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夏の失敗、ふたり分 悠斗視点  作者: たい


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遊園地の待ち時間

第5話は、悠斗が初めて「一人じゃない安心感」を強く感じる回です。


夜行バスで偶然出会った奈々と美咲。


最初は少し恥ずかしくて、なるべく隠したかったこと。


でも今回は、


* 渋滞の不安

* 長い移動

* 「また間に合わないかも」という焦り


を共有する中で、悠斗の気持ちが少し変わっていきます。


特に今回は、


「安心できる準備があること」


だけではなく、


「分かってくれる人がいること」


その安心感を大切に描きました。


悠斗にとって奈々と美咲が、“ただの年上のおねえさん”から、“安心できる存在”へ変わっていく回です。

遊園地は、人がいっぱいだった。


入口の音楽。


甘いポップコーンの匂い。


遠くから聞こえる歓声。


悠斗は思わず目を輝かせる。


「すごっ……!」


お父さんは苦笑いしていた。


「朝から元気だな。」


「だって遊園地だもん!」


悠斗はパンフレットを握りしめながら、きょろきょろ周りを見る。


その時だった。


少し前の列に、見覚えのある二人が見えた。


「あ。」


奈々と美咲だった。


悠斗は思わず声を上げる。


「おねえちゃんたち!」


二人が振り返る。


奈々が目を丸くした。


「うそ、また!?」


美咲も笑っている。


「偶然すぎる。」


悠斗はなんだか嬉しくなった。


最近、本当に何回も会っている。


最初は夜行バスだけだったのに。


今では、“また会った”が普通みたいになっていた。



三人はそのまま同じジェットコースターの列へ並ぶことになった。


でも。


「……長っ。」


奈々が顔を引きつらせる。


表示は【90分待ち】。


悠斗も少し固まった。


「ながい……。」


でも、せっかくだから乗りたい。


三人は列へ並びながら話していた。


最初は普通に楽しかった。


でも、一時間くらい経った頃。


悠斗は小さく姿勢を変える。


「……っ。」


少し近い。


今日は寒かったから、入園前にジュースをかなり飲んでしまった。


しかも、待ち列は途中で抜けづらい。


悠斗は小さくため息を吐く。


(やっぱ遊園地って危ない……。)


その時。


奈々も小さく肩を震わせた。


「……やば。」


美咲が苦笑いする。


「奈々も?」


「ココア失敗した……。」


三人は顔を見合わせる。


そして、ほぼ同時に苦笑いした。


「全員じゃん……。」



列はゆっくり進んでいく。


でも、まだ建物の外だった。


風が冷たい。


悠斗は上着を少し抱え直す。


今日は、ちゃんと準備してきていた。


前みたいに、


「今日は大丈夫かな」


じゃない。


“長時間になる場所は危ない”。


ちゃんと分かっていた。


だから今日は最初から安心優先だった。


悠斗は少し照れながら言う。


「ぼく今日、ちゃんと準備してる。」


奈々は吹き出した。


「えらい。」


「雪の日で学習した。」


その返事に、美咲も笑う。


悠斗も少し笑った。


最近、“準備してること”を前ほど隠したくなくなっていた。


この二人なら、変な顔をしないって知っているから。



建物の中へ入る頃には、かなり限界に近かった。


暖房も効いている。


それが余計危ない。


悠斗は小さく息を吐く。


「……ちょっとやばい。」


奈々が吹き出す。


「ほんとに全員だ。」


でも、不思議と前みたいなパニック感はなかった。


“もしもの時も大丈夫”。


その安心感がある。


それに。


“自分だけじゃない”。


それがかなり大きかった。



少しして。


奈々が小さく息を吐いた。


「……使うかも。」


美咲はそっと頷く。


「うん。」


奈々は少し恥ずかしそうに身体の力を抜く。


じゅっ……。


小さな音。


じわぁ……っ……


悠斗は少し顔を赤くした。


でも奈々は、“終わった”みたいな顔じゃなかった。


「……はぁ。」


安心したみたいに笑っている。


悠斗はその空気を見ながら、小さく思う。


(こういう感じなんだ。)


前は、“絶対ダメ”って思っていた。


でも今は、“安心できるならいい”って思える。


奈々が小さく笑う。


「助かったぁ……。」


悠斗もつられて少し笑った。



その数秒後。


悠斗自身も限界だった。


列が少し動く。


でも、乗り場まではまだ遠い。


悠斗はブランケット代わりの上着をぎゅっと握る。


「あっ……。」


小さな声。


それから、そっと力を抜く。


じゅわっ……。


温かさがゆっくり広がる。


張っていた感覚が少しずつ消えていった。


「……はぁ。」


思わず息が漏れる。


少し恥ずかしい。


でも、“間に合わなかったらどうしよう”って怖さは消えていた。


奈々が小さく笑う。


「大丈夫?」


悠斗は顔を赤くしながら頷いた。


「……うん。」


それから、少し照れながら笑った。


「やっぱ安心。」



そのあと。


美咲も小さく肩を震わせた。


奈々が吹き出す。


「美咲もじゃん。」


「……お互い様。」


三人は顔を見合わせて笑った。


最初に夜行バスで会った時は、こんなふうに笑えるなんて思わなかった。


でも今は、不思議と自然だった。



そして数分後。


ようやくジェットコースター乗り場が見えてきた。


奈々は元気を取り戻したみたいに笑う。


「生き返った……。」


悠斗も頷く。


「ぼくも。」


その時。


悠斗はふと思った。


今日は待ち時間が長かった。


寒かった。


飲み物も飲んだ。


前だったら、ずっと不安だったと思う。


でも今日は違った。


ちゃんと楽しかった。


悠斗は少し照れながら呟く。


「……大丈夫って思えると遊べるね。」


奈々は少し驚いた顔をしたあと、笑った。


「うん。」


美咲も静かに頷く。


その瞬間。


悠斗はなんだか少し嬉しくなった。

悠斗視点の第6話では、


「安心して楽しむ」


という感覚を、悠斗自身がかなり自然に受け入れ始めています。


特に今回は、


* “不安を減らすための準備”

* “分かってくれる人がいる安心感”

* “我慢しすぎなくていい空気”


が、かなり大きな存在になっています。


最初の頃の悠斗は、


「絶対隠したい」


という気持ちが強かった子でした。


でも今は、


「安心できるなら、そのほうがいい」


と、少しずつ考え方が変わっています。


そして遊園地という、


本来は“楽しい場所”なのに不安にもなりやすい場所で、


ちゃんと最後まで楽しめたこと。


それが、第6話で一番描きたかった変化でした。

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