表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏の失敗、ふたり分 悠斗視点  作者: たい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/18

「渋滞の帰り道」

「今日は大丈夫だと思ったのに。」


少し慣れてきた頃ほど、不安は急にやってきます。


今回の第2話では、悠斗くんが初めて、


“準備が足りなかったかもしれない不安”


を強く感じる回になっています。


夜行バスで奈々と美咲に出会ってから数週間。


悠斗くんの中には少しずつ、


「自分だけじゃない」


という安心感が生まれ始めていました。


でも今回は、


* 渋滞

* 長い待ち時間

* 飲み物

* “今日は平気かも”という油断


が重なっていきます。


そして悠斗くんは、


「安心できる準備があること」


の意味を、改めて実感していくことになります。


少し恥ずかしくて、

でもどこか安心できる。


そんな帰り道の空気を、感じてもらえたら嬉しいです。

文化祭シーズンの日曜日。


悠斗は、お父さんと一緒におばあちゃんの家から帰る途中だった。


でも今日は、高速道路がかなり混んでいた。


窓の外には、赤いブレーキランプがずっと続いている。


バスは少し進んでは止まり、また少しだけ進む。


悠斗は窓へ頭を預けながら、小さくため息を吐いた。


「……全然進まない。」


お父さんも苦笑いする。


「事故渋滞らしいな。」


悠斗は少しだけ嫌な予感がしていた。


今日は、


“まあ大丈夫かな”


と思っていたから。



夜行バスで奈々と美咲へ出会ってから、少し考え方が変わっていた。


“安心できる準備”をすることは、恥ずかしいことじゃない。


そう思えるようになってきた。


でも今日は、そこまで長距離じゃない。


お父さんも一緒。


だから悠斗は、“軽めの準備”しかしてこなかった。


「……失敗したかも。」


悠斗が小さく呟くと、お父さんが首を傾げる。


「ん?」


「なんでもない。」


でも実際は、かなり不安だった。


さっき飲んだジュースも地味に危ない。


しかも渋滞は終わる気配がない。



その時。


前の席から、聞き覚えのある声がした。


「……終わった。」


悠斗は目を丸くする。


「え。」


少し身を乗り出す。


すると。


「あっ。」


奈々が振り返った。


「うそ!」


美咲も驚いた顔をしている。


悠斗は思わず笑ってしまった。


「また会った!」


お父さんも苦笑いしていた。


「すごい偶然だな。」



奈々と美咲は文化祭の打ち上げ帰りらしかった。


二人とも少し疲れた顔をしている。


奈々は座席へぐったりしながら言う。


「文化祭、めっちゃ疲れた……。」


「でも楽しそうだった。」


「楽しかったけど疲れた!」


そのやり取りが少し面白くて、悠斗は笑った。


でもその数分後。


奈々が小さく姿勢を変える。


「……っ。」


美咲も同じタイミングで苦笑いした。


「やばい?」


「ちょっと……。」


悠斗はなんとなく察する。


どうやら二人も危ないらしい。


奈々はため息を吐いた。


「最近イベントのたびにこれ。」


「プール、映画館、文化祭……。」


「全部じゃん。」


三人は顔を見合わせ、小さく笑った。


でも、渋滞はまだ続いている。



しばらくして。


奈々が小さく言った。


「……今日はちゃんと準備してる。」


美咲も頷く。


「私も。」


その言葉を聞いて、悠斗は少しだけ羨ましくなる。


自分は今日は“軽め”だった。


その違いが、じわじわ不安になっていく。


悠斗は小さく窓を見る。


外は真っ暗だった。



さらに数十分後。


悠斗もかなり限界が近かった。


バスが揺れるたび、嫌な感覚が強くなる。


「……っ。」


奈々が気づく。


「悠斗くん?」


悠斗は少し困った顔で笑った。


「……やばい。」


「そんなに?」


悠斗は小さく頷く。


「今日ちょっとしか準備してない……。」


奈々と美咲の表情が少し変わる。


二人とも、その不安が分かる顔だった。


美咲が優しく聞く。


「大丈夫そう?」


悠斗は数秒迷ったあと、小さく言った。


「……たぶん少しは。」


完全な安心じゃない。


それが余計に不安だった。



その時。


バスが少し大きく揺れた。


「あっ……。」


悠斗の肩がぴくっと震える。


次の瞬間。


じゅわっ……。


小さな感覚。


悠斗は一瞬固まった。


「……やば。」


顔が熱くなる。


少しついてしまった。


でも。


完全じゃない。


薄い準備が、少しだけ助けてくれていた。


悠斗は上着を下へ引っぱりながら、小さく息を吐く。


「……助かった。」


奈々が優しく笑う。


「少しで済んだ?」


悠斗は頷く。


「……うん。」


その時、美咲が静かに言った。


「やっぱり、“安心できる準備”って大事だね。」


悠斗は小さく笑った。


「……ほんとに。」



その空気のあと。


奈々も小さく息を吐く。


「……使う。」


じゅっ……。


静かな車内。


でも奈々の表情は、“助かった”って顔だった。


美咲もそのあと静かに力を抜く。


じゅわっ……。


二人とも、前みたいなパニックではない。


“安心できる”って分かっているから。


悠斗は、その空気を見ながら思う。


(……なんか、落ち着く。)


恥ずかしいのに。


でも、“大丈夫”って思える。


それが不思議だった。



しばらくして。


渋滞が少しずつ動き始めた。


サービスエリアの灯りが遠くに見える。


奈々が大きく息を吐く。


「……生き返る。」


美咲は吹き出す。


「まだ着いてない。」


悠斗も笑った。


その時。


奈々が小さく言う。


「でもさ。」


「ん?」


「前より怖くない。」


その言葉に、美咲も静かに頷く。


悠斗も小さく笑った。


“分かってくれる人がいる”。


それだけで、こんなに違うんだ。


夜の渋滞の中。


静かな車内には、少し恥ずかしくて、でも安心できる空気が流れていた。

第2話「渋滞の帰り道」を読んでいただき、ありがとうございました。


今回は悠斗くん視点で、


“準備の安心感の差”


をかなり意識して描きました。


第1話では、


「自分だけじゃない」


という安心感を知った悠斗くん。


でも今回は、


「今日は大丈夫かな」


と思って準備を軽くしたことで、不安がかなり強くなっています。


特に、


* 少し焦る

* “足りないかも”と思う

* でも完全には崩れない


という空気を大切にしました。


これは、悠斗くんの中にすでに、


“安心できる考え方”


が少しずつ育ち始めているからです。


また今回は、奈々と美咲が、


“分かってくれる側”


として自然に描かれているのもポイントでした。


夜行バスで偶然会っただけだった三人が、少しずつ、


「安心できる空気を共有できる存在」


になり始めています。


この頃から悠斗くんの中では、


“恥ずかしいこと”


より、


“安心できること”


のほうが大事になり始めているのかもしれません。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ