだね』
奈々からのメッセージ。
悠斗は思わず笑う。
『90分長すぎ』
すぐに返信が返ってきた。
『しかも全員やばかった』
悠斗は吹き出した。
『あれはしょうがない』
少しして、美咲もメッセージを送ってくる。
『でもちゃんと楽しめたね』
その言葉を見て、悠斗は少しだけ画面を見つめた。
――ちゃんと楽しめた。
前の自分だったら、たぶん無理だったと思う。
待ち時間が長くなった時点で、ずっと不安だったはずだ。
「どうしよう」
「大丈夫かな」
そればっかり考えて、遊園地どころじゃなかったかもしれない。
でも今日は違った。
ちゃんと笑えた。
ちゃんと楽しめた。
それは、“安心できる”と思えたからだった。
⸻
悠斗はスマホを胸へ乗せながら、小さく息を吐く。
部屋は静かだった。
外では、少しだけ風の音がする。
机の上には、今日遊園地で買ったキーホルダーが置いてあった。
奈々と美咲と、おそろいで買ったものだ。
悠斗はそれを見ながら、小さく笑う。
(なんか不思議。)
最初は、夜行バスで会っただけだった。
知らない高校生のおねえさん。
正直、最初はかなり緊張していた。
でも今は違う。
LINEをして。
一緒に遊んで。
普通に笑っている。
それがなんだか不思議だった。
⸻
その時。
スマホがまた震える。
『悠斗くんもう寝そう?』
奈々からだった。
悠斗は少し考えてから返信する。
『ちょっと眠い』
するとすぐ返事が来る。
『子どもだ』
悠斗は思わず顔をしかめる。
『奈々おねえちゃんも絶対眠いじゃん』
数秒後。
『バレた』
その返事がおかしくて、悠斗は笑ってしまった。
⸻
少しして。
お母さんが部屋を覗く。
「そろそろ寝なさい。」
「はーい。」
悠斗はスマホを置き、ベッドへ潜り込む。
毛布の中は暖かい。
今日はいろんなことがあった。
遊園地。
長い待ち時間。
ジェットコースター。
笑いすぎた帰り道。
そして、“大丈夫”って思えたこと。
悠斗は小さく目を閉じる。
前は、寝る前って少し不安だった。
途中で起きたらどうしよう。
朝まで大丈夫かな。
そんなことを考えてしまっていた。
でも最近は違う。
“ちゃんと準備してる”。
それだけで、かなり気持ちが楽だった。
それに。
“分かってくれる人”がいる。
その安心感も大きかった。
⸻
悠斗は布団の中でもぞっと動く。
それから、小さく呟いた。
「……安心優先って大事かも。」
少し前の自分なら、そんなこと絶対言わなかったと思う。
でも今は、本当にそう思っていた。
“無理して不安になる”より、
“安心して楽しめる”ほうがいい。
奈々と美咲は、ずっと自然にそうしていた。
そして最近、自分も少しずつそうなってきている。
⸻
スマホが最後に一回だけ震える。
『おやすみ〜』
奈々からだった。
悠斗は少し笑って返信する。
『おやすみ』
そのあと、少し考えてからもう一通送る。
『今日は楽しかった』
数秒後。
『また行こうね』
その返事を見た瞬間、悠斗はなんだか安心した。
また会える。
また一緒に笑える。
そう思えることが、嬉しかった。
⸻
悠斗はスマホを枕元へ置く。
部屋の電気はもう消えている。
静かな夜。
でも今日は、不安より安心感のほうが大きかった。
悠斗は小さく目を閉じる。
そしてそのまま、安心した気持ちのまま眠りへ落ちていった。
第7話は、“安心して眠れること”をテーマにした静かな回でした。
このシリーズでは、
“失敗そのもの”より、
* 不安で眠れないこと
* 一人で抱え込むこと
* 「また起きたらどうしよう」と怖くなること
のほうを、つらいものとして描いています。
だから今回の悠斗は、
「ちゃんと安心して眠れそう」
と思えていること自体が、大きな変化でした。
また今回は、
“特別な出来事”より、
* LINEのやり取り
* 寝る前の安心感
* 「また行こうね」と言える関係
を大切に描いています。
最初は偶然出会っただけだった三人が、
今では「また会えるのが当たり前」みたいな関係になっている。
第7話は、そんな“日常になっていく安心感”を描いた回でした。




